第17話
「なあ、アルスラは地の精霊なんだよな? 今はどうしてるんだ?」
『あやつは大人しい奴での、どちらかというと防御専門でな。火山の活性化で周りの環境を大きく変えてしまい、がっくりしおった。それを気に病んでな、ちょっと引きこもっておるのだ』
引きこもっている、ってもうかなりの時間たってるんだけどぉ!?
振り返って王子に確認してみる。
「王子サマ。アルマニア皇国って樹立から何年目だ?」
「そんなことも知らない……ああ、お前はよその国の者だったな、なら仕方ないのか。エヘン! 我が皇家は初代マーリン様から数えて16代、現皇国王カイランス・ゼリトル・アルマニアの治世下にあり本年で265年になるのだ!」
精一杯胸を張って宣言する姿、ちょっとかわいいぞ。
ではなく。
「265年も引きこもってるのか。すごいな、精霊の落ち込み様は」
『我ら精霊や聖獣の感覚は人間のそれとは大きく違うのでな。あやつの気質だともう少し続くであろう』
「まだ続くんかい!」
思わず突っ込んでしまったよ。
『うむ。人間の感覚だと後100年は超えるだろう』
「やっぱ半端ない!」
『仕方なかろう。まあ、この辺りは穏やかではあるが、それでも地の胎動は峻烈でな、時々息抜きを兼ねて逃がさねば大地が割れる。アルスラに代わって我が海底火山からその役を担っていたんだが』
「ひょっとして『海神様の御渡り』がそれ、とか?」
『おお、お主、本当に賢いな。そうだ、以前は忘れるくらいの感覚でよかったんだが、ここ暫く……そうだ、我の咽喉にアレが突き刺さってから、海底火山の管理が難しくなってな』
難しくなった、か。フィリクスに聞いた言葉が蘇る。
「それは12年前かな?」
『時間の流れは良く判らんのだが、そのくらいだと思う。それも何とか抑えてはいたが、最近は火山の入り口に張った結界を無効にするような爆発が起こってしまうのだ』
やっぱりオレの予想が当たってたみたいだな。
「それは、海水とマグマが混じらないようにするための結界、でいいのか?」
『……その考え方ができるとは、お主、ひょっとして…』
「あ~、その話は今は置いとこう。先に片付けるものを片付けてからな。で、だ。結界を張っても駄目な理由、何が原因かわかるか?」
『……思い当たるとすれば、結界の中に水を発生させる何かがあり、反応してしまう……それくらいだ』
「そうか。なら、その火山まで行ってみないと分からないってことだな」
言葉を切って考え込む。と、またツンツンとした感触が。
そうだ、ここにも説明が必要なのが居たっけ。
「ああ悪い。王子サマに説明すべきだな。ん~と」
ちょっと考え、腰を落とし膝をついて目線を合わせる。
「えっとな、王子サマ…」
「ラミス、だ」
「え?」
「ボクはライア・ミストル・アルマニアだ。家族はラミス、と呼ぶ」
「オレはただの冒険者だぞ? そんなのに家族での愛称を教えていいのか?」
オレの疑問に首を振る。
「そこの、聖獣様と話している内容……ボクには理解が追い付かないけれど、キミは理解して、なおかつ質問している。そんなキミが普通の冒険者とは考えられない」
おお、この王子、やんちゃかもしれないが馬鹿じゃない。
「それは過分な評価だな。それよりさっき約束した件の説明をするがいいか?」
「分かった。それは国の成り立ちにも関わるものだ、な?」
「ああそうだ。昔、まだここが帝国の属国だった時のことだ。帝国に反抗した時に決定的な事件があった。火山が噴火したことと海津波が起きた、その2点について王子サマ、いや、ラミスさまはどう教えられていた?」
「ラミス、でいい。
今言ったふたつとも、初代様と精霊様が起こした奇跡だ、と教わっている。ただ、あまりにも大規模で不可思議なできごとだから普通の人民には信じてもらえないだろう、あくまでも皇家の中で伝えるだけにするように、と」
そうか、精霊の話は皇家でも不思議現象として表に出さなかったんだ。だから一般の人にも伝わっていなくて、フィリクスのような不遇をかこつ人間も出る羽目になった、と。
ラミスはさらに言葉を続けて、
「けど、ボクには疑問があったんだ。火山と海津波。火と水のふたつの属性を持つ奇跡が本当に起こせたのだろうかって。初代様と精霊様のそれぞれが属性をひとつずつ分けて持っていたのかとも思ったけれど、それにしても規模が大きすぎて……」
「人間では無理、と思っていた?」
「うん」
「ラミス、は賢いな! さすがは皇室の跡取りだ!」
「な、何を!?」
「その考えは正しいよ。初代様、マーリン様だっけ、その方と契約したのは、地の精霊アルスラ様だ。このリヴァイアサンのメイマーニア様はアルスラ様の盟友、つまり大親友なので、アルスラ様に力を貸した。火山はアルスラ様、海津波はメイマーニア様が起こしたんだ」
そう説明すると、ラミスは考え込み、やがて顔を上げる。
「そっか。それで国の名前もそうなったんだな」
「国の、名前が関係しているのか?」
「ああ。我がアルマニア皇国は精霊様の名を持って国とした、と明記されている。契約したのがアルスラ様だけなら名前がおかしい。盟友のメイマーニア様も加えて国名とした、これなら話が通る」
「なるほど」
『話はついたか? ならば、今度は我の頼みを聞いてほしい』
一区切りしたところで、メイマーニアが話しかけてくる。
『海底火山の件だ。爆発の源を探って取り除かねば、これからますます危険になってくる。済まぬが、我と共に行ってくれぬか?』
「オレとラミス、にか? メイマーニアだけでも解決させることが可能だろう?」
『確かにそうだ。だが、ここまで大ごとになった事の終息をニンゲンにも見てもらいたいという事ともうひとつ。
マーリンの血を引く者に、我らの事も知っておいてもらいたいという、いわば欲目から出た希望があるのだよ』
ほ~お、そうなのかい。確かに今のままじゃ報われないよな、どっちも。
「でも、海の中だろ? オレはともかく、ラミスも耐えられるのかい?」
『心配ない。我が結界を張るからそこに居てくれればいいのだ』
「だとさ。行くかい、ラミス?」
確認すると。
「わ、分かった。行く! ボクも皇室の一員だ。見届けさせてもらう!」
いい返事だな。
「分かった。早速行こうか」
『うむ、了解した。では我の上に乗ってくれ』
「……どの辺に? 正直あんたはでかすぎてどこがいいのか分からんのだが」
『ならば、我の頭の上でどうだ? 角があるからそこにつかまっていてくれ』
「分かった。ラミス、手を」
「? どうする……っうわわっ!」
不思議そうに伸ばしてきたラミスの手を握り、『無重力浮遊』を発動してメイマーニアの頭の上に移動。
そこにあった角を握らせ、場所を確保する。
「よし、いいぞ。出発してくれ」
『まったくお主は規格外だな。あっという間に飛び乗るとは。まあその話はあとにしよう。ミルリルも来るがよい』
「は~い! アタシを置いてかないでね~」
こうしてオレとラミス王子サマは海の中へと潜っていくこととなった。
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