第20話
お祭り騒ぎを描いてみました。
こういうのって、心が浮き立ちますよね。
ポン! ポポン! パパーン!
祝砲代わりに打ち上げられ、上空で光り輝き消えていく花火たち。
パパラパッパッパァーッ! パパパッパパー!
磨かれた楽器を高らかに吹き鳴らし、王都の道を練り歩く吹奏楽隊。
ドンドンドドン! ドドドッドンドン! テケテケテケテケ!
大小さまざまな太鼓をそろえ、リズムよくターンを決める打楽器隊。
大通りの両側にはたくさんの花が飾られ、二階以上の窓からは紙吹雪がまき散らされる。
そして、通りを埋め尽くす人、人、人の波。
そう、王都はまさにお祭り真っ最中だ。
「さあ、寄っていってくんな、見て行ってくんな! 獲れたてのサンママだよ! ピチピチしてて生きがいいよっ!」
「『御渡り』が済んでからの一番漁で揚がった奴だ! さっきまで泳いでた新鮮そのもののサンママを買っていきねぇ!」
「ここだけでしか買えないよ! さあさあさあさあ、見て行っておくれ!」
魚市場も活気を取り戻して凄い賑わいだ。呼び込みの声も熱気を帯びて辺りの人ごみに拍車をかけている。
「やっとこの街らしくなったねぇ。『海神様の御渡り』も終わったしさぁ」
「ああ、それに皇王さまからもめでたい発表があったしな」
「本当だねぇ。これでまた安心して暮せるんだからうれしいよ」
「まったくだ。皇王さまさまだな」
街ゆく人々の会話にもお祭り気分が伝染して、足取りも軽い。あちこちに出ている屋台の売り上げも相当なものだろう。店主たちの顔色がそう物語っている。
オレはそんな喧騒の中を抜けて、宿へと向かう。
ちょうど昼飯時なだけに、食堂もにぎわっている。何とか席を確保すると、
「おかみさ~ん、サンママ尽くしのランチセット、1丁!」
「あいよ!」
笑顔で答えたおかみさん、程なくしてドンと目の前にお盆を置く。
「お待たせ、これがうちの自慢さぁ!」
「おお、いただきます!」
以前に聞いたとおり、ごはんから焼き物から、酢の物、煮びたし、お吸い物、茶わん蒸しまで揃い踏み、しかもすべてにサンママが入っている優れものだ。
箸を持って拝み、まずはご飯をパクリ。新鮮な魚の香りが鼻に抜ける。
「う、うまい~~っ」
焼き物はもちろん炭火で焼いた正統派、酢の物には淡い色の花も添えられていて食欲をそそる。煮びたしに至っては絶妙な煮汁が生臭くなく風味を損なわず、素材の持つ味を生かし切っている。茶碗蒸しの中の大きな塊は銀杏か。
どれを食べてもサンママの味、それでいて生臭みはひとかけらもない。新しい魚を使うとこうも奥深い味になるのだと改めて感心した。
完食してしまうのが惜しくなるほどの感動を残して、お盆の上は全て空になった。
「おかみさんごちそうさまでした! 美味かったです!」
「ありがとね!」
プライスレスのおかみさんの笑顔に送られて、オレは部屋に移動する。
膨れた腹をなでながらベッドに寝転び、天井を見上げひとりごちる。
「まずまずの結末に落ち着いたな……」
そう、メイマーニアと別れたあの日から1週間。オレとラミスの頑張りが今日という日を迎えさせたのだ。
岬の洞窟から歩いてくる途中、血相を変えて走ってきた護衛の皆さんに囲まれて否応なく皇城まで連れ込まれたオレ。誘拐犯かと思われた最初は殺気満々で凄まれたが。
「失礼な真似をするな! ケイン殿はボクの恩人なんだぞ!」
の一声で霧散したのには笑った。
その後皇族の皆に引き合わされて経緯を説明したときには、誰もが声を失くすほどの衝撃を受けていた。
「まさか、精霊様ともうお一方が関係していたとは……」
「国の始まりの事だけに、作り話だと思っていたのですが何と不敬なことをしていたんでしょう、私たち」
「今更ながら自分の至らなさが恥ずかしいです」
口々に反省をこぼして、メイマーニアに出会えた幸運を感謝していた。
「父上母上。この際ですから、すべて公開してみてはいかがでしょう?」
ラミスがそう提案する。これ、発案は俺だけど王子からの方が効き目あるよな。
「公開、とは?」
「この国の始まりに精霊様と盟友の聖獣様が力を貸していただいていたことを公表して、お二方に感謝をささげる日を設けるんです。今年は建国265年と、ちょうど区切りも良い年です。これから5年ごとにお祭りをやってもいいと思うのですが」
「そうね、それもいいわね! 皇王さま、ラミスのいう事ももっともですわ。わたくし、良い案だと思いますのよ」
「うむ、『海神様の御渡り』にも先が見えたのなら、これをきっかけに皆の意気を盛り上げる良い機会にもなるだろう。ラミス、その案、具体化してみよう」
