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第8話 新たな転生者

 ――早乙女くんは、転生者なの?


 六道から放たれたその言葉に、俺の頭は真っ白になりかけていた。


「ご、ごめんね変な事を聞いて!」

「いや、大丈夫だ。でもどうして……?」

「信じられないかもしれませんが、私達は前世で別の世界に生きていました」


 前世? 別の世界? 何を馬鹿な事を……と言いたいところだけど、俺と真央も転生者だからそんな事は言えない。


「もがもがっ!!」

「私は街の長の娘、友莉菜は屋敷に努めるメイドであり、私の友人でした」


 街の長の娘。そしてさっき言っていた病弱……思い出してきた。旅の途中で立ち寄った街で、確かにそんな人物に会っている。


「ちなみにその街の名前は……?」

「えっと、ガレドラっていうところだよ!」


 ガレドラ――そんな街の名前だった。炭鉱の町だった気がする。そうだ、完全に思い出した。


「むー! むー!」

「物静かで黒髪の猫の獣人……明るい性格で茶髪の犬の獣人、か?」

「っ!? そうだよ!!」


 俺の言葉に、六道はパアっと表情を明るくした。


 俺は前世でガレドラという街に滞在した。そこでは、病弱なくせに毒舌だけは立派な猫の獣人と、人当たりの良い犬の獣人のメイドと知り合った。


 それが二人だというのか? 信じられない。


 けど、言われてみれば確かに前世の二人から耳としっぽを取った姿は、今の六道と九条さんとうり二つだ。疑いようがない。


 そうか、六道には安心感を、九条さんには身構えてしまう意味がわかった。前世の六道とは仲良くさせてもらったし、九条さんには毒舌を言われまくったからだ。


「信じられませんが……本当にあの時の勇者様?」

「まあ、一応」

「ぷはー!! はー……はー……し、死ぬかと思った……シッソクしたらどうしてくれる!」


 あ、そういえば真央の口元をおさえてたのを忘れていた。あとシッソクじゃなくてチッソクな。


「一体何の話をしているのだ? 我も混ぜないと泣くぞ!」

「そんなんで泣くな。涙のバーゲンセールか」

「ふふん、我の涙は千万ドルであるぞ!」

「百万ドルの夜景も裸足で逃げる金額を提示するな」

「あはは……真央ちゃんは気にしなくていい話、かな?」

「いや、大いに気にした方が良い話だ」


 俺がそう言うと、六道と九条さんはキョトンとした顔をしていた。


「ここにいるのは、異世界にいた魔王だ」

「え? 早乙女くん、流石にそれは……」

「冗談にしては笑えませんね」

「ふっふっふ。我はあっちの世界の魔王軍を率いていた魔王なのだ! その証拠にマグマをも凍らせる、氷のブレスを見せてやろう!」

「出来ないから止めとけ」

「何故だぁ!?」


 真央はこれ見ようがしに椅子の上に乗ると、偉そうに腕を組んでいたが、俺のツッコミに対して涙目で反論する。一方、二人は目を点にして口をパクパクしていた。


 気持ちはわからんでもない。まさか目の前にいるこの少女が、異世界を恐怖に陥れていた元魔王だなんて、普通は思わないだろう。


「「え、えぇぇぇ!!?」」


 明かされたあまりにも衝撃的な事実に、二人の驚く声が廊下にまで響き渡った――



 ****



「やれやれ……疲れたな」

「まさか二人が転生者とは驚いたのう」


 衝撃の話をしていたら、いつの間にか下校時間になっていたようで、六道と九条さんの驚いた声に反応して教室に入ってきた教師に、追い出されるように外に出た。


 六道はこの後に用事があるらしく、足早に去っていき、九条さんは迎えに来ていたリムジンに乗って帰宅していった。さすが九条グループの令嬢だ。


 それにしても……主人とメイドが現実世界に転生して一緒になった。これだけでも驚きだが、その二人が依頼してきたのも驚きだ。


「俺達も帰るか」

「うむ! 早く自転車を取ってくるがいい! そして我を乗せるのだ!」


 また乗せるのかよ面倒くさいな。


 真央の家って、俺の家とは方向が違うから遠回りなんだよな。早く帰ってゲームしたいんだけど……その期待に満ちた目を向けるのはやめろ。


「十秒で戻って来るのだぞー!」

「ダッシュしても間に合わねえよ」


 昔に比べると理不尽な事は言わなくなったけど、たまにワガママの片鱗が見られる。流石は元魔王。


「ん? あれって……」


 俺はのんびりと駐輪場へと向かっている途中、見覚えのある金髪の女子が前から歩いてきた。


 向こうも俺に気づいたのか、少しだけ驚いたように、日本人離れしたサファイア色の大きな目を広げていた。


「あら、確か……早乙女君、だったかしら」

「はい。一ノ瀬先輩は今帰りっすか?」

「ええ、生徒会の仕事がちょっと長引いてしまって」


 一ノ瀬先輩の言葉を最後に、俺達の間に気まずい沈黙が流れる――


 この空気……どうすればいいんだ。俺にはこんな状態を乗り切るトークスキルは持ち合わせていない。


「部活動の調子はどう?」

「……ぼちぼちって感じっすかね。とりあえず実績を上げる目途は少し立ちました」

「あら、一番難しそうな所に光明が見えたのね。あと一週間……応援してるわ」


 思ってもみなかった一ノ瀬先輩の言葉に、俺は思わず口をポカンと開けてしまった。


 どうせ無理だから諦めろとか言われるもんだと思ってたんだが。


「なに変な顔してるの?」

「いや、生徒会から部活動を作らせない為に、嫌がらせだったり脅されたりするものだと思っていたから、応援されたのに驚いただけっす」

「生徒会を何だと思っているのよ!?」


 ビックリした……一ノ瀬先輩、そんなツッコミが出来るのか。


「ヘンテコな部活は、他の生徒の迷惑になる可能性があるか注意してるだけよ。やる気と誠意、覚悟があれば問題ないの。私はあなた達の覚悟を見るために、条件を出したに過ぎないわ。あなた達も、うちの生徒に変わりないからね」


