第64話
光の大神官VS姉妹姫。冒険者とリッチロードが隠れて応援(笑)。
今、周りから見るとどうなるか。
声が響いて振り向けば、入口の扉が大きく開き、姉妹姫がそこに居た。そして揃って一歩踏み出し、堂々とした態度でじゅうたんの上を移動していく。
黒髪に紺色の瞳を持つ闇魔法の使い手はロイヤルブルーのドレスを身に纏う。足元からグラデーションで腰に至ると華やかなピンクになり、そこからまた肩口へグラデーションとなっていく。ところどころにつけられた小さな宝石がきらめき、まるで夜空を切り取ったような華やかさだ。
もう一人、金髪で緑の瞳持つ光魔法の使い手は逆のグラデーションだ。腰の部分がロイヤルブルーで、肩口と裾へ行くにしたがって白に近いピンクのレースとなっている。そのレースに編み込まれたビーズがキラキラと光を反射してまさに光のベールを纏っているかのよう。
真ん中にひとり分の隙間を開けて、二人が歩調を合わせて玉座に近づく。その両脇には光と闇の聖獣が周りの人間に歯をむき出しながら付き従い、誰も傍へ近づけない。
姫たちの肩から腕の位置が微妙におかしいが、それに気づく者はいなかった。
(あれは居なくなったリィラントゥレーネ・フォン・エリシオ王女ですわ、ね?)
(逃げていった王女がどうしてここに?)
(待て、あの隣にいるのは、第一王女では?)
(え、なんだと? 闇の使い手のルゥエントゥリーナ・フォン・エリシオ、か?)
(あの姫は『黒の森』へやられたのではないのか?)
(ええ、ええ、そう聞いていますわよ、私)
(な、何故、その二人が一緒に居るんだ)
(仲が悪いと聞いていましたのに、そんなこと無さそうですわ?)
((((ど、どうなっているんだ?))))
貴族たちのささやきを完全に無視して進み、二人と2体は玉座の大神官と向き合って立つ。
まずは大神官が口を開いた。
「これはこれは姫様。逃げ出したあなた様がこのようなところにおいでとはどういう了見でしょうかな。国を放りだされた罪は重いですぞ」
「つんぼ桟敷に置かれた覚えはありますが、放り出したことは一度もありません。其方こそ王を僭称するとは何物にも代えがたい罪を背負いましたね」
流石は年若くとも王族。発声法といい言葉遣いといい、満点のリィ姫だ。
「ほう、王を僭称するとはどういうことですかな? あなた様が居なくなったればこそ、わたくしが起つのですよ」
「ではワタシが帰ったからには、其方が起つ意味がないですね。それにもうひとつ、重大な過ちを犯しています」
「重大な過ち、ですと?」
「そうです。確かにワタシは王族の生き残りですが、それはワタシだけではないのですよ」
そう言って、リィはルゥを見やる。ルゥは顔をあげてしっかりと大神官を見つめた。
「アタシはルゥエントゥリーナ・フォン・エリシオ、この国の第一王女。エリシオ教国の礎を守るため、『黒の森』で闇を管理しているわ!」
「ふっ、闇は悪の塊でしかないですか。それを管理する? 国の礎を守るため? 馬鹿を言う暇があるなら、さっさと森へ帰りなさい。闇魔法などという王族に相応しくない特性を持つあなたを誰も認めはしないでしょう!」
「お黙りなさい! 光と闇は同等の存在です。焔と水、風と地が両方あるように、光と闇は両方揃わないと万全ではありません。だからこそアタシとリィ、ルゥエントゥリーナとリィラントゥレーネがこの王族に生まれついたのですから!」
おお、ルゥ立派だ。そこまでオレの言葉を信じてくれたんだ。なんか、ジ~ンとくるな。
続けてリィが断罪する。
「其方に王族を名乗る資格などありません! お退きなさい、この痴れ者が!」
「今更のこのこと帰って来て退きなさいもないものです。あなた様は一度城を捨てた。その時点でもう王族とは言えないのですよ。衛兵! この痴れ者をつまみ出しなさい!」
勝ち誇って呼ばわる大神官。それで事は終わるはず、そう思っての勝利感に酔っていたのだろうが……いかんせん、この場に居たのは年若い姫たちだけではなかったのだ。
(お~お、杖の力を借りて吠えるとは。みっともない男じゃのう)
