第5話
主人公、ぶっ飛びスキルの説明回です。
スキル一点物とは、文字通りレアアイテム取得が確実にできるもののようだ。ホーンラビットの『ラビット・アイ』はその最たるものだな。レベル1となっている理由は、と。
「なるほど。自分の中で切り替えが必要なのか」
「意識することでスキルを発動させる、という事かの?」
「どうやらそうらしい。レベルが上がるとその辺も何とかなるみたいだけれど、何よりもレア度があがる、となっているな」
「ふむ。確かに、ひとつの魔獣でもレアアイテムが複数種類出ることがあるのう。そこのところが切り替えられるのか。つくづくぶっ飛んだスキルよの」
「ああ、俺もそう思うよ」
「加護に至ってはもはや何も言えぬな。創世神とはのう……本当にお会いしておらぬのか?」
「オレには記憶がないなあ。何せえらくひどい状態だったし」
「あのステータスの壊れ具合から考えても頷けるの」
「それにしても遠回りしたもんだな、まったく」
「時間を掛けねば発現しなかったスキルではあったが……かなりひねった条件だったのう。そういう意味ではお会いしていない筈がないと思うんじゃが」
何やらぶつくさもごもご呟いていたグィード爺さんだったが、はたと頭をあげてオレを見る。
「それはそうとして。ケイン」
「ん、何だ?」
「これを読むんじゃ」
そう言って、オレの目の前にどさどさと積み上げられたのは。
さっきと同じ埃まみれの本やら巻物やら羊皮紙やらの塊で。
「は?」
「その、手に持った本もじゃな。今からすぐに読み切るんじゃ」
「よ、読み切るって、これを全部、か?」
「そうじゃ、ほれ、早くせんか」
オレは呆れて爺さんの顔を見た。冗談だろ、と思ったが、爺さんは本気のようだ。
「無理だよ、オレには意味不明の文字もあるんだぜ? どうやって読みこなせと」
「大丈夫じゃ。さっきの鑑定・看破で確信した。INT(知性)が上限のお前さんならこれくらい訳ないじゃろう」
「どっからその確信が湧いてくるんだろうな……」
ため息をつきつつも、さっき手渡された『魔術の世界~ 禁術への道 ~』を最初から繰っていくと……
「わ~、爺さんの言うとおりだ。内容はさっぱりなくせに、術だけは頭の中に入ってくる」
「言うたであろ? 今のお前さんに解読できんモノは無い。さ、頑張って読破せいよ」
「この無茶ぶり!?」
自分でも不思議なくらいテンポよく読めているはずなのにちっとも終わらない。それはそうだ、爺さんがどんどん積み上げていくんだから。
晩飯作りと後片付けに時間を取られたが、それ以外……要するに食べてる間も本を片手に文字を追っている。それでも終わらず、オレは明かりを増やして部屋に持ち込んだ。
寝る時間を削るなんて、この世界に来てからはやったことがない。西の森に捨てられてから抜けるまでは不安で寝られなかったけれども、前と違ってここでは命の重さが格段に軽い。そんな環境で寝不足は致命的だ。そう思いつつ、爺さんの真剣な表情につられてオレは読書を優先した。
蔵書の内容は多岐にわたっていた。魔法に限らず、この世界の地理・歴史・国々の関係から王族の関係図までがあった。多少情報が古いのは、爺さんの前の職種時代のものだからだろう。でも、そのほうがオレにはありがたかった。
最後の1冊を閉じた時、増やしていた明かりの魔石が空になって消えた。時刻は深夜になっている。本を枕元へ置き、そのままオレはベッドに倒れこんだ。久しぶりの長時間読書をした所為か、そのまま夢を見ることもなく、オレは意識を手放していた。
あくる日、いつもの時間に目が覚めた。妙に頭がすっきりとしている。もう少し眠気が残っていてもおかしくないが、と首を傾げつつ、台所へ移動する。そこに爺さんが居た。
「おはよ、グィード爺さん。その歳で貫徹は身体にわりぃぞ」
「ほっほっほ。まだまだ若いもんには負けられんわ。ほれ、パンが焼けたぞい」
「なら、バターを持ってくる。あ、卵でも焼こうか?」
「おお、頼むぞい」
そのままいつもの食事風景へと流れる。オムレツとサラダにスープ、パン。簡素ではあるがあたたかい朝食をとる。
「読み終わったようじゃな、その様子だと」
バターをパンに乗せながらグィード爺さんが聞いてくる。
「ああ。何とかな」
オムレツを片付けてスープを手に取りながら答える、オレ。
「ならば、今日、ここから行くがよい」
「行く? って、どこにだよ」
「世界へじゃ」
その重く響く声に、一瞬動作が止まる。
「せ、かい…?」
グィード爺さんはかじりかけのパンを皿に戻し、オレを見据えた。
「儂の手元にある蔵書でおおよその情報は飲み込めた。じゃが、それはあくまで紙の上の知識。今のお前さんは頭でっかちの子供に過ぎん。世界を巡り、その地の上で、その身をもって、この世界を受け止めてくるんじゃ。創世神の加護を戴いたお前さん自身で世界を感じ、この先の道を決めておいで。生きることの意味を問うておいで」
「爺さん…………」
「召喚、なんていうお前さんにとっては迷惑極まりない方法で来てしまったところじゃが、嫌いなままでいてほしくはないんじゃ。全部、丸ごと好いてくれとは言わん。気になる場所、好意を返せる相手、そんなものを見つけてほしい。そのために、広く見てくるんじゃな」
「爺さんはどうするんだ‥…?」
「儂か? ほっほ、心配はいらん。お前さんが帰ってくるのをここで待っておるよ」
「そっか。うん、なら、そうするよ」
「そう深刻にならずと、ぶらりと出かけるがええ。今のお前さんに敵うような存在はそうそう居らんでのう」
そう言って、またパンを口にする。オレもスープを飲み干して手元の食器を重ねた。
読んでいただき、感謝です!