 綺麗な黄金の髪を耳にかけながら、一ノ瀬先輩は優しく笑みを浮かべる。その笑みは見る者に安心感を与えるような、不思議な魅力を持っているように感じた。


「……な、なによニヤニヤして」

「一ノ瀬先輩って、思った以上に真面目で良い人なんだなーって」


 お堅そうで真面目そうだなとは思っていたけど、話してみると全然違う。ここまで良い人なのは想定外だった。


「思った以上にって何よ! アタシは悪人じゃないもん!」

「そんな事はわかってますよ。凄く頑張って学校や生徒の事を考えて生徒会で活動ををしている一ノ瀬先輩を、悪人だなんて思わないっす。むしろ良い人っすよ」


 一人称や語尾が子供っぽくなったのが気にはなったが、俺は心で思っていた事を言うと、一ノ瀬先輩は顔を真っ赤にしていた。


「そ、そう……コホン! とにかく、期限は後一週間ちょっとなのを忘れないようにねっ!」


 早口でそう言うと、一ノ瀬先輩は早足で校門の方へと去っていった。


 とりあえず乗り切れてよかった。これ以上面倒事を増やしたくないからな。


 あ……やばいな、早く戻らないとまた真央が面倒な事になる。


 俺は駆け足で自分の自転車を取りに行くと、急いで真央の元へと戻っていった。


 ……当然のように真央には文句を言われました。



 ****



「その……好きです! わたしとつき……付き合っ……あうう……」


 翌日、ついに生徒会との約束の期限まで一週間となってしまった。


 突然の事で驚くだろうが……俺は放課後の教室で一人の女子に告白されていた。


 目の前の彼女はよほど緊張しているのか、耳まで真っ赤にして俯いてしまっている。


「カーット! 友莉菜よ、しっかり言い切るのだ!」


 告白シーンを見ていた俺の幼馴染は、手をパンパンと二回拍手しながら言う。


 すると、俺に告白してきた女子……六道友莉菜は少ししょんぼりしたような顔で肩を落としていた。


 なぜこんな事になっているのか? 理由は単純だ。この中で男は俺だけだから、告白の練習相手に選ばれただけだ。


 それにしても、告白の練習を実技で慣れさせるとか、スパルタすぎやしないか? ちなみに提案したのはもちろん真央だ。


「ごめんね早乙女くん、告白の練習なんかに付き合わせちゃって……」

「気にすんな」

「えへへ……ありがとう! 早乙女くんは優しいね!」

「別に優しくない。普通だ」

「さすが勇者さま~!」


 六道はしょんぼり顔から一転、満面の笑顔で俺に礼を言う。


 元々犬の獣人というのがわかったからか、喜んでいる六道を見ると、しっぽを振っているような錯覚を覚える。あと勇者言うな。


「でもどうしよう……なんとかラブレターは出来たけど、告白の言葉が中々浮かばないよう……」

「我に任せよ! ばっちりサポートしようではないか!」

「真央ちゃんかっこいい〜!」

「友莉菜、相手は元魔王ですよ。少しは警戒してください」


 やや呆れたように目を細める九条さんの言い分もわからなくはない。いくら今は力を失っているとはいえ、真央は元魔王。なにを企んでるかわかったものじゃないからな。


「え~? 今の真央ちゃんは魔王様じゃなくて、真央ちゃんだよ!」

「その通りだ! 我は《《元》》魔王であって、今は黒野真央だからな!」

「ね~♪」

「うむっ♪」


 二人の美少女は、仲睦まじく手を合わせてキャッキャしていた。


 仲が良いのは良いことだが……なんだ、違和感を感じる。なんだこの嫌な感じ? 六道が真央と仲良くしているからか?


「早速我の指示通りに言ってみるのだ!」

「ふむふむ……え~恥ずかしいよぉ」


 真央から何かを耳打ちされた六道は、恥ずかしそうに反論していたが、真央に背中を押されて俺の前に再度立つと、上目遣いで俺の事を見つめた。


「その……えっと……大好き……だよっ」

「っ……」


 目を潤ませながら俺を見つめる姿に、人間嫌いの俺ですら少し心臓が高鳴ってしまった。とんでもない破壊力だ。これがあれば、どんな男でも惚れさせられるんじゃないか?


「うぅ……恥ずかしい……」

「恥ずかしがる事は無い! 今のように、我のアドバイス通りにやればばっちりだ!」

「う、うん! 恥ずかしいけど……わたし頑張る!」


 何とか立ち上がった俺の前では、真央と六道がそう言い切っている所だった。


 アドバイス通りに……頑張る……これか、違和感の正体は。なんだ、随分と簡単な事じゃないか。


「なあ、ちょっといいか」

「む? どうした蒼」

「なぁに?」


 俺の言葉に反応した真央と六道は、同時に俺の方へと顔を向ける。


 これを言ったら二人共怒るかもしれないが、言わないと二人共ダメになってしまう。


 ――意を決した俺は、ゆっくりと口を開いた。


「六道は……本当に告白をする気があるのか?」



ここまで読んでいただきありがとうございました。


次の更新は12月1日の夜に投稿予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想よろしくお願いします。


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