第41話
2021年最後の投稿になります。
仲間を呼ぶにしろ何をするにしても都合がいいから一度外に出ることにした。その際、またしてもオレの後ろへ回り込んだガル爺さんを躱して頭を掴み、こちらから拘束しておく。
「爺さん、悪ふざけが過ぎるぞ」
「ワシのお茶目を見逃すくらいの心の余裕を持つべきじゃぞい」
「んなものいらないね。さっさと行こう」
「なんと狭量な。これオーリィ、こんな奴がいいのかの?」
「うっさい、オーリィを味方に引き込むな」
「キュキュキュキュ!」
「な、なんと! こやつを庇っておる!?」
愕然としたガル爺さんを促して外へと『瞬転』する。今度は「INT」(知性)がしっかり働いて、目の前に魔法陣を描き出して見せた。
なるほど、この方法では起点・終点が設定してないと無理なんだ。ちょっと不便に思えるが、地点が確定している分、魔法等で場所の安全を保てるからいいのかもしれない。
古代魔法に分類されるもので、他にもいくつかあるらしい。例えば『飛行』もそうらしい。
魔法陣を見たからオレにも『瞬転』が使えそうだ。
『ブリックル』ダンジョンは聖都シーリールから徒歩で一日離れた森の中にある洞窟が入口となっていた。ガル爺さんの転移地点は、森の奥にある祠に設定されている。
「ここの扉はワシが管理しておるからの、冒険者ごときが開けようとしても無理じゃ」
建国時に光魔法のシスターがこの森で国の安寧を祈った、という伝説(?)があり、祠はその場所を示すために造られたという。
「国の安寧、は言い過ぎかもしれんが、アレがここで祈りを籠めたのは事実じゃ。あいつは時たま訳の分からんことを言いよったからのう」
爺さんの言う「アレ」が初代のシスターなんだろう。訳の分からん事?
扉を開けて森へと出る。ここは「ベラントの森」と言う名らしいが、オレは変な既視感を覚えていた。
「ガル爺さん、ここ、『黒の森』と同じ感じがするけど関係あるのか?」
そう言ったオレを爺さんは不思議なものを見るような目つきで見返した。
「ケインは変なところで鋭いのう。アレも同じことを言うておったわ。『ここ、あの森と同じね! なんか理由がありそうだわ、調べてみる!』そう言って2、3日何やら走り回っておったが、ある日、『決めたわ、ここを闇の受け皿にして聖都と大聖堂を造る! 黒の森との距離もバッチリよ!』と言い出しおった。
国を建てたとはいえ、当時はまだ村に毛が生えたような集まりじゃったからのう、聖都だの大聖堂だのを考える余裕すらなかったというのに、あいつは大聖堂を立てる場所を勝手に囲い始めおった。『ここと森ふたつは大事なのよ。なんて言ってもごじゅうにとうさんなんだから!』と、訳の分からん呪文を唱えておってのう……」
ちょっと、ちょおっと待て! なんだ今の呪文はっ!
まさか、〇タゴ〇スの定理じゃないだろうな!?
元の世界で叩き込まれた数学の常識を、ここ異世界で耳にするとは……!
思わず座り込みそうになったオレは悪くない、と思う。
「どうしたんじゃケイン? 何やらすごく疲れた顔をしとるが」
「あ~まあ、それはまたあとで。今はこっちだ。オーリィ?」
「キュイッ」
「どうだ、やれるか?」
「キュ!」
一声啼いて、肩口に立ち上がる。
「キュリキュリキュリキュリ~~!」
ちょっと変わった啼き声が森の中に響き渡る。
と、あちこちから。
「キュ~!」
「キュルキュル」
「きゅきゅ?」
「キュ~~!」
「キュイキュイ」
「キュ~イ~?」
幾つもの啼き声が返ってくる。
そして繁みのあちこちから、木の枝から、幹の影からも、銀色の細長い姿が現れてオレとガル爺さんの前に集まった。
肩から下りたオーリィが彼らと合流して何やら話し始める。
「これほどの数を見たのは初めてじゃ。いや、どの子も可愛いのう~」
爺さん、本当にリッチロードか? 威厳ゼロだよ?
