第58話
将軍、つおいです。
「私を鑑定するのか?」
驚いてオレを見る将軍。
「さっきから話を聞いてると、どうも基本的なことで食い違いがあるように思えるんだ。それが何かはっきりさせたいんだが、駄目か?」
「出来るのなら構わないが、今まで私を鑑定できた人間など居なかったぞ。お主には可能なのか?」
「多分な。じゃ、『鑑定』(こそっと『看破』)」
出てきた答えは予想外の結果だった。
名前 フェルディート・ラルカンス
職業 神聖エリシオ教国 将軍
POW 441
STR 382
VIT 518
DEF 337
MGP 109
MGR 207
INT 114
LUK 187
EXP 392
状態異常 妄信・隷属(どちらも軽度)
※ 妄信…かけられた相手の言葉を疑わない。
隷属…かけられた相手の言葉をすべて肯定する。
※ 状態異常は他者からの影響を受けています。
排除することをお勧めします。
スキル 両手剣術 片手剣術 槍術 盾術 馬術 格闘術
特殊スキル 闘神の加護
うは~っ、なんじゃこりゃ!? ビックリのオンパレードだ。
数値がけた違いに高い。人間の中でも上位クラスだな。
POW(体力)、STR(力の強さ)、VIT(持久力)、DEF(防御力)どれをとっても鍛えられている。
MGP(魔法攻撃力)はそれほど高くないから魔法は無理かもしれないが、MGR(魔法防御力)が200超えならちゃちな魔法なんぞ弾き飛ばしそうだ。
惜しむらくはINT(知性)が低い。魔法が使えない理由でもあるんだろう。
スキルには騎士に必要なものがズラリッと並んでいる。『闘神の加護』なんて特殊スキルがあっても、ここまで来るには相当の鍛錬が必要だったに違いない。
……脳筋になってなきゃいいけど、な。
それにもまして、重大なことが見えた。状態異常、だと? 一体だれから……って考えるまでもないか。
オレは目の前の端正な顔を見つめた。
「あんた、状態異常になってるよ。それも『妄信・隷属』だ」
「なっ、なんだと!」
分かりはしないと思っていたんだろう、酷く驚いた将軍が椅子を蹴立てて立ち上がる。
「何故そんな出鱈目をほざく! よし、今すぐ大聖堂へ行ってステータスを確認してもらおうではないか!」
「それはお勧めしないな」
「何故だ! 嘘がばれるからか!」
「オレは嘘なんて言ってない。あんたの家なら、ステータスを見る道具くらいあるんだろう? それで見てみるといいさ」
つきはなしてやると、
「それもそうだ。ステータスくらいどこでもいいのに、何故私は大聖堂などと……」
そこが状態異常の大元だよ、なんて言っても今のところ信用しないだろうから、黙っていた。
「もう一つ言っておく。今話した内容は他に漏らさない方がいい。あんたの状態異常を起こした人間に、気が付いたことを知られるとマズい事が起きる」
「何故だ? そいつを突き止めないとまた同じことが起きるぞ」
「突き止める前にもっときつい状態異常を掛けられるだけだ、間違いなく」
「そ……そうか。今だって分からないのだから、な」
現実が見えたんだろう、力なくうなずく将軍。
「オレの言葉が信じられない、ってのは分かる。だから自分の眼で確かめるんだな。ただし、道具でだ。人間が介入すると厄介なことになるかもしれない」
大聖堂とか大神官とかを言っちゃうと今の段階では却って疑われるだけだしな。
「そう、だな。魔道具なら誤魔化しようがないことは確かだ」
オレが意図しない方向で納得したようだ。
「ステータス画面を見たら、オレの言葉が正しかったと確信できるはずだ。そうしたらまた話をしよう。それまではあんたにとって、オレは得体のしれない人間でしかないからな。じゃ」
「ま、待て。ひとつ訊ねる。私についている状態異常をお主は解除できるのか?」
「出来る、な。(まだやったことないけど)」
「ならば、この後に私の邸へ来てくれないか? 解除を頼みたい」
オレはちょっと悩んだ。確かに、異常があれば直しておきたいのは当然だ。けど、問題は。
「今解除しても、またかかる可能性がある。それでもやる価値があるのか?」
大元を特定して叩かないと、単なる追いかけっこになるだけだ。こちらが不利になるだけの。
