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レアってマジ!?~巻き込まれて異世界探訪~  作者: 晶良 香奈
  神聖エリシオ教国 編
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第65話

 大神官、爆発! そして……

 玉座の前で仁王立ちになり、両手を差し伸べて天を仰ぐ大神官。その姿勢は、大聖堂で光を集めるいつもの光景だが。


「なんだか光が小さくないか……?」

「そうです、わね。いつもはもっと眩しいですけど」

「あの両手からあふれるくらいのはず、なんだがな」


 貴族たちがささやく。


 そう、いつもの大神官なら、全身を浸すほどのまばゆい光の珠に包まれて、まさに神々しい姿なのだ。


(そりゃ無理だろ。杖の上昇分がないんだからな)


 それに、とオレは考える。ゲイザーが光を集めた際の闇を処理していたからこそ、純粋な光だけを扱えたのじゃないか。


 使う人間の能力を上昇させ、周りへ状態異常を振りまいて従わせる闇魔法のゲイザーはまさにうってつけの魔獣だった。そこまで読んで『結合(コネクト)』させたのなら、最適の魔道具と言えるのだろう。


(センスがあると言えばあるのかな。かけられる魔獣の方にしたらたまったもんじゃないが)

 そんな事を考えていたが、


「なぜだっ、なぜだっ、なぜなんだあぁっっ~~!」


 響く吼え声に思考を中断させる。両手をあげたまま、全身を震わせて大神官が喚く。


「どうしてっ、光が集まってこないんだっ! わたくしの力が衰える筈などない! 杖など無くても、わたくしは、光の大神官! 光を一番扱える筈なのにぃぃっっ~~!」


(充分扱えていると思うけどな~)

(いつもはもっとすごいんです。それから見ると納得できないんでしょうね)


 リィが切なそうにつぶやく。


(能力は一番ありましたの、あの方。努力もされてましたのに……どうしてこんなことになってしまったんでしょうか)


(本人の問題じゃよ、これは)

 ガル爺さんの声には苦い響きがあった。


(初代のアレには光が一番という気負いがなかった。ただただ、他の国に弾かれた者たちを受け入れたい、落ち着いて過ごせる場所を作りたい。それだけを考えておった。彼らを守るために使ったのが光魔法というだけじゃったのだが)


(それがいつの間にか『光が一番』になっちゃったんだよね。わかりやすくてよかったんじゃない?)

 ルゥが軽く答える。


(難しい理屈より、目で見て実感できることの方が強いよ、世の中は)

 達観してるなルゥは。それだけ苦労してきているって事なんだが。


「もっと、もっと! 光よぉぉ! 集まれえぇぇっ!!」


(むっ、いかん!)

 ガル爺さんが慌てだした。


(制御が出来ぬ量の光を集めおったぞあの男! このままじゃとバランスが崩れてしまう!)


 爺さんの言うとおり、大神官の姿が白く輝きだした。いつもと同じ、ではなく、それよりももっと強烈な鋭い光が渦を巻き、近寄ることが出来ない。


 おまけに足元からは闇が這い上がってきている。そりゃそうだろ、光と闇は一対だ。今までは杖のゲイザーが闇を制御してたから無事だっただけ。ステータスが下がり、闇の制御ができないなら、集めた光はただの攻撃魔法となる。


 その場合、標的はここに居る者たち全員だ……!


 オレは『バリア』を張ろうとしたが。


「リィ、光をお願い!」

「ええ、ルゥ姉さまは闇を!」


 姉妹姫が手を取り合い、片手を光と闇の塊に向けて制御を始める。


 聖獣が横に従って遠吠えを上げると、その力が格段に跳ねあがり、姉妹姫の手によって光も闇も渦を巻いて溶け合いながら穏やかな流れへと変わっていく。

 暴走しかけた光は闇と混じりあい、金属的な輝きを徐々に消していった。


(おお、なんと見事な調節じゃ!)

 ガル爺さんが感嘆の声を上げる。


 膨れ上がった光は徐々に小さく弱くなり、そして最後に座り込んだヒトガタの塊を残して消え去っていった。


 最後の光が消えるとそこに残ったのは。


「大神官、さま?」


 金糸を縫い込んだローブも真っ白な神官服も変わらないのに、中身が随分変わっていた。


 ふっくりと豊満な身体がしぼんで捩れて枯れた感じになっている。ため込んだ脂肪がどこかへ消え、伸び切った皮膚が油気を失って縮み、くすんでしまっている。がくがくと細かく震える様子からすると、筋肉すらもないかもしれない。


 だというのに、表情は緩んで何の感情も浮かんでいない。大人の虚飾を振り払った幼子のようなあどけなさ、が一番近いだろうか。緩み切った口からはよだれが垂れて膝に落ちていくが、気にする様子もない。瞳は宙を見据えているものの瞳孔が開いて焦点があっておらず、ぼうとしたままだ。


 姿かたちは大神官、であるのだが、中身がどこかへ消えている、そんな感じだった。この大広間に居る誰もが、そんな大神官に近寄ることが出来ないでいる。


(ね、ねえ、ケイン。あれ、どうなっちゃったのかな?)

 ルゥがオレの腕にしがみつきながら尋ねてくるが、オレだって分からない。


(やはり、の。許容量を超えてしもうたか)

 重いため息とともにガル爺さんがつぶやく。


(許容量を超える? あの光の事か?)