「キュルキュル!」
肩に戻ってきたオーリィがオレにほほをこすりつける。多分、うまくいったんだろう。
「ありがとうなオーリィ。それとみんなも力を貸してくれてありがとう。これはお礼の前払いみたいなもんだ。食ってくれ」
ストレージから出したナッツを前に置く。それを受け取ってその場で食べだす者、咥えて消える者、頭を下げて去っていく者と個性も豊かな面々だ。
「これはまた凄いの。アーミンが動くとはな。どこの諜報部もできんことじゃぞ」
「こうまで協力してくれるとは思わなかったけどな」
あの副総轄はアーミンを組み込むつもりでいたに違いない。だが、事態は遥かに上を行っている。アーミンて仲間意識が高いのかもしれないな。
もっとも毎回こうなるとは思わないが。
「それはケイン、お前さんだからじゃよ」
振り向くとガル爺さんが穏やかに笑っている。
「え? オレ?」
「お前さん、肩に居るアーミンを従魔として使おうなんて考えておらんじゃろ? アーミンはな、相手の気持ちを読む力に長けておる。自分の安全を高める意味でも、共に居る相手には気を遣うんじゃ。
オーリィ、だったか、そのアーミンを仲間と思うておろう? 今までそんな存在はいなかったのであろうな。オーリィもお前さんに強い好意を抱いておるよ」
そして大きくため息をついた。
「ワシらも変えていかねばのう。ただの魔獣、ペット扱いなど、アーミンにとっては面白くなかったのかもしれぬ。この世界に生きる、知性ある生き物のひとつ。ニンゲンや獣人や魔族と同格の存在である、と認識せねば」
そこまで大ごとになるのかな。
そう思ったが、オーリィたちアーミンが暮らしやすくなるのならそれに越したことは無い。
肩のオーリィにナッツを差し出す。
「頼りにしてるよ、オーリィ」
「キュイ!」
力のこもった一声が返ってきた。
アーミン部隊(?)が内情を探ってくれているから、オレには出番がない。なので、集都に戻ることにした。
ガル爺さんは『ブリックル』ダンジョンのモンスター強化を図っている。
自分が留守にしているときにモンスターが弱体化して、その結果不要とみなされたことが相当頭に来たらしい。質と量、両方をかさ上げして見返してやると息巻いて、時間の許す限り窯をひっかきまわしている。オレはレアアイテムの入った袋をそっと研究室に置き、ガル爺さんのスタミナ切れが起きないことを祈った。
爺さんに見せてもらった魔法陣で『瞬転』を使い、オレは集都近くの森に戻った。
その後ギルドに顔を出し、受付のセシリーにここ暫くの間に狩った戦利品を渡す。
「いつもありがとうございますケインさん。しばらくお顔を見てなかったのですが、ご無事でお戻りいただき安心しました」
「すまん。ちょっといくつかを泊りがけで回っていたものだから、な」
「それにしてもこれだけ大量に処理してくださって助かります。ただ、無理はなさらないでくださいね。本末転倒ですから」
「ありがとう。気を付けるよ」
「ご留意いただけて何よりです。ではこれが本日の査定した分です。お受け取り下さい」
かなり大きな革袋をそのままストレージへ入れる。数える必要、あるか? ないよな。
さて、と帰りかける。と、前に誰かが立ち塞がった。
無言で目をやると、
「よお、景気がよさそうだなあんた」
にやついた笑いを張り付けた男が立っていた。
「少し分けてくれよ、その幸運をな」
「自分で狩ってこい」
一言で切り捨てて男の横を通る。腕を伸ばしてきたので、『ファスト』を唱え横をすり抜けた。
「マクドガーさん。ギルド内の喧嘩はご法度ですよ」
セシリーが受付から警告を飛ばす。
舌打ちの音を背中で聞きながらギルドを出たが、黄色いマーカーが後をつけてくるので宿屋ではなく裏道へ入る。やれやれ、またヴェルドと同じ展開になるのか。
1月4日から再開いたします。
お付き合いくださりありがとうございました。
皆さま良いお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いいたします。




