第50話
里でも久しぶりに大騒ぎです。オーリィの食べっぷりが凄い。
その夜、『鵺の里』の長老宅で宴会が開かれた。主役はもちろん「アーミン様」である。
元々魔術師や錬金術師は闇魔法に親しみがあり、その流れでアーミンを崇める気風が出来ているという。どこにでもいる筈なのに見つけることが難しい、闇魔法の使い手たるアーミン様、てな具合だ。
「アーミン様っ、これをどうぞっ!」
「いやいや、こちらのナッツの方が美味いですぞ~っ!」
「私の作った干し肉ですっ、め、召し上がって、くださいませ!」
「なんて可愛らしいお姿! わたくし、感激ですぅ!」
「あ、あの、少し触れてもよろしいですかっ!?」
「アーミン様、アーミン様ぁっ!」
何ともはや、熱烈を通り越して熱狂しているな。オーリィ、どうしていいかわからず……てことはなくて。
「キュウイ~」
あ~あ、出されるもの片っ端から食べてるよ。食い物には弱いんだよな~。
因みに、ここへ来る前に倒したグレイボアも供されている。ステーキやら串焼きやらじゃなくって、丸ごとあぶり焼きにしてるんだよ。豪快だ。久しぶりの肉料理にみんな浮き立っている。
「ああ、アーミン様が食事をされるお姿、かわゆいですわ~!」
「生きてるうちにアーミン様に会えるとは……もういつ死んでもいい!」
「俺もだ! 感激だ~!」
何だか危ない会話が聞こえてきたが、無視しよう。
「ケイン殿、楽しんでおられるかな?」
狂騒を離れたところで見ていたオレの横に長老がやってきた。
「ええ、十分に」
差し出されたコップを受け取り、口に運ぶ。ふわりと甘い香りのそれは蜂蜜酒だ。
この近辺に巣を作っていたジャイアントビーを飼い慣らして蜂蜜を収穫しているという。でも、あれって狂暴だった気がするんだが。
「ワシらの中にキラービーと『合成』された者が居りましてな。そ奴がテイムしましてのう。おかげで蜂蜜が採り放題ですわ」
キラービーの方が格上だから出来るんだな~、って。『合成』恐るべし。
これの上位魔法『統合』だとどうなる事やら。古代魔法って出鱈目な強さを持ってるんだ。
今度ガル爺さんに聞いてみようか。
「集都への移住ですがのう……可能なら頼めますかな?」
長老がそう聞いてきた。
「フィリー、だけじゃなくて?」
「ワシらは今までこの里に引きこもっておった。遠い約束もあったし、何よりワシらが歪な存在でもあったからのう。
だが、もう終わりにしてもいいかと考えたんじゃよ。
気づいているかもしれんが、里の者の数は減っておる。ワシとあ奴はスキルの関係でここまで生きとるが、後の者は皆、とおの昔に寿命を終えておる。
ここにおるのは仲間内で一緒になって生まれた者達じゃが、いかんせん、子供がなかなかできんのじゃ。そんな中でようやっとフィリーが生まれよった。この機会を逃したくないんじゃよ」
「分かった。時期は約束できないし、絶対とも言えないが、話はしてみよう」
「それでいい。確約なんてものは出来ぬ事じゃしの」
実はこの宴会で、オレは一人一人を『鑑定』で見てたんだ。『計算』とか『資料作成』とか、『力持ち』や土魔法の『地盤改良』、『掃除』なんてものあった。『采配』って何だと思ったら、家庭内の仕事を回す能力だと説明書きにあったり、とにかくユニークなスキルのオンパレードだ。これだけ多種類あるんなら、総轄達に売り込むこともできるだろう。
「ワシらはここを終の棲家と決めた身じゃ。外へ行く気にもならん。じゃが、若いものにまで付き合えなどと酷なことはしたくない。頼んだぞ、ケイン殿」
明るい表情で長老は語り、蜂蜜酒を飲み干した。
翌朝。皆に見送られてオレとレックルは集都へ帰る事となった。フィリーはもうしばらく里と集都を往復しながら常識を教えてもらうことになる。いわゆる遠距離恋愛、かな。
「ケイン、ありがとうっす。これでオイラも家庭が持てるっすよ」
集都への道を歩きながらレックルが頭を下げる。
「オレは何もしてないよ。レックルがフィリーを口説き落としたんだ。当然の結果だろ?」
「そうじゃないんす。オイラたちサル獣人は他の獣人と違って戦えないし、力だって強くないっす。逃げ足は早いけどそれだけが特性、なんていわれるっすよ。だから、なかなか相手が見つからなくて苦労するんす。でも、」
レックルはオレを見て、
「ケインが声をかけてくれたおかげで、オイラ、フィリーのいろんな顔を見ることが出来たっす。それでフィリーの話も聞けたし、す、す、好き、って言ってもらえたっす。オイラ、幸せっす!」
あ~、そうかいそうかい。レックルの顔も溶けてるぞ、砂糖菓子みたいに。
オレの周り、どうしてこんなあっまあまなカップルばっかりなんだ!?
