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第9話 ハリボテな言葉、ブサイクな言葉

「六道は……本当に告白をする気があるのか?」


 俺の言葉に驚いた六道は、「え……?」と言いながら呆気に取られている。


 その隣では、真央が怒っているのかは定かではないが、プルプルと小刻みに震えていた。


「蒼! 何が言いたいのだ!」

「真央、お前のしている事はなんだ?」

「何って……友莉菜の告白の手伝いを……」


 そうだな、真央の言う事は間違ってない。けど、俺にはそうとは思えなかった。


「俺には、六道が自分で思いつかないから、真央に頼り切っているようにしか見えない。それを真央は注意せずに全て受け入れ、ほとんどに手を出しているだけだ」

「それは……」


 思い当たる節があるのかは定かではないが、真央は口を真一文字に閉じながら、悔しそうに俺のことを睨んでいた。


 今は真央よりも確認しなければいけない人物がいる……九条さんだ。なぜなら、前世から六道と強い絆を持つ彼女なら、止めに入るかもしれないからな。


 でも、俺に任せると言わんばかりに、九条さんは小さく頷いて見せた。


「アドバイスを聞くことは悪い事じゃない。手伝う事も同様だ。けど、頼りすぎるのも、受け入れて全部やってやるのも違うんじゃないか?」


 俺は二人に真っ直ぐ向きながら真剣な声で問いかけると、二人とも俺の言葉に肯定を示すように、反論をしないで目を伏せる。


「六道が失敗したくない気持ちはわかる。ましてや告白なんて大イベントだ。失敗したくない気持ちがプレッシャーになって、良い物なんてそうそう出来ないだろう。誰かにすがりたくなるよな」


 そこで一旦言葉を切ると、深く息を吸ってから俺が一番聞きたかったことを六道に問いかけた。


「でも、敢えて聞く。六道、お前が伝えたいのは……他人によって作られた、見た目の良いハリボテな言葉か? それとも六道が自分で作った、心のこもったブサイクな言葉か?」


 六道は俺の言葉を噛みしめるように、己の眼をゆっくりと閉じる。


 数秒程経ってから眼を開けると、眉尻を上げて俺の方に整った顔を向けた。


「……わたし、間違ってた。早乙女くんの言う通りだよ! わたしが伝えたいのは言葉じゃない。わたしの胸の中にある……この好きって気持ちだよっ!」


 六道は今までで一番力強い声で言いながら、握り拳を二つ作り、ふんすと気合を入れ直していた。


「ありがとう早乙女くん! わたし、焦って大切な事を忘れてた……早乙女くんのおかげで気づけたよ! 真央ちゃんもたくさん考えてくれてありがとう!」


 俺に満面の笑顔を見せながらそう言うと、六道は手早く自分の荷物をまとめ終え、教室の出入り口に走っていった。


 ――とても輝いた笑顔だった。


 大多数の男は自分に気があるんじゃないかって、勘違いしてしまうんじゃないか? それくらい魅力的な笑顔だった。


「わたし、もう一回自分でラブレターと告白の内容を考えてみる! 完成したら、わたしにアドバイスを貰えると嬉しいな……」

「勿論だ」

「う、うむ……」

「ええ、任せてください」


 三者三様の答え方で六道に返事をすると、六道はお礼を言いながら、ペコっと頭を下げてから走り去っていった。


 それを見送った俺達の間には、謎の気まずい沈黙が流れていた――その沈黙を破ったのは九条さんだった。


「では私も今日はこれで。早乙女君……友莉菜に大切な事を気づかせてくれてありがとう。黒野さんも、友莉菜を沢山手伝ってくれてありがとう。一生懸命なその姿、とても頼もしいです。ではまた明日」


 九条さんは優しく微笑みながら、鞄を持って教室を後にした。


 前世の時はあんな優しい笑顔なんて見せなかった。それが出来るようになったんだな。


「さて、俺達も今日は帰るか……真央?」


 慣れない事を言って体が凝り固まったような気がした俺は、思い切り伸びてから真央に声をかけたが、何の反応も返ってこない。


 俺が少し強く言ったからすねてるのか?


「真央?」

「……蒼よ……我は……間違えていたというのか? 余計な事をしてしまったというのか……?」


 もう一度真央に声をかけると、いつも煩いくらい元気な真央は、悲しそうに落ち込んでしまっていた。頭のアホ毛も何故かしおれているように見える。


 ……天下の元魔王様が、何しょぼくれた顔をしてるんだか。


「ひゃっ!? きゅ、急になぜデコピンをするのだ!?」

「……ちょっと頑張りすぎただけだろ。お前にしょぼくれた顔なんて不気味なんだよ。もっと堂々としてろ」


 俺は軽く真央にデコピンをお見舞いしながら言うと、いつもの様に腕をブンブンと振って俺に反発してきた。


「そ、蒼のくせに生意気なのだー! バーカバーカ! キザったらしー! 女の敵ー!」

「んだとお前!」


 真央は子供のような暴言を吐きながら、ちろっと舌を出して見せると、自分の荷物をひったくるように持って教室を走り去っていった。


 教室に一人残された俺は、頭を掻きながら、深々と溜息を吐いた。すねられて面倒な事になる前に、いつもの調子を取り戻せてよかった。


「しょぼくれたり怒ったり走ったり……忙しいやつだなあいつは。っと、二階堂の返事来たか?」


 二階堂に聞いている事があるのを思い出した俺は、ラインを開いて返事が来てるかを確認する。


 本当なら今日直接聞けばよかったんだけど、今日は学校に来ていない。またギャルゲーをし過ぎて寝過ごしたんじゃないかと思う。


「返事来てるな……えーなになに?」


 二階堂の返事を確認する。そこには、


『サッカー部の三年の来栖? 割と有名な噂ですが、女癖が悪いという噂がありまする。我々オタクの最大の敵でござるな! けど、それ以上に男女問わずモテモテですぞ!』


 と書かれていた。その文の後には長々と厨二病トークが書かれていたが、普通にスルーした。


「女癖が悪い……か」


 六道は大丈夫なのだろうか。もし告白してOKをもらえたとしても、その後に弄ばれて捨てられたりしないだろうか?


 最悪の可能性を考えるなら、止めるなら今しかない――


 けれど、六道の頑張ってる姿を見てしまうと、正直ちょっと言いにくい。


 ……なんで俺はこんなに六道を心配してるんだ? 最近まで、他人の事なんかどうでもいいって思ってたんだが。


 とにかく、なるべく何事も起こらずに無事に告白が終わるように。俺は心で願いながら、誰もいなくなった教室を後にするのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


次の更新は12月2日の夜に投稿予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想を書いていただくと今後の励みになります。


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