第7話 初めての依頼人
「二人にお願いが……ううん、依頼したい事があるの!」
六道の申し出を聞いた真央は、目を輝かせながら、六道の手を取ってブンブン振っていた。
「勿論だ! 友莉菜は最初の依頼人だ! ふふっ……嬉しいのう!」
「あ、えっと……あはは……」
「ほら、六道が困ってるからその辺にしておけ」
やや困った様に笑う六道を助けるために、俺は真央の頭を軽く小突いて見せると、真央は「そうだな!」と返事をして自分の席に座った。
いきなり下の名前で呼ぶとか、コミュ力高いな。そのコミュ力があっても、他人と仲良くはしたいとは思わないが。
「とりあえず話を聞こうではないか! どんな悩みなのだ?」
「えっと……あのね……」
俺達は適当に椅子を持ってきて座り、改めて六道の依頼を聞くが、肝心の彼女はもじもじとしていて本題に入らない。
「友莉菜」
「うっ……言うからそんな睨まないでよ美月ちゃん……」
なんかこの二人のパワーバランスを垣間見た気がするけど、とりあえずそっとしておくか。
「えっと……さ、サッカー部の先輩にラブレターを渡して……告白したいの。でもそんなの書いた事ないし……告白も緊張しちゃうし……だから、二人にラブレターを書くのと、告白の練習に付き合ってもらいたいの」
六道は顔を俯かせながら、必死に依頼の内容を俺達に伝える。
青春応援部にとってぴったりな依頼が舞い込んできたものだ。俺と同じ事を思っているのか、真央は嬉しそうに頷いている。
「もちろん協力するぞ! ではまずラブレターから――」
「待て待て。とりあえず相手さんのことを聞いてからでもいいだろ」
「む~~~~……それもそうだな」
相変わらず猪突猛進というか、一個の事しか出来ないというか。こういう所も全く変わってないな。
六道の話によると、相手は三年生の来栖天馬という名で、誰に対しても人当たりがよく、学年問わず人気者らしい。
下校する際に、たまたま彼の所属しているサッカー部の練習をしている姿を見て以来、ずっと気になっているとのことだ。スポーツが出来る男ってやっぱりモテるんだな。
どうでもいいかもしれないが、俺はスポーツは苦手ではないが得意でもない。一番目立たないタイプだ。
「ふむ……その男のどこが好きなのだ?」
「どこって……サッカーしてる姿がカッコいいし、笑顔が素敵だし……あと……えっと、えっと……とにかくカッコいいの!」
相手の事を思い出しているのか、六道は頬に両手を当てながら、だらしない笑顔を浮かべている。
六道の理由を聞いてる限りだと、よく恋愛マンガなんかである、カッコいい先輩にお近づきになりたい! って感じだ。それが悪いとは言わないが。
「よしわかった! 我に任せよ! 完璧な仕事をして見せよう!」
「う、うん! よろしくお願いしますっ!」
ぺこっと頭を下げながら、六道は真央にお願いする。その様子を、俺は黙って見つめていた。
「まずはラブレターからだ! 一緒に考えるぞ!」
「うんっ!」
真央は自分の机を六道の机にくっつけると、ノートとシャーペンを引っ張り出して相談を始める。
とりあえず真央に押し付け――任せておいて、暴走しかけたら俺が止めに入れば良さそうだ。
それよりも、俺には確認しなければならないことがある。
三年のサッカー部の来栖天馬。二階堂がそいつの事で何か言っていた気がする。
二階堂ってかなり痛いやつだけど、実はかなり顔が広くて情報通だったりするから、俺も色々聞いてたりするんだ。
「とりあえずラインで聞いてみるか」
俺は相談を始めた真央と六道から少し離れると、スマホを手早く操作して二階堂にラインを送った。
「さてと……ん?」
俺はスマホをポケットにしまって真央達の様子を見ると、同伴していた九条さんは、話に加わらずに、真央と六道の相談しているのを眺めていた。
――九条さんは手伝わないのか?
そう思いながら、三人の様子を少し観察していると、俺の視線に気づいたのか、九条さんは俺の方へと視線を向けた。
すると、九条さんは俺の方へと近づきながら、二人が相談しているのを邪魔しないように、小さな声で俺に問いかける。
「あなたも青春応援部? とやらの一員でしょう。手伝わないの?」
「俺に恋愛相談をする時点で人選ミスだからな。真央の方が適任だ」
「あら、それならあなたには何を相談すればいいのですか?」
「ゲームとかアニメ関連ならいくらでも。格ゲーならコマンドの入れ方やコンボ、フレーム単位の話もバッチリだ」
俺は普通に回答をしただけだったんだが、小さく溜息を吐かれてしまった。
「一生その知識が活かされる依頼は来ないと思いますが」
「ほっとけ。それよりも九条さんこそ手伝わないのか?」
「恋愛の事なんて私にはわからないですから。力になれないわ」
なんだ、俺と仲間じゃないか。ちょっと拍子抜けしてしまった。
「うーん、これはどうかなぁ」
「それも良いと思うが、ちょっとパッとしないのう」
「う~……黒野さん、良い言葉ない?」
「ふふん、我に任せておけ! あと我の事は真央でいいぞ!」
「え、えと……じゃあ……真央ちゃん! 良い言葉のアドバイスお願い!」
「うむ!」
何故か椅子の上に立って腕を組んで偉そうに胸を張る真央と、楽しそうに拍手している六道を見ながら、俺は更に言葉を続けていく。
「手伝えないのに付き添いで来たのか?」
「黒野さんは破天荒で何をしでかすかわかりませんし、あなたも暗くて危なそう。だから心配でついてきたの」
九条さんよ、真央の事をそう思うのは正しいけど、本人を前にして、そこまで俺の事をストレートにディスるか?
