18 まさかの人物
「オードブルでございます」
ほどなくして前菜が運ばれてくると、そこからゆっくりコースの進行が始まった。
順番に並べられていく、見るからに高級な食材を使った華やかな料理たち。
「……ふむ」
(……うん、おいしい)
このランクの料理と私が普段作っている料理が比べられていると思うと。
元々比べられるほどの土俵にないとはいえ、やはり気が気でなくなってしまう。
その後も「うむ」とか「ふむ」とか言いながら食事は進み、気づけばデザートまで完食していた。
さすがにここまで歴然とした差があれば、味音痴疑惑のアルス様でもはっきりと分かるのではないか。
「美味しかったですね、アルス様」
あえてここは自分から、言うまでもない事とは分かりながらも切り出してみる。
「そうか、それはよかった」
色々想定して身構えていたが、アルス様からの返答は実に他人事のような感じで。
この調子だと本当に、味の付いているものであればなんでも美味しいとおっしゃられるつもりなのかもしれない。
「受付の無礼がなければ、もっとよかったのだがな」
「お言葉ですが、あれは無礼ではなく当然の対応かと……」
などと他愛もない話をしていた私たちの背に、
「スターチスッ!」
突然、大きな声が投げかけられた。
私は聞き覚えのあるその声に、思わず背後を振り返る。
「レイド……様?」
「おお、やはり見間違いではなかったか!こんなところにいたのかスターチス」
あれだけ堂々と言い放った婚約破棄などまるでなかったことかのように、馴れ馴れしく親しげに話しかけてくるレイド様。
少々げんなりされているようにも見えるが、いったい何があったのだろう。
「やはりキミでないとダメなんだ。私の元へ戻ってきてはくれないか」
「……どういうことですか?」
「あぁ、実はな……」
レイド様はやたら仰々しい身振りと手振りでなにやら長々と語っていたが、つまりは要約すると。
私が去った後、新しい婚約者は我儘放題で長続きせず。
屋敷の仕事を任せた使用人たちは十分に働かず。
にっちもさっちもいかなくなったので私を探していた、ということらしい。
(それ、私である必要あるのだろうか……)
レイド様の傍若無人ぶりを許容してくれて、屋敷の仕事も任せられる人物であれば誰でもよさそうな気がするが。
口ぶりからすると、新しく探すよりも手っ取り早いから私を探していたということなのだろう。
それでも、以前の私であれば。
他に行く当てもないからと、適当な理由で自分を納得させて話を受けていたかもしれない。
(……だけど、今は)