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3 街へ

(相変わらず、騒がしいところ)


 次の日、私は朝早くに家を出て街へと来ていた。

 このような喧騒に巻き込まれぬよう早くに出発していたのだが、気づけばその慌ただしさの一部にされてしまっている。


(……買い物は最後がいいかな)


 この状況で下手に荷物など増やそうものなら、身動きが取れなくなるのは火を見るよりも明らかで。

 なので私は人の波をなんとかくぐり抜け、使用人派遣所へと向かった。

 レイド様にお声がけいただく前はよくここへ通わされていたものだが、まさかまたここへ来ることになるとは。


(こんなことになるのなら、使用人業を続けていた方がマシだったかもしれない)


 そんなことを思いながら、張り出された条件一覧に右から左へ目を通す。

 

(……ん)


 隅の方へ追いやられるように張られた一件の募集。

 急募な上に破格の報酬だというのに、なぜかぞんざいな扱いを受けている。


(こういうのは大体、ワケありだったりするけど……)


 ぱっと見、内容は他の募集と大差ないようだが、それが却って言い知れぬ怪しさを醸し出しているようにも思えて。


(とはいえ、選べるような身分でもないか)


 色々と考えた末に、私は案内票を手に取って受付へ向かった。


「すいません。この募集についてなんですが」


「……あぁ、それか」


 案内票を見るなり、受付の品定めするような視線が上下に動く。

 

「この募集は警備隊長のアルス様からのご依頼だ」


 警備隊長のアルス様。

 人の名前に明るくない私ですら知っているほどの人物で。

 長年続いていた隣国との争いをその手腕で終わらせた立役者として知られている。

 それほどの方の元に仕える仕事であるならば、厚い待遇もうなずけた。

 

「軽い気持ちですぐに辞めるようなことがないように頼むよ」


 うんざりしたような表情で頬杖を突きながら、受付が言葉を続ける。

 わざわざそんな事を伝えてくるということは、私の前にもそういう人がたくさんいて。

 そして私もそういう人たちの一人に見えたということなのだろう。

 アルス様はとても厳しい方としても有名で、その名は敵のみならず味方にすらも恐れられるほどだと聞く。

 入れ替わりの理由はその辺りにもありそうだ。


(まぁ、やめろと言われてもやめれる状況にないけど。私は)


 不躾な視線を横目に私が署名欄へ名前だけを記入すると、


「……」


 受け付けの視線に訝しげな色が濃くなるのを感じた。


(まぁ、無理もないか)


 通常、使用人として働いている者にはニパターンある。

 一つは今の私のように、生活に困って出稼ぎをしているパターン。

 そしてもう一つは、貴族の娘がコネ作りとして形式的に働くパターンだ。

 一般的に貴族は家名も一緒に名乗るものなので、名前しか持たぬものは必然的に前者となるわけで。

 

「……まぁ、この際もう誰でもいいか」


 投げ槍な言葉とともに案内票の裏にガシガシと住所が殴り書きされて、乱舞に突き返される。

 

「詳しいことについては仕事先で聞いてくれ」


 

「了解しました。ありがとうございます」


 私はそんな受付の態度は気にせず、案内票を丁寧に受け取ると案内所を後にした。

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