13 最悪の邂逅
「しかしそれでは労いにならないのではないか」
私の言葉に半ば納得しつつ、なおもよく分からない理由で食い下がるアルス様。
改めて伝えるのは少し気恥しいところもあるが、やはりはっきり伝えないと伝わらないのだろう。
「普通、使用人と共に市場へ来る主はいませんから。それだけでも十分に労われていると感じておりますよ」
現に今も、アルス様は荷物を半分ほど肩代わりしてくれている。
きっとそれはアルス様にとっては普通、のことなのかもしれないけれど。
「……そうか。それならいいが」
次はどんな言葉が返ってくるのやら、と身構えていたのだが。
この時アルス様、意外に素直。
面倒なことにならないのは助かるが、これはこれで物足りなさも。
(……なんだ、物足りなさって)
「……なにやら騒がしいな」
そんな奇妙な感覚に陥っていた私の耳に、少しトーンの下がったアルス様の声が届き。
その声で気を取り直して周囲へ気を配ると、確かにアルス様のいう通り人通りががやがやと騒がしくなっているのが感じ取れる。
「む……おい、止まれ」
行き交う人々の中、アルス様が誰かを呼び止めた。
「え、その声……隊長!?」
呼び止めに反応したその男性。
私は知らない人物だったが、服のデザインと呼びかけへの返答からアルス様とどういう関係にあるのかは大体検討が付く。
「今日は確か、非番のはずでは……」
「無駄話はいい。何があった」
「はっ、それが……護送中の罪人が逃亡を試みたらしく……」
「……ふむ」
仕事モードに入ったアルス様の横顔。
込み入った二人のやり取りを、私はただ見ていることしかできない。
「時間が惜しい。すぐに現場へ向かうぞ」
「えっ!?でも……いいんですか、お連れの方は」
「すぐに戻る、ここで待っていろ」
「かしこまりました」
「えぇ……」
私の返答も部下の反応も待たず、アルス様はすぐに走り出す。
それに少し遅れるようにして、部下の男性も後を追った。
後ろ髪をひかれるように私へ向けられた会釈には、こちらも会釈で返しておく。
(ただの使用人に、そこまで気を遣う必要ないと思うけれど)
アルス様の使用人ともなれば、話が別になるのだろうか。
私は人混みの邪魔にならぬよう道の端へと移動すると、そこへ荷物を降ろす。
(……それにしても、いつにも増してすごい人の数)
隣国との争いが終わったことで、国境が開かれ人の行き来が盛んになった。
もちろんそれはよいことではあるが、当然よいことばかりではなくて。
小さないさかいやこうした事件の火種も増えてしまったように思う。
先日のこともあるし、こうして街角に一人で立っているのも結構危険なことかもしれない。
元々は一人で買い出しに来ようと思っていたはずなのに、変に意識をしだすと急に不安が襲ってきた。
(早く帰ってこないだろうか、アルス様)
結論を言えばそんな私の不安は、
「あら、どこかで見た顔だと思ったら……スターチスじゃない」
ある意味ではハズれていて、ある意味最悪の形で当たってしまったと言えた。