第12話
早駆けモードを生かして飛ばしに飛ばし、2日後にオレはアルマニア皇国の皇都アルサールへ着いていた。どうして急いだかって? それは……
「魚だ!」
ここアルサールは海に近く、海産物が豊富で新鮮だ、との情報があったからだ。
肉は好きだし問題ないけど、オレは生粋の日本人。海産物とは切っても切れない人種だ。この世界で生ものは危険かもしれない。それでも煮たり焼いたり干物にしたりと、調理方法はいくらでもある。魚から出るうまみは肉のうまみと比べても負けていないはずだ。
「うう~~っ、考えただけでよだれが出るぅ~~」
朝になって食堂に向かいつつ、オレの頭は【魚】に埋められていた。だが。
「え? 朝食ってこれ?」
出てきた食事は他の街と同じ、サラダとパンと肉とスープ。どうして?
「お客さん、海の物を目当てに来たのかい?」
朝食を持ってきてくれたおかみさんが笑いながら聞いてくる。
「ああ、ここじゃ豊富に取れるって聞いてたんだけど違うのか?」
「いや、その情報は間違っちゃいないよ。ただね、ちょっと今はマズい時期なんだ」
「マズい時期って?」
海の漁って、マズい時があるのか?
「普段はそんなことないんだよ。ここらあたりは流れも穏やかで、しかも冷たい水とあったかい水が混じりあってるから種類も豊富なんさ。でもねぇ……」
そこで言葉を切ったおかみさん。何とも悩ましい表情をしている。
「間の悪いことに、『海神様の御渡り』が始まっちまったんだよ。あれが終わるまでは海に入れないのさ」
「海神様の……御渡り?」
何だそれ、閲兵式みたいなもんか?
「ここ10年くらいで始まったんだけど、時期が定まっていないのさぁ。前回は1年前の冬真っ盛りだったからほぼ影響なかったんだけどね。今度はサンママの解禁が始まった直後だけに、漁師さんもその入荷を待ってるお店も大ショックさね」
サンママ。言葉の響きから言うとサンマかな。
「しかも、サンママを追ってやってくる大型の魚も獲れないから、狙ってた冒険者も大外れになっちゃってるよ。うちはまぁ、宿屋だから普通の営業だけど、それでも魚が入ってこないんじゃ目玉の料理が作れなくってねぇ」
「ちなみに、目玉料理って何?」
「サンママ尽くしのランチセットさ。ごはんから焼き物から、酢の物、煮びたし、茶わん蒸しまでついた豪華セット! それを目当てのお客さんもいるってのにさぁ……はぁ~、何とかならないもんかねぇ」
最後は愚痴に変わって大きなため息まで出てるよ。こりゃ大変なときに来ちまったな。
それにしてもどんな儀式なのか、町の人も知らないみたいだ。誰に聞いたらわかるんだろう。
皇都なら図書館、ないかな。
「一般の人間が使える図書館ってある?」
「お城に資料室があるけど、あそこは私らじゃ使えないんだ。この街の事なら中央通りの冒険者ギルドか、その隣の文化歴史資料館が良いんじゃないかね」
うん、冒険者ギルドはやめよう。その隣一択だな。
やっぱりギルドに対して嫌悪感がぬぐい切れていないよな。いつかは行くべきなんだろうけど。
「ありがとう、おかみさん。行ってみるよ」
「お役に立ったかい。なら、しっかり食べてっておくれ」
ポン、と肩を叩かれて激励された。
「いただきます」
軽く両手を合わせて食事を始める。うん、なかなかうまい。魚じゃなかったのが残念だけど、この味付けは見事だ。あっという間に完食して席を立つ。
「おかみさんごちそうさま。美味かったよ」
「ありがとよ!」
声をかけて食堂を出る。さて、文化歴史資料館へ行こうか。
中央通りへ出ると冒険者ギルドはすぐにわかった。何せ、周りの建物に比べてもひときわでかく、出入りしている人数が多い。あれが全部冒険者なら、この国の国力は相当なものだ。
「確かギルドの隣、だったよな」
ギルドから目を移すと、片方は道具屋になっている。じゃ、反対側か。
「え、あれ、かな?」
反対側にあったのは、二階建ての民家、に近い建物。近づいてみると、入口に『アルサール文化歴史資料館』と言う手描きの看板がかかっていた。
「やっぱりここだな」
入口に近づき、ノブを回して入る。上についているドアチャイムが涼やかな音を立てて迎えてくれた。
「おお、可愛い音じゃないか」
気分よく中に足を進める。ぐるりと見渡せば、壁際に沿って文字と街並みの絵が並べられ、その下にあるケースにはいろんな道具やら何やらが陳列されている。
矢印に従って左側の壁に向かうと、その始まりには『アルサールの歴史と変遷』と題が付いていた。
「なるほど、この街の歴史かぁ。なかなか面白そうだ」
この資料によると、もともとアルマニア皇国はガルマン帝国の属国として産声を上げた。軍事力の増強を図る目的で占領したらしいが、その目論見はうまくいかなかったみたいだ。なぜなら、この地に存在する精霊と契約関係を結んだ魔法使いが軍事力のみを重視した帝国を嫌い、反乱を起こしたからだ。
すぐに鎮圧されると思われていた反乱だが、この精霊、思いもよらない大物だったらしい。
鎮圧軍に対し火山を噴火させて一瞬のうちに全滅させたり、海津波を起こして軍艦を沈めたりと、やりたい放題暴れまわったことから、当時の帝王をして『荒ぶる精霊にこれ以上の消耗戦は無駄になる』と言わしめ、遂に独立宣言をもぎ取ったのだとか。
契約をした魔法使いが初代の皇王として即位、精霊の名を戴いた国が誕生した、と言うのが大まかな沿革として説明されていた。
「へぇ、なかなか壮大な物語だなあ」
オレが爺さんの所で得た知識は、皇国として始まった後からだ。ここにあるのはもっと前の出来事だからな。国の起源なんて、そうそう外部に出てくる情報じゃない。
「こういうのは地元に来ないと分からないよな」
やっぱり来てみてよかった。世界を見ろと言ってくれた爺さんに感謝だな。
読んでくださり、ありがとうございます。