「そう言うからには、どこの誰がやっているのかお主は分かっているんだな?」
「見当はついている、とだけ言っておこう(ほぼ確定だけど)」
「……ならば余計に頼みたい。おぬしの言うとおり、王族の処遇に対してどこか鈍感になっていた部分があると認めざるを得ないようだ。このような事では初代に顔向けができぬ。少なくとも公正な気持ちを持ちたいのだ」
言いたいことは分かるけどね~。
「オレはあんたの邸を知らないし、正面から入っていくつもりはない」
「だ、だが」
「どうしてもというなら、明日、ここで会おう。それ以外は無理だ」
「分かった。同じ時間でいいか?」
「そちらがいいのなら」
「了解した。では失礼する」
将軍が席を立って入口へ向かった時、オレは座ったままで『陰伏』を自分に掛け、そっと隅へと移動した。
俺の気配が消えたのに気づいたのか、将軍は急ぎ足で戻ってくるとオレが座っていた椅子に手をかける。
「まだ温もりがあるという事は、あの男、幻影ではなかったのだな。私が気配を捉えられないとは……恐ろしい技量を持っているものだ。こうなるとあの話、真実かもしれぬ。これからはより慎重に動く必要があるな」
ひとり呟くと今度こそ裏庭から出ていった。でもな~、オレが凄いんじゃなくて、『陰伏』を教えてくれたオーリィが凄いだけだと思うんだが。
この後、しばらく城中を歩き回って片っ端から鑑定をかけてみたら……ほぼ全員が『妄信・隷属』になっていた。人により強弱はあったけどな。
これだけ広範囲にかけられるスキル、あるのかなぁ? ガル爺さんに訊いてみるか。
当初の目的は達したから帰ろうとしていたら、急に人がバタバタ動き出した。しかも、『妄信・隷属』が強くかかっている者ほど動きが大きい。
(これはひょっとしてビンゴ、か?)
走り回る人たちにぶつからないよう柱の陰に移動して見守る事数分、真っ白な神官服を纏った一団がやってきた。
誰もかれもがシミひとつない白い服に白い帽子、白い手袋をして、手にするのは白く染め上げた杖。おまけに顔には白い仮面とくると、もはやゴースト集団にしか見えない。
そんな塊の中に、ひときわ目を引く巨漢がいた。衣服は白だが、襟やら袖口やらに金糸の刺繍がこれでもかと縫いこまれ、帽子に至っては金色一色に輝いているばかり。手にする笏にはダイヤモンド、ルビー、サファイア、トパーズ等の宝石がこれでもかと埋め込まれているが……
(あれはいったい、何だ? 持ってる奴もそうだが、浮いてるな)
脂ぎった肌に分厚い唇。ゲジゲジ眉毛の下にあるのは真っ赤に充血したぎょろ目があちこちを忙しく見まわしている。大きく肥え太った身体は動くのも辛そうだが、持っている笏から力が身体全体を覆うように流れて助けている。
その笏の先端にあるモノ……それが一番違和感を覚える。
きらめく宝石に埋もれて外観が分からなくなっているが、あれは。
(あいつ、『目』だよな。それも随分と陰険そうな雰囲気がする)
じっとしていると周りに紛れて分からないが、時々薄目を開けて辺りを見据える。見回すなんて可愛いもんじゃない、因業じじいが因縁をつけるネタを探すときのあの目つきだ。しかも。
(あの『目』が動くと状態異常がばらまかれているな)
そうなんだ。まるでサーチライトのように定期的に視線の先へ『妄信・隷属』を飛ばしている。それに当たった人間は軽症から中程度に、中程度から重症へと移行していくようだ。
(あんな物騒なもの、元からあったのかな?)
どうも違うような気がする。狙って作れるものでもないだろう。
調べる価値がありそうだ。
(こそっと『鑑定』それと『看破』)
飛ばした途端、つむりかけた『目』が大きく開き、辺りをギョロリとひとなめする。
(いっけね。見つかったか?)
首をすくめて柱の影からうかがう。
『目』はなおもギロギロと辺りを探っているが、視線が定まらないところを見るとそうでもないようだ。
(魔法を当てられると感応するタイプかもしれないな)
ちょっと安心して、出てきた結果に目をこらす。
(これはちょっと問題かもしれないな)
光の神官たちがKKK団みたいになりました(笑)
読んでいただきありがとうございます。