(そうじゃ。この世に生きるものにはその生物としての枠がある。それは何としても越えられぬもの。その枠を超えようとするなら、相当の覚悟が必要となる)


 乗り越えた本人が言うのだから重みがあるよな。


(己の器以上に力をため込むことは禁じ手じゃ。制御できねばあふれた力がどこへ向かうか、冷静に考えればわかることじゃが。過ぎた力に慣れるとこういう事態になる)


 過ぎた力……この場合それは杖を指すのだろう。


(こやつはただ杖の力に頼って己の欲望を膨らませよった。国の成り立ちからいえばそう思い込むのも無理はなかろうが、大元が違う。光が至高などとアレは言うとらんし、国を守る一手段として光を使っただけなのに、いつの間にやら他の魔法をみくだして、挙句に闇を悪とするとはな。これがこの男の限界であろうよ)


 限界か。そう言われれば反論も何もないな。


(もうこの男に光を御することも、いや、魔法を振るうことさえできぬじゃろう。ただ生きるのみの存在になり果てたのじゃからな)


 その言葉を聞き、リィが後ろを向く。

「衛兵。この罪人を貴人牢へと連れて行きなさい」


 貴族待遇としたのはせめてもの情けだろう。まあ、どこに入れたとしても本人に分かりはしないだろうが。

 衛兵が3人、おっかなびっくりで大神官だった人を立たせて出ていった。


 次にリィは玉座の段に上る。て、なんでオレまで引っ張るんだよっ。こらルゥ、お前も同調するなってっ。

 こいつら、大広間に入ってから今までオレの腕をつかんで離さないんだ。逃げるに逃げられす、オレはただその場にいるけどな。


 因みに爺さんはオレの真後ろだ。二人とも『陰伏(ハイド)』をかけっぱなしだから、誰に見られるわけでもないんだけど、居心地悪いんだよ。いい加減に手を放してくれないかな。


 ルゥとリィ、二人して玉座の前に立ち、みんなの方を向く。オレも見えないながらそっちを向いている。うわぁ、たくさんの視線がこわぁい。


「この広間に居る皆様、今の出来事をご覧になっていかがでしたか」

 リィが問いかける。


「ここは初代、光のシスターが興した国です。だからこそ、光魔法を尊び崇めてきました。光こそ至高、それ以外は不要、と。ですが、それは物事の一面しか見ていなかったのです。現に、光の大神官が己の力以上に光を集めた時、何が起きましたか? 光と同時に闇も呼び寄せて、しかも制御できなかったのですよ」


「そ、それは! 大神官様の力が衰えただけではありませんか!?」

 貴族の誰かが声を上げる。それに賛同する声があちこちからあがった。


「では訊きます。なぜ、大神官様の力が衰えたのか、分かりますか?」

「それは……あの杖! 杖さえあれば大神官様は制御できたはずです!」


 その杖を壊した奴がわるいんだ! と、その貴族は続けた。そうだそうだ、あの杖だ! そう、貴族が騒ぎ出したが。


「あれは正しい名を『魔人の杖』といいます。魔獣ゲイザーがあの杖にくっついていて大神官様の力をフォローしていたのですよ。それでもあなた方は必要だというのですか?」


「ま、魔獣? ゲイザーだとっ!?」

「あれは精神を操る闇魔法を使うと聞いているが……まさか!」

「で、では、杖が消えた時覚えためまいは、精神異常が消えた反動だったか!?」


 おお、貴族でも頭の回る奴が居るんだな。正解だぞ。


「そ、そんなはずはないっ。儂は異常なんぞ受けておらんぞ!」


 あんた、真っ先によろめいてたじゃないか。横の奥さんに支えられてただろ。

 どんだけ面の皮が厚いんだよ。


「そ、そうか。異常を受けてたのなら話は分かる。この頃どうしても大神官様のいう事が理不尽に思えたのだが、何故か反対できなくてな」

「おお、お主もか。いや、私もそうなのだ。朝議でも声をあげられなくて」

「ワタシも」

「吾輩もだ」


 若い貴族が何人も同意してざわめく中、リィが言葉をつなぐ。


「『魔人の杖』を壊したために大神官様の力が衰えたのは事実。でもそれ以上に大事なことは、光は光だけで存在することは無い、という事です。光と闇、同時にこの世にあってお互いを支え合うものであるからこそ、世界は続いているのです。リィラントゥレーネ・フォン・エリシオが光を支え、姉ルゥエントゥリーナ・フォン・エリシオが闇を支える、それこそ、この国の根幹でなくてはならないのです!」


 リィの演説に一同が静まり返る。まだ納得できないものもいるかもしれないが、大神官の有様を見た後だけに反論できないよな?


 そうして沈黙が広がった大広間、だが、廊下に通じる大扉が乱暴に叩かれ、次いで大きく開かれた。


「何事です!」

 リィの声が飛ぶ。それに答えるのはかすれた声。


「ほ、報告しますっ! 城外の平原に、軍が、軍隊が押し寄せてきていますっ!」


    「「「「なんだとぉっっ!!」」」」


「どこの国の者かわかりますか!?」

「フォ、フォルカイス王国の、旗を、掲げてっ! それと!」


 息を荒げた兵士が大きく叫んだ。


「召喚された『勇者』たちが、一緒に来ていますっ!!」






 読んでいただき、ありがとうございます。


『勇者』たち登場!

……1行だけ、ですが。

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― 新着の感想 ―
遂に来たか。 勇者どもがどういう認識なのかで対応が変わるだろうね(´・ω・`)
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