第6話 幼馴染の考えがわからない
「ねむい……昨日夜更かしし過ぎたな……」
週明けの月曜日、俺は大あくびをしながら自分の席に座わる。
いつもはもう少し時間に余裕があるが、今日は少し寄り道をしたから、かなりギリギリだ。
それにしても、マジで眠い。夜中に格ゲーをしていたんだが、たまたまオンラインで出会ったプレイヤーがめっちゃ強くてボコボコにされた。
いやマジでうまかったんだよ。コンボ精度は高いし、どの技に対して割込みをすればいいかの判断も完璧だった。判断力の鬼だ。
結果、俺の心に火がつき、ずっと練習をしてたら……朝になってた。
仕方ないだろ? 青春応援部のとある物を作らされていたせいで、ゲームする時間が取れなかったんだ。格ゲーをしたい欲求が爆発した結果なんだ……ゲーマーの諸君なら、この気持ちは理解できるはずだ。
あ、ちなみに真央の家に行った日だが……あの後、外が真っ暗になるまでSNSの使い方を教えた俺は、クタクタになりながら家に帰った。
翌日の土曜日も、とある物の相談をする為に真央の家に行ってまたクタクタになった。
「おはよう蒼!」
「ああ……朝から元気だな真央」
「うむ! ところで例の物はできたのか?」
真央は自分の席に座ると、当然できているよなと言わんばかりに、目を輝かせながら俺に問う。少しは疑う事を覚えて欲しい。
「ああ」
「なんか投げやりなのが気になるが……見せるが良い!」
急かさなくても出すからそんなに身を乗り出すなって……顔が近いんだようっとうしい。それにまた周りの男子のヘイトを稼いじまうだろ。俺はタンクじゃないんだぞ。
……これ、オタクにしか伝わらないか?
「ほら、これでどうだ」
「おお……!」
俺は一枚の紙を鞄から出すと、真央に差し出す。そこにはざっくりではあるが、
『青春応援部は部員と依頼人を大募集しています! 活動内容は、生徒の皆さまのお悩みを解決するお手伝いをしつつ、部員達で楽しい青春を送る部活です! ご相談の依頼は2-Aの黒野真央に直接ご依頼するか、こちらのSNSアカウントにDMをください』
という旨が書いてあり、下の方に真央をデフォルメしたキャラクターが描かれたポスターだ。
ちなみにイラストは俺が描いたものだ。適当に作ってブツブツと文句を言われるくらいなら、しっかり作ってやろうと思ってな。
元々一回目と二回目の人生で絵を描くのは好きでよく描いていた。そして、二次元を愛する者として、デフォルメキャラは描けないとなと思い、昔に練習した。
安易に始めた練習は死ぬほど苦労したのは内緒だ。デフォルメキャラって凄い難しい。
「これは、ひょっとして我か……?」
「ああ。こういうのは目を引くものが必要だと思ってな。俺が描いておいた」
「蒼……」
あ、あれ? なんか真央の奴、ポスターを持ったまま俯いちまったんだけど……もしかして不評?
