第13話
「いらっしゃい、初めてのお人だね」
後ろから声がかかった。
振り向くと、真っ白になった髪をひとつにくくり背中に流した人が居た。最初に見た時、髪の毛から高齢の男性だと思ったんだが、階段を下りてこちらへ歩いてくる足取りはもっと若い、中年のような力強さを感じる。
「あ、お邪魔してます。この国の歴史を拝見してました」
ペコっと頭を下げる。いけね、敬語になっちまった。
「いやいや、若い方に興味を持ってもらえるのはこちらもうれしいですよ。あなたの年代だと冒険者ギルドへ行かれる人が多くてね」
そうだろうな。
「ついでに依頼を確認できるから、ですかね」
「そういうこともあるでしょうな」
それにしてもこの人の言葉遣い、丁寧だな。思わず敬語へ戻りそうになる。
「ちなみに、ここにある情報ってギルドでも同じです、かね?」
あっぶな~。つられて敬語発言になるところだった。
だけどこの表情。僅かに顔が歪んでるな。何かあるのか?
「国の成り立ちが魔法使いであること、帝国の支配を振り切ったことは向こうでも事実として公開していますが、精霊とか契約とかはおとぎ話の類であると切り捨てています。対外的には、魔法使いと精霊が帝国軍を退けた、という簡単な表記になっています。おかしなことにね。
鎮圧軍が進軍してきた先で火山が噴火したことや、前兆のない津波で軍艦がやられたことは事実なのに、それをあえて記載せずに無視するのは間違いだと、何度も申し入れているんですがね、聞き入れてもらえないんですよ」
ああ、日本軍の神風神話みたいな扱いなのか。まぁ、見ていた人なんてとっくの昔に居ないしな。
「そう、か。ではここに書かれている内容、出所は?」
「そうですね、誰でも不思議に思われます。実は、私は以前、皇国の城の中にある資料室で司書を勤めていましてね」
そっか、この人役人だったんだ。だから言葉遣いがこれなんだな。
「その時に趣味で古い歴史の資料を読み漁っていたんですが、断片的に残っていた情報をつなぎ合わせた結果がこれなんですよ。当時はビックリしましてね、一応上司にも報告したんですが……」
そのあとのことは想像できるな。事なかれ主義の上司なら握りつぶしにかかる。
この人、そこで役職を懸けて意見したのかもしれない。
「……まあなんやかんやあって、勤めを辞めてここで資料館を開いているんです。幸いなことに、食いつなげるだけの金は溜めていましたから」
濁してるって事は確定、か。しっかし、役所って奴はどこでも同じだな。
「へぇ……でも、なかなか画期的な視点だなぁ。ちょっと頷けないところもあるけど」
この人、自分の考えを簡単に変えない頑固な部分がありそうだ。上司とぶつかるだけの気概もあるし。こういう言い方をすると多分食いついてくるんじゃないかな~?
「頷けないところ、とは?」
案の定、聞き返してきた。ちょっと眉をひそめて、けげんな表情をしている。
「いえいえ、たいしたことじゃないっす。勘違いかもしれないし」
いったん引いてみる。そうすると。
「勘違いさせるような記述、ありましたか?」
うん、思った通りだ。
「素人考えだし、司書をやっていた人からすると問題にもならないこと、かな?」
「いいえ、そんな書き方がされているなら直さないと。どのあたりで?」
よっし、これなら聞いてくれるかな。
「ええと、ここだな」
オレが指し示したのは、精霊の部分。拍子抜けした表情で、
「精霊と契約したのは紛れもない事実だと確信しているんですが、それは……」
「ああいえ、契約じゃなくって、その暴れ方がね」
「暴れ方……?」
不意打ちを喰らったような顔だ。おそらく、思ってもみなかったところなんだろうな。
「そう。帝国軍とたたかった時、火山の噴火を起こしたり海津波を引き寄せたりしているって部分。これ、本当に精霊ひとり、と言うか一体だけで起こせるのかなって思って」
「なんですと!?」
まともに攻撃が入ったみたいだ。ガーン、という効果音が聞こえそう。
「精霊ってそんなにいくつもの現象が引き起こせるのかな、ってふっと疑問に思って。ほら、火山は火の属性で海津波は水でしょ? 正反対の性質なのに。属性って、普通ひとつでは?」
「た、確かに。言われてみればそう、ですね……」
あまりのショックに、思考が追い付いていかないみたいだ。そりゃそうだろう、精霊があっちにもこっちにもいたら苦労はしないよな。
「だからおかしいな、って。これ、どう見ても2体は居たんじゃないのかな、って思うんだけど。でも、契約がそうそう結べるはずもないし……どうなっているんだろ」
爺さんのくれた知識の中には、精霊と契約を結ぶやり方なんてなかった。けれど、それに近い神獣を相手とする方法が書いてあったんだ。
それによると、お互いを唯一無二の存在として認識し、同等の立場でお互いを尊重しあい、助け合うとするやり方だ。もし、精霊との契約がこれに準ずるものだとすると、複数なんて無理な話だ。ハーレムみたいな関係になっちまう。
たとえ魔法使いが規格外の存在だったとしても、精霊と人間じゃ魔力量が違いすぎる。それこそおとぎ話じゃなくって笑い話の範疇だ。昔々の法螺話、だな。
「そう、か。そうですね、あなたのおっしゃることはもっともです。どうして気づかなかったんだろう、私は……」
おっといけない。自分の思考にハマってこの人の事置いてきぼりだった。
この人はこの人で、一生懸命に考えを巡らせている。きっと、今聞いたことを自分の知識の中で突き合せているんだろうな。
「え~っと、オレ、ケインです。生意気言ってすみません?」
一応謝っておこう。疑問には思ったけどオレは所詮素人だ。混乱させたくて言ったんじゃないしな。
どさくさ紛れに自己紹介もしておこう。この人の名前も聞いてないけど。
読んでいただき、ありがとうございます^^




