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5 警備隊長

「お前、大丈夫か」


 ゆっくりと通常の流れを取り戻していく人混みの中、取り残されていた私へ手が差し伸べられた。


「は、はい……大丈夫、です」


 正直そのまま立ち去られると思っていたので、まさかの声掛けに返答が半分になってしまう。


(……っ)


「どうした」


「いえ、なんでもありません」


 気持ち半分となった返答と違い身体の方は正直で、支えられながらでも捻った足がじわじわとその痛みを訴えてくる。


「……ふむ」


 これ以上アルス様のお手を煩わせてはいけない、と。

 なんとか立ち上がろうとしていた私の体が、


「わ、きゃ……っ」


 突然ふわりと浮き上がった。


「足を捻っていたのなら、早く言えばいいものを」


 少しあきれたような口調の、すべてを見透かした言葉。

 改めて指摘されたことで妙に恥ずかしくなって、言いたかった言葉は全部どこかへ飛んで行ってしまった。


「どこに住んでいるんだ、お前は」


 私があまりに黙っているからか、アルス様のほうからどんどん言葉を投げてくる。

 恐らく送ってくださるという事なのだろうけど。


(……あの家の事を、あまり他人に知られたくはないな)


 私が再び黙り込んでいると、


「もしかして、家無しか」


 先を読んでまたアルス様のほうから言葉が飛んできた。


「……はい、そうです」


 本当はそうではないけれど、とりあえずそういう事にしておこう。


「ふむ……」


 返答を聞いたアルス様は立ち止まり、何事かを考えながら固まってしまった。

 もちろん私のことを抱きかかえたままの、非常に悪目立ちする状態で。


「あの、もう大丈夫ですので。降ろしていただけると……」


「捻挫の痛みはそう簡単に引くものではない」


「大丈夫、ですからっ……」


「おい、暴れると落ちるぞ」


 なんとか身をよじって脱出を試みるも、見た目よりもだいぶしっかりと抱え込まれているらしく、目立った効果がない。


「あっ」


「……ん?」


 ポケットからひらりと舞い落ちた案内票。

 アルス様の注意がそちらへ逸れた隙を見計らって、私はなんとか脱出を果たす。


「なんだ、お前が新しい使用人だったのか」


 案内票を指先でつまみ、ひらひらと回しながらアルス様がこちらを向いた。


「……ご無礼をお許しください」


 まだ少し痛む右足。しかし立てないほどではなくなっている。

 何とか姿勢を正して真っすぐ立つと、今さらながら深々と頭を下げた。


「いや、派遣所へ催促に行く手間が省けてむしろ助かった」


「左様でございましっ……」


 表情を窺おうと姿勢を戻す途中だった私の身体を、再び先ほどのような浮遊感が襲う。


「あの、アルス様?」


「使用人ならば話が早い。このまま私の屋敷に住み込みで働くと言い」


「それは……助かります、が」


「なんだ、ずいぶんと含みがあるな」


「その、先ほども言ったようにもう自分で歩けますので……」


 別段この申し出はどしても自分の足で歩きたい、というものではなくて。

 どちらかといえば、人目を引くこの状況をなんとかしたいというものだったのだが。


「ずいぶんと口答えの多い使用人だな」


「……申し訳ございません」


 主従関係を利用した一言で一蹴されてしまった。

 

(しかし、聞いていたのとだいぶ違うお方だ)


 先刻、場を制していた際には話に聞いていた通りの人だと思えたが。

 これまでのやり取りを考えると、単に融通が利かないだけの人に思えてならない。


(あまりに展開が急だけれど、色々な問題が一気に解決した気がする)


 雇ってもらえている間、という条件はあるものの。

 少なくともあの家から街まで通わなければならない問題が解決されたのは大きい。

 これまで入れ替わってきた多くの使用人と同じにならぬよう、頑張らなければ。

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