「別に俺は危なくないぞ」
「どうかしら。同じクラスになってまだ日が浅いけど、友莉菜に朝の挨拶をされた時のあなたの目、ちょっと危なかったわ」
「そんな目してねーよ!」
九条さんの言葉に、即座に俺は強めに反論していく。勝手に犯罪者予備軍にされちゃたまったもんじゃない。
そういえば、俺が六道に朝の挨拶されていたの知ってるんだな。観察力があるのか無いのかよくわからん。
「私は友莉菜の事が大切ですから。力になれなくても、友莉菜が頑張ろうとしているなら……せめて見守りたいって思ったの。それに、私が提案したんだから、見届けないと無責任でしょう?」
「九条さんが?」
ちょっと意外だな。てっきり六道が泣きついて連れてきたのかと思ってたんだが。
「ええ。あなた達が人助けの部活を作ったって聞いてたみたいで。それで、私も一緒に行くからせっかくだし相談してみれば? って」
「なるほど。席は隣だし聞いてても不思議じゃないな」
俺が小さく頷いていると、何故か九条さんは切れ長な綺麗な瞳で俺の事を見つめていた。
なんだか……精巧な人形のような美しさを感じる。どっちかというと可愛い系の真央や六道とは違ったタイプの美少女だ。
「……あなたは普通に私と会話できるのね」
「なにがだ?」
「あなたも知っているかもしれないけど、私は九条グループの代表の娘です。だから、何処に行っても九条の名前が他人を委縮させてしまう。私とまともに話せるのは、友莉菜以外いないと思って」
九条さんは少し寂しそうな……いや、何かを諦めてるような、何とも形容し難い表情でうつむく。
他の連中が萎縮する気持ちはわからんでもない……けど。
「家の事と九条さん自身は関係ないだろ。九条さんは凄い会社の娘かもしれないけど、それ以前に……九条美月という人間だろ?」
俺は九条さんにそう言い切ると、彼女はちらっとだけ俺の方を向きながら、目を丸くしていた。
そもそも、俺の場合は人間が嫌いだから警戒をするってだけであって、そこに九条という名前は関係ないだけだ。
「…………」
「なんだ、そんなに見つめて?」
「いえ、そんなことを言われたのは、友莉菜以外には一人しかいなかったので、少し驚いてしまって。私、病弱な時があったんですけど……その時に屋敷に来てくれた殿方に、同じような事を言われたんです」
六道以外に、そんな事を言った奴がいるのか。キザな野郎だな。
ん……? ちょっと待て、なんかどっかで聞いた事があると言うか、俺の記憶にベッドに寝ている女の子に言った覚えがある。
しかも……前世の異世界での記憶だ。
「そ、そいつとは連絡取ってないのか?」
「もう、どう頑張っても絶対に会えないので」
「…………」
もう会えない――異世界での事を言ってるならその通りだ。
それに、俺と真央が転生してるなら、他の人間も転生をしていてもおかしくない。ひょっとして、九条さんは……。
「蒼! なにそんなところでぼけっとしてるのだ! 全く、この魔王が働いていると言うのに……これだから勇者は!」
「ばっ……お前!?」
「はぶっ!? もがっ……」
俺は咄嗟に真央の口を手で覆うようにして止める。もがもが言ってるけど知ったことではない。
このままでは俺が勇者と思い込んでる痛い奴だって思われてしまう。なんとか弁明しないと。
「こいつが勝手に言っている事だから気にしなくていいぞ」
「もがもが……むー!」
真央が口を滑らせたのを止めただけなのに、何で真央は俺を睨みながら暴れているんだ? いいからちょっと大人しくしていてくれ。
「勇者……美月ちゃん、もしかして……」
「そんな……まさか」
「でもよく見ると似てない……? わたし、一年の時から前に会ったことがあるような気がしてたんだよ」
「あの時はもっと爽やかで、こんなに陰湿な感じはしませんでしたよ?」
……? 一体何を言っているんだろうか。変な目で見られると思っていたのに、何故か空気が重苦しい。
「聞くだけ聞いてみようよ! ねえ早乙女くん、これからわたしの質問を聞いて、変な子って思わないでね」
「……? わかった」
堅苦しい前置きを置いてから、六道は真っ直ぐと俺を見ると、短く問いかけてきた。
「早乙女くんは、転生者なの?」
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