割と頑張って描いたんだけど……文句を言われるのは回避できないというのか? マズイ、なんとかこの場を乗り切らないと。
「あ、えっと……嫌なら作りなお――」
「良いではないか! とても気に入った! うむ……とても可愛い! 蒼にこんな才能があったなんて驚きだ!」
顔をあげたと思ったら急に大声を出すな。心臓に悪いんだよ。
ニコニコしながらポスターを見ていた真央は、頬をほんのりと赤らめながら、上目遣いで俺のことを見つめてきた。
「その……蒼の目には、我はこんなに可愛く見えておるのか?」
「お前は性格はあれだけど、見た目は可愛い方だろ」
「……そうか、可愛いか……ふふん、褒められて悪い気はしないのう」
なんだ、そのちょっとにやけた顔は? 元魔王にそんな顔は似合わないから止めておけ。
「真央、さっき一ノ瀬先輩に、部活動のお知らせに使ってる掲示板にポスターを貼っていいって許可をもらったから、ポスターはそこに貼ろう」
俺は話題を逸らすように、教室に来る前にやってきた事を真央に報告する。
本気で俺達の邪魔がしたいならポスターを貼る許しなど出す必要は無いと思うんだが。なんていうか、一ノ瀬先輩って俺が思っている以上に真面目なのかもしれない。
「えー!? コピーではダメなのか!?」
「構わないけど、それ張った方が早いだろ?」
「嫌だ! これは我にサンジョウしたものであろう!」
「それを言うならケンジョウだろ」
「うるさいうるさーい! 蒼はいちいち細かいのだ!」
真央は頬を小さく膨らませながら、プイっとそっぽ向いてしまった。コロコロと表情が忙しい奴だ。
別にそれ張ってもコピーを張っても変わらないと思うんだが。俺には幼馴染の考えがわからない。
「なんにせよ、これで生徒から依頼が来るはず! そして部員も沢山! ついに青春応援部のスタートだ!」
「まだスタートラインにすら立ってねーよ。とにかく、昼休みになったら張りに行くぞ」
「うむっ!」
「……? 青春応援部……ってなんだろう……?」
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「む~~~~……来ないのう……」
「今日ポスター張ったばかりだろ。そんなに直ぐ成果は出ないだろ」
同日の放課後、俺と真央は自分の席に座って依頼人が来るのを待ちつつ、作戦会議を続けていた。
と言っても、正直まだ良い手は思いついてない。
……何やってんだろ俺。帰ってゲームがしたい。
「そんな呑気にしていてよいのか!? 期限まであと一週間弱しかないのだぞ!」
「まあそうだけど……」
「あ、あの! 早乙女くん、ちょっといいかな……?」
「ん?」
俺と真央は、自分達以外の声に反応するように顔を向けると、そこには二人の女子が立っていた。
そのうちの一人は俺の知っている人物で、肩甲骨より少し長い明るめの茶髪のポニーテールと、クリッとした目が特徴的な女子だった。
彼女は六道友莉菜。俺の席の隣に座るクラスメイトだ。
六道はいかにも普通の女子というのがぴったりな生徒だ。身長は真央よりやや大きい程度で、明るくて人当たりの良い性格。
なんで人間嫌いの俺が知っているのかって? 一年の時に同じクラスだったからだ。そりゃ嫌でも多少は知ってしまう。
それに朝の挨拶程度はする仲だ。何故か彼女には少しだけ警戒心が薄れる……不思議なもんだ。
その隣の女子は知らないな。このクラスで見た事はあるんだけど、名前は知らない。
目がくりっとしている六道とは対照的に、やや切れ長の目が特徴的だ。真央や六道とは違い、モデルのような細い体をしている。
他にも、長い黒髪を、後頭部辺りで赤い大きなリボンで一つに纏めて降ろし、とても落ち着いた清楚な雰囲気を醸し出している。
他にも六道と対照的なのは、安心感を一切覚えられない。基本他人は警戒するんだが、何故か彼女にだけは更に身構えてしまう。なんでだ?
「えっと……確か蒼の隣の席の……」
「あ、ごめんね。わたしは六道友莉菜です! こっちはわたしの親友の……」
「九条 美月です」
真央がキョトンとしていると、六道と九条さんは、真央に向かってぺこりと頭を下げる。
……九条……? ちょっと待てよ……前に二階堂が言っていた。うちの高校には、世界的に有名な大企業の社長の娘が通っているって。その苗字が九条だったはず。
もしそれが本当なら、凄いお嬢様ってことじゃないか。
「我は黒野真央だ!」
「お前は転校初日に自己紹介しただろ。えっと……六道、何か俺に用か?」
「うんっ。早乙女くんというより、二人に話があって……その……」
何か言いにくい事があるのか、六道は顔を赤らめながらモジモジしていた。
挨拶する時の元気なのも良いけど、今の六道は保護欲をくすぐられるというか、守ってあげたい感がある。
ギャルゲーだと、メインヒロインか幼馴染ヒロインとかでいそうな雰囲気だ。
真央よ、幼馴染とはこういうのを言うんだぞ。よく見て勉強しておけ。
「友莉菜、はっきり言いなさい」
「美月ちゃん、そんなに怒らないでよ……えっと、二人にお願いが……ううん、依頼したい事があるの!」
少し恥ずかしそうに顔を赤くする六道の口から出た言葉は、俺達にとって待望の申し出だった――
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