「父上、ありがとうございます!」
「いや、お前がそのような立派なことを考えてくれたとは……父も母もうれしいぞ」
「あ、えへへ」
「それと、ケインであったか。我が子を助けてくれた事、感謝する」
「いえいえ、もったいないお言葉です。王子に怪我がなくてよかったです」
「うむ。その礼と言っては何だが、褒賞を出そう。受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
小袋に入ったものを受け取り、その場を辞そうと思ったんだが……そうは問屋が卸してくれなかった。
「ケインさま、冒険者なんですよね? お話を聞かせてくれませんか?」
ラミスの妹姫、フィリアさまがオレを放してくれないんだ。
「オレはまだ冒険者としても半人前で、お話しできるような事ないんですよ」
そう言って逃げるんだが。
「そんなの嘘です。ラミス兄さまがあんなに目をキラキラさせてお話する方が何もないなんて!」
「買いかぶりですって、それ」
「あ、お待ちください!」
迫ってくるかわいい手を躱して部屋から廊下に逃げ出す。角をいくつか回って別の部屋へ行き、そのまま庭へ。皇城内のメイドにしろ騎士にしろ、全員が妹姫の味方なんだ、誰に見つかっても即、通報される。木陰から木陰へと身を潜め、ようやく庭園の隅にある小屋に逃げ込んだ。
「はぁ~、参ったな。オレに偉い人の相手なんてやっぱ無理だわ」
小屋に置いてある椅子に腰を下ろしてぼやく。ここは、時節や用途によって交換のきく椅子やテーブルを一時的に保管・管理する場所らしく、ひっそりとしている。しばらくは息が付けそうだ。
と思ったら。
「ケインさん、やっと見つけた!」
「今度はラミスか。何なんだよ、ここの皇族は」
ぼっちの冒険者を追い回して何が楽しいんだ、ったく。
「え? 誰かから逃げてたんですか?」
「妹姫だよ。話聞かせろってせがまれてなぁ」
「フィリアはまだ外に出たことがないので好奇心があるんでしょう。ケインさんみたいな人とも初めて会うわけだし」
「もっと警戒心があってもいいと思うぞオレは」
「あはは。ケインさんにそう言われても」
何の笑いだよ、それは。
「それはそうとケインさん。少し付き合ってくれませんか?」
「ん? 付き合うって、どこに?」
「見せたいものがあるんです。この奥なんですよ」
ラミスの真剣さに惹かれて頷く。小屋を出て、更に庭園の奥へ進む。緑の迷路のように作られた通路をラミスの先導で歩いていくと、急にぽっかりと開けた小高い場所に出た。
そこには丸く縁取られた花壇があり、中央に向かって徐々に高くなっている。そして一番高い位置に設置された台座には像があった。白く輝くその像は老年の男性で、魔法使いのローブを身に着け、右手に杖、左手に分厚い書物を開いて穏やかな表情を正面に向けている。誰かと聞くまでもないだろう。
「初代様、マーリン様の像です」
「そうか」
「ここは、帝国軍を退けた後にアルマニア皇国樹立を宣言したとされている場所で、皇城はここを懐に抱くような形で造営されました。何故かわかりますか?」
「初代様がここに眠っている。……じゃないのか?」
「流石ですね。その通りです」
ラミスが微笑む。
「初代様が何を考えてここを選ばれたのか、ボクにはわかりませんでした。でも、今なら少しわかる気がします。ここからだと火山も海も見えるから、ですね」
「この方向だと、そうだろうな」
初代様の顔が向いているのは、城から少しずれている。確かに火山と海を両方眺められるよな。
「ケインさんに教えられて、初めて初代様の気持ちに届いたような気がします。ありがとうございました」
「頭を下げられるほどの事じゃないさ。始祖の意が分かった、それが一番だ」
「……はい!」
それからしばらく、二人で初代様の像を見上げたままそこにたたずんでいた。
「あの場所、今思うと不思議な感じがしたな」
寝転びながら思い返してみても、空気が澄んでいた気がする。花壇の花も周りの樹々も、他の所より緑が鮮やかで花も大きく、生き生きとしていた。迷路の奥の隠された場所。
「もしかして、アルスラ様の力が働いていたのかもな」
ふと、そう思った。あり得そうだ。
「きっと、いい関係を築いていたんだろうな」
心の奥底がほっこり温まった。その気分のまま、オレは意識を飛ばした。
そろそろ皇国編も終わりです。
2021.12.7 誤字報告をいただきまして、再度見直して訂正しました。
公開する前に見直しているんですが、祭りの雰囲気に流されて
いたようです。報告ありがとうございました(感謝)!




