第42話
明けましてお目出度うございます。
2022年最初の投稿です。
ギルドで受け取った金目当て、かどうかわからないが、黄色から赤に変わりつつあるマーカーが3つ、後をつけてくる。どうして人の稼いだ金を横取りしようというのか。
こういう時、人間は悪意の塊だと感じずにはいられない。
おや、後ろからひとつ青色のマーカーが来た。ギルド職員かな? こいつは好都合だ。
適当な場所まで来ると振り返る。
「いい加減出てきたらどうだ」
案の定、ギルドで絡んできた男……確かマクドガーだったか……とその連れと思われる男ふたりが出てきた。誰の顔にも愉悦と侮蔑、そしていらだちが感じられる。これから行われるであろう行為に罪悪感など持ってないな。
「お前、最近来た奴だろ。なのに、湧き場を次々と潰しやがって。俺たちの飯の種を奪うとはいい度胸だな。ええ、おい」
マクドガーが睨む。
「そうだぜ。ここの湧き場は魔獣もそんなに強くなくていい稼ぎだったのに、すべて狩っちまうとは何考えてやがる」
マクドガーの右に居る頬に傷のある男が怒鳴る。
「半分狩って残りはまたこの次にすればいいものを、ギルドの言うとおりにやるなんてまじめだねぇあんた」
ヒョロっとした優男が馬鹿にしたように笑う。
「俺たちの飯代を横取りした償いをしてもらおう。まずは今日の稼ぎを全部出せ」
「それとうっぷん晴らしにも付き合ってもらうぞ」
「逃げ場なんてないからね、諦めな」
三方からオレをはさんで迫ってくる。金をとる前に暴力を振るうつもりなのは明らかだ。
オレはちら、と視線を走らせた。ギルド職員はうまく隠れているようだ。あの場所なら大丈夫だろう。
「これでも喰らえ!」
頬に傷のある男が腕を振り上げた。遅い!
指一本で拳を押さえ、反対の手でデコピンをする。
「うおおっ!?」
まっすぐに吹っ飛んで壁際にあったゴミ箱に頭から突っ込む。
ナイスゴール! で良いかな。
「この野郎っ!」
優男が剣を振ってきた。だがこいつの目的は別だ。利き腕の反対側で魔法を発動している。
「ファイアーボール!」
『ウォーター』
てのひらに纏わせた水で握りつぶし、あっさり消し飛ばす。収束もいい加減、威力も大したことない魔法なんぞ、これで十分だ。
「な、何だとぉっ!?」
「ほい、お前もだ」
デコピン再び。こいつもゴミ箱へ直行。
「さて。残るはあんただ。どうする?」
「な、な、何だお前、いやアンタは! どうしてそんなに強いんだ!?」
血の気が引いた顔でマクドガーが後ずさる。
「さあな。言う必要があるか?」
こいつらはピートたちと変わらないな。
強い相手には逆らわず、格下とみると居丈高になって搾取する。同じ人間だが、それだけに情けない。
「逃げ場はない、と言ってたが、あんたにもないことは知ってるのか?」
「なんだと!」
オレの指さす方向に顔を向け、マクドガーがさらに顔色を悪くする。
「言ったはずですよ、マクドガーさん。喧嘩はご法度です、と」
ゆっくりと歩いてくるのはセシリー?
てっきりギルドの男性職員だと思っていたんだが。
「ここはギルドじゃねぇだろうが!」
「ええそうですね。ですが今しがた、あなた方のなさった発言と行為は問題です。ギルド内での取引を見て追いかけ、奪おうとした行為は犯罪ですよ? そのような冒険者はギルドが責任を持って対応しませんと」
理路整然と論破するセシリー。落ち着き払った態度と言い、口調と言い、流石はサブギルマスだけある。
「く、くそっ」
セシリーを見据え、オレを横目にかけ、悪態をひとつ。マクドガーはオレに背を向け、分厚いブロードソードをセシリー目掛けて振り降ろした。
あいつ、バカだ。呆れてオレは動く気にもならなかった。
鋼鉄の刃が女性の細い首を刎ねる軌跡に沿って奔る、が。
「はっ!」
気合一声、ブロードソードは弾かれて見事に折れた。
「なっ、バ、バカな!」
「殺意を確認しました。拘束します」
ロープが伸びてマクドガーをとらえる。あっという間に冒険者は簀巻きにされた。
「くそっ、くそっ、放せ、このけだものめらがあっ!」
セシリーの表情は変わらない。だが、纏う雰囲気が一段と凍った。
「罵詈雑言も確認。こちらに来てからの違反行為が上限を超えました。マクドガー、ハラッド、テリーの3名、ここ集都での活動を禁止して追放処分とします。二度とこの地を踏むことは許されません。
サブギルドマスター、セシリー・ウッドマイルの名において宣言します」
マクドガーの首からチョーカーを外し、サブギルマスとして宣言する。いつの間にかゴミ箱のふたりもぐるぐる巻きにされて同じように取り上げられていた。
「くそ、畜生ぉっ! 放せ、放しやがれぇっ!」
最後まで口汚く喚きながらマクドガーたちが引きずられていく。その声が聞こえなくなり、元の静かな場所に戻った。
雰囲気を元の穏やかなものに戻したセシリーが話しかけてくる。
「ご迷惑をおかけしました、ケインさん。以前からたびたび注意していたのですが、態度が悪く、さりとて違反行為の現場を押さえることが出来ずに今日にいたりました。意図したわけではありませんが、ケインさんをだしに使ったような形になった事、ギルドを代表してお詫びいたします」
「前にも言いましたが、謝罪はいいです。まあ、ギルドの総意という事で受け取りますが」
「ありがとうございます。この件についての報告は後日にさせていただきますね。それでは失礼いたします」
最後まで優雅に会釈して去っていった。
いやぁ、出来る女はきれいだな。たとえ、耳としっぽがあろうとも。
そのあとぶらぶらと宿屋に戻りかけたが、通り沿いの店の一軒に薬屋を見つけて寄ってみることにした。
薬瓶を模した看板が下がっている扉を押してはいると、薬草の匂いが漂う室内に小さな瓶が並んだ棚があった。
「いらっしゃいっす、何を探してるっす?……って、ケインじゃないすか、来てくれたんすね」
特徴のある口調と共に満面の笑みを浮かべたレックルがそこに居た。
「やあ久しぶり。通りかかったので寄ってみたんだが、元気そうで安心したよ」
「元気っすよ。あん時ケインが居なかったらオイラ危なかったっすからね、感謝してるっすよ」
言葉通りのようでオレはうれしかった。人間とか獣人とかで区別するより、心根で分けるべきなんじゃなかろうか。
嫌な目に遭った後だけに、レックルの飾り気のない好意が心に響いた。
そのまま世間話をしていたら、扉が遠慮がちに開く音がした。
「レックル……あの、今、良いかしら……?」
小さな声が訊く。なんていうのか、儚いという言い方がしっくりくる、そんな感じだ。
「え、あ、フィリー。入ってっす!」
「あ、お客様、なの? じゃ、ま、またあと、で……」
「いい、良いっすよ! ケインなら問題ないっす! こっちへ来るっすよ!」
「でも、ワタシじゃ……」
「大丈夫っすよ、ケインは気にしないっすから! 早く入った方がいいっす!」
何だこのやり取り。獣人なのに差別ってアリなのか?
読んでいただきありがとうございます。