オレ、何かしたか神様に!?
その後は集都の門に着くまでオレはレックルののろけ話に付き合わされたんだ。
いい加減にしてくれっ!!
「お、冒険者のケイン、だったな」
「ん? ああそうだが」
身分証を見せて門を通過しようとしたら、門番に呼び止められた。
「冒険者ギルドのセシリー嬢から連絡が来ている。戻ってきたら顔を出してほしいそうだ」
ああ、昨日絡んできた3人の件かも知れないな。
「分かった。これから行って来よう」
「そうしてくれ」
「じゃオイラは店に戻るんで。ケインもまた来てほしいっす」
「また寄らせてもらうよ」
「約束っすよ!」
そう言って元気いっぱいに駆けて行った。そんなに走ったらコケるぞ、おい。
オレはそのままギルドまで行きかけ……横の路地から延びた腕に引っ張られた。
「ん、だれっ……?」
「黙って、良いからこっちへ!」
凄い力で路地から路地を抜けてオレを引っ張っていくのは……セシリー?
何本かの裏道を通り、別の大通りへ出たところで、やっと腕を放してくれた。
「は~……すみませんケインさん、失礼な事をしてしまって」
「あ、いや、なんか訳があるんでしょう? オレ、さっき門のところで伝言もらって」
「はい。ギルドまでおいでいただこうと思ってましたが、ちょっと状況が変わりましたので……」
「状況が変わった?」
「はい。うちの馬鹿娘たち……いえ、口が過ぎました。受付の女の子たちがアーミンを見たいと騒ぎだしまして」
「ああ、なるほど」
それでこの状況か。またしてもゲンコツものだったわけだ。
「ですので、このままいらしていただこうかと」
「え、どこへ行くんですか?」
さっさと歩き出したセシリーに続きながら聞く。
「あ、説明が足りませんでしたわね。総轄がお話したいとおっしゃられまして、館の方まで案内を言いつかりました。いかがでしょうか?」
あんた、疑問形を取ってるけど、それ決定だよね。
「……分かりました。で、今からですか」
「はい、すぐですから」
そうして歩くこと十数分、集都中心の大広場に面した邸宅の一軒に連れていかれた。いかめしい柵に囲まれた見事な屋敷で、槍を持った門番が2名立っている。
「冒険者ギルドのセシリーです。ケインさんをお連れしたので取次ぎを」
「はっ、少々お待ちくださいっ」
「では私はここで」
そう言ってセシリーは帰っていく。その先にあるのは多分、お説教の嵐、かな?
オレは南無南無と心の中で手を合わせた。
待つほどもなく、中からタキシードを着こなした執事さんが出てきた。
「冒険者のケインさまですな。お待たせしました、こちらへどうぞ」
丁寧に導かれたのは立派な応接間。ソファもテーブルもふっわふわのピッカピカ。
「只今主人が参りますのでお待ちを」
と言う間もなく、総轄と副総轄がそろって入ってきた。
そうだよな、この二人がバラバラなんて考えられないよな。
ま~た、あの時みたいな空気になるんだろううか?
『鵺の里』編はこれで終了です。
閑話は入れずに次へ進みます。あとでまとめて入れますので。
読んでいただき、ありがとうございます。




