第9話
或るぅ日、森の~中、〇〇さんにぃ~出会ったぁ~♪
あくる日。
まだ夜の名残がそこここに残る中、隣りのマイルズのテントがたたまれた音に目が覚めた。
半分寝ぼけ眼で見ると、きびきびとした動きでマイルズが動き出している。
「あ、悪い、起こしちまったか? 済まねぇな」
「いや、目が覚めただけだ。もう行くのか?」
「ああ。俺は森の中じゃなくて縁を回っていくからな。このくらいに出ないと国境の門限に間に合わないんだよ」
「縁を回る、って、外縁を?そんなやり方ってあるのか?」
オレはビックリして聞いた。
「まあな。森の中ってのはどうしても木の根っこや倒木やらで速く走れねぇんだ。だから多少遠回りでも縁を回る方が俺には都合がいいのさ。魔獣も出てくるしな。ただ、そうすると移動距離が倍になる。普通なら途中で野営が必要になるんだが、そうすると今度は盗賊の心配が出てくる。魔獣を相手にするか盗賊の警戒をするか、そこがむずかしいな」
まあ、俺は一日で走り抜けるけどな、そう言ってテントを括った荷物を担ぎ上げる。
ああ、この人はこうして危険を回避してるんだ。これもひとつの方法だな。
「そうなんだ。じゃ、お別れだな。気を付けて。昨日はありがとう」
「おう、こっちこそうまいメシをありがとう。またな」
そう言うとニカッと笑ってマイルズは野営地を出ていった。
オレはどうしようか。もうひと寝入りしようかとも思ったんだが、眠気なんてふっとんじまっている。ええい、このまま起きて一足先に森に入ってしまおう。
テントをたたみ、食事の用意をする。昨日の残りの串焼きを温め、ついでに昼のための弁当を作ってストレージに収納する。その頃から、周囲のグループも起きてきた。
やがて、朝日が野営地に届きだした。それを見計らったように、商人たちや冒険者のグループが出立の用意を始めだした。
その横を縫ってオレは野営地を出た。ほぼ一番に近い。
後ろから声がかかる。
「まだ森は暗いぞ。入るのは危険だ」
「何だったらみんなで一緒に入った方がいい」
くるりと振り向いてオレは笑う。
「ありがとう。慎重に歩きますから先に行きます」
実は彼ら、要注意マークの商人たちだ。
昨夜マイルズと話しているときに教えてくれた。
『お前さん、あそことあそこの商人たちとは一緒に行くんじゃねぇぞ。あいつら毎回ソロやグループで動く冒険者たちを誘ってだな、そいつらを護衛代わりにこの森を抜けてるんだ。それもやり方だと思うが、俺は好きになれん。お前さんも気をつけろよ』
ただで魔獣の盾になんてなってやる義理はない。それくらいなら一人で動くさ。
まだ何か言いかけてきているが無視してとっとと歩き出した。
辺りは徐々に光が射してきて気持ちのいい朝だ。森の入り口もここから見るとそう暗くはない。中は良く判らないが。
オレは森に踏み込んでいった。
高く生い茂った樹々の間から光が射しこんでくる。そんな中、白いひと筋の道がずっと先まで伸びていた。だが、やはりと言うべきか、獣の放つ威嚇のような気配がそこここから感じられた。注意を向けるとスッと消え、また移動していくところを見ると、それほど強い奴ではないのかもしれない。用心だけはしておくが。
「少し急ぐか」
そう呟き、足に力を込める。
昨日一日、マイルズと移動したおかげでコツが飲み込めたようだ。滑らかに筋肉が動き、ごつごつした木の根も絡みつく草も難なく乗り越えてオレは快調に飛ばしていった。特に痛むところもないし、身体も軽い。これも上限の恩恵か。
その頃になると、森の入り口の方からざわめきが聞こえてきた。森の中を突っ切るグループが来たのだろう。マイルズが行った遠回りの道の方が安全だとそちらへ進んだ者たちもいるから、数は多くないかもしれない。けれど、巻き込まれるのも嫌なので少し足を速めておく。
森の中間地点まで来た頃合いだろうか、オレの感覚に何かがチクチクと触ってきた。言い方が難しいが、木の枝で胸を突いてくるような、無視はできるけれどそれでも後ろ髪を引かれるような、妙に気をそそられる感覚だった。
しばらくはそれに逆らってみたものの、好奇心に負けて行ってみることにしたのはオレの悪い癖、だな。
道を外れて木々の間を進む。膝まで来る草をかき分け、感覚の命ずるまま彷徨ううちに、1本の木の根元にたどり着いた。
そこを覗き込んでみると、白い小さな蛇がぐったりしているのに気づいた。猟師の罠にしっぽをはさまれてどうにも動けなくなっている。かわいそうに、挟まれた部分は赤くなって痛々しい。
「そうか、大変だったな。今外してやるから動くなよ」
通じないとは分かっていたが、そう声をかけてオレは罠に手を伸ばした。両端にあるバネに力を入れてゆっくり押し込むと口が開き、そのままそっと移動させてしっぽから遠ざけてやった。
頭を落としていた蛇は、罠から解放されたと知ると元気になり、するすると下生えの草の中に消えていった。と思う間もなく少し離れたところからひょっこり顔を出し、オレを見つめてはまた引っ込み、また少し離れて顔を見せる。
「なんだ、オレを誘ってるのか?」
笑って声をかけると、さらに遠くへ移動してオレを見つめる。
「わかったわかった、今行くよ」
こうして蛇に導かれてオレは動き出した。
もともと藪の中に入った時点で方向を見失っていたんだ。今更どこへ行っても構わない。どっちに向かっているのかさっぱりだったが、斜面を登っているような感触から考えて、高台に向かっているのだと判断する。
「お前賢いな。確かに高いところからなら方向が分かるしな」
独り言を言い、思わず苦笑する。何のかんのと言ってはいたが、俺もやっぱり普通の人間で、独りきりでは生きられないのだとしみじみ思った。
唐突に目の前が開けた。そこは山の中腹に当たるらしく、平たい台地となっていた。
その真ん中に、あの白い蛇が居た。
「よお、ご苦労さん。しっぽ大丈夫か?」
近づきつつそう声をかけると。
頭を下げた蛇から何やら白い煙が巻き起こってその姿を隠し……次の瞬間!
そこには俺より大きなドラゴンが居た。
ちょっとぶっ飛んだ出会いになりました。
短めですがご容赦を。
読んでいただき、ありがとうございます^^