後ろでガル爺さんが呆れてため息をつく。仕方ないな、あんな杖を持たされりゃ誰だって調子に乗るさ。
(い~や、少なくともお前さんは違うじゃろ。今それだけの力を持ちながら気にもしとらんのが証拠じゃ)
それはオレが臆病だからさ。平凡に穏やかに日々を過ごすのがオレのモットーだからね。
(それは無理じゃろ)
煩いよ爺さんは。
さあて、それじゃ行こうかね。オレは杖を見据えながら魔法陣を展開した。
(『術式消滅』)
唱えた瞬間、魔法陣が赤く染まり、次いで白く輝く。その光は誰の目にも見えたようで、あちこちから驚愕と混乱の声が響いた。
しかし、一番驚いたのは大神官だ。
「な、な、何を発動したっ! こ、こんな大きな力を誰が動かしたのかぁっ!」
流石は大神官まで上り詰めた男だけあって古代魔法の力に気づいたが、時すでに遅かった。
光は杖に収束し、ゲイザーの瞳の奥に突き刺さる。その瞬間、細くしか開かなかったゲイザーの瞳が極限まで見開かれた。
その瞳の奥、真っ黒だった奥の奥で光が弾け、ゲイザーの瞳を焼き尽くしていく。大きく開かれた瞳が白く燃え尽き、そして周りの宝石や杖本体を巻き添えにしてボロボロと崩れていった。
いや、崩れるというより粉のようになって消えていく、というのが正確だろう。
(分子崩壊、という感じだな、これは)
世にあるものすべて分子の結合である、というのは元の世界では常識だった。これはその常識が目に見える形になっているだけだ。だが、凶悪なのは間違いない。
(ゲイザーだって、望んで杖と『結合』したって訳じゃないだろうしな。それを解除するのは消滅させることしかないなんて、性質悪い魔法だぜまったく)
破壊はもう杖の全体に及んでいた。輪郭がぶれ、脆くなり、そして粉状に散っていく。
「な、な、何ですか、こ、こ、これはぁっっ!!」
大神官が叫ぶうちに杖は消滅した。あとに何も残さず、杖があった事さえ分からないほどに。
熱狂していた人々は誰もがふらつき、座り込む者さえ出てきた。状態異常が解除され、正常になった途端に、その負担が身体に来る。城の侍従やメイド、侍女たちは一様に座り込んで頭を振っていた。
「お、俺たちは今まで何をしていたんだ……?」
「わ、私、姫様の世話をまかされていたのに、何もしていなかった……」
「アタシもだわ…姫様の食事は残り物でいいと言われて、それで……ああ、どうしよう!」
「俺たちもだ。姫様の身辺警護のはずが、部屋に閉じ込めていただけだ……」
「「何故だ? どうしてだ?」」
「「「何があったんだ?」」」
「ひ、姫様ぁっ! お許しくださいませっ!」
「ああぁ、どうしたらいいの私たちはっ! なんてことをやってしまったのっ!」
「「「お許しを! お許しくださいませ!!」」」
城の連中は誰もが恐慌状態になってうずくまり、懺悔と謝罪を繰り返すだけの人形になってしまった。
一方、貴族連中にも変化が出てきた。頭を振ったりうつむいたりする貴族が多い中、真っ青になったものが何名かいる。その最先端が宰相だ。自分のやっていることを十分に自覚しているという証拠でもあるな。
その宰相にリィが声をかける。
「マディーノル・コーランド宰相。其方のやったことは明らかに売国行為です。あとできっちり究明して差し上げますから、逃げるなどと考えないように。良いですね?」
「はっ、あのっ、いえ、そ、そんなっ!」
「そこに居る宰相補佐のヒューバート・チェラス。あなたも同罪ですよ」
「ひぅっ!」
そのまま腰を抜かして座り込む宰相補佐。宰相はもはや呆然自失となっている。
「み、認めぬっ! わたくし、わたくしは認めぬぞぉっ!」
阿鼻叫喚の坩堝の中、突如として声が上がる。
誰もが振り向き注目する中、ふらつきながらも大神官が吼える。
「ワタクシは光の大神官っ! 今ここに光を集めて誤った古い因習を打倒して見せるぅぅっっ!!」
読んでいただきありがとうございます。
対決場面が長くなりすぎたので分割しました。
なので、『勇者』たちの登場は次回以降になります。
書いていたら長くなりすぎて……すいません。




