第5話 幼馴染の家にお呼ばれしました
「はぁ……」
俺は学校の校門の脇で自転車のサドルに腰を下ろしながら、大きく溜息を吐いた。真央は帰る前にトイレに行くと言っていたから、今は別行動だ。
安易に了承してしまったが、元魔王のあいつの家に連れ込まれて何をされるかわかった物じゃないよな。
自分を滅ぼした恨みとか言って刺される……って事は無いと思いたいが、警戒はしておこう。
「すまん、待たせた!」
「別にたいして待ってない」
俺は校舎から走ってくる真央の方をチラッとだけ見て、直ぐに視線を逸らした。
「そういやお前、謝れるようになったのか。ガキの時は、俺が待ってるのは当然みたいな事を言ってただろ」
「我も成長をしているという事だ! どうだ、凄いじゃろ? 褒めても良いんだぞ! むふー!」
「すごいすごい」
「む~~~~! なんだその美しさすら感じる棒読みは!?」
一人で頬を膨らませてプリプリ怒っている真央なんかに付き合ってたら、体と時間がいくつあっても足りない。
「まあよい。さっさと我の家へ向かうとするぞ!」
そう言うと、真央は当然のように俺の自転車の荷台に横座りで腰を下ろした。
え、なに? 家まで乗せろっていうのか? うん、その自信に満ちた顔、拒否権は無いって言いたいんだな。全然魔王らしさが抜けてないぞ。
「ったく……ちゃんと捕まってろよ」
「うむ! 出発しんこー!」
真央の元気な掛け声と共に、背中から抱きつくように俺に密着してきた。正直暑苦しいし、ペダルが漕ぎにくいから少し離れて欲しいんだが。
「ふっふふーん♪ なんかこれ、青春って感じがするのう!」
「お前の青春の定義がよくわからんのだが」
「なんでわからんのだ! 蒼は馬鹿なのか!」
「馬鹿はお前だ! あと暴れるな、事故るだろ!」
「事故っても蒼を我の盾にするから問題ない!」
それだと俺がケガする前提じゃねえか。そんなことになるくらいなら真央を盾にしてやるぞこの野郎。
「あっ蒼! 今の道を曲がらんか!」
「あ、ああすまん……って、先に言え!」
「勇者なんだから、雰囲気で察してみせんか!」
「勇者言うな! それに雰囲気なんかで察せるか! エスパーか!」
「我のためにエスパーくらいなってみせんか!」
乗せてもらっておいて、なんでこんなに偉そうなんだろうか?
真央の事を待ってないで、さっさと家に帰ればよかったと今更ながら後悔しながら、俺は真央の家へと向かってペダルを漕ぐのだった。
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「ここだ! ご苦労だった!」
「……おう」
学校を出てから十分足らずで、俺達は小さなアパートの前へと到着していた。ここが真央の住んでいる家なのだろう。
なんかすごい疲れた。お疲れさま、俺。
「そこに駐輪場があるから自転車を置いてくるといい。我の部屋は二階にあるからな!」
そう言い残すと、真央は軽やかな足取りで階段を駆け上がっていく。
スカートがヒラヒラしていて、ここにいれば覗けそうな位置だが、あいにく真央の下着に興味はない。さっさと自転車を置いてこよう。
「早くせんかー!」
アパートの二階から、真央の急かす声が聞こえて来る。ガキの頃からせっかちだったけど、成長した今もそれは直っていないようだ。
「遅いぞ蒼!」
「一分も待たせてないだろ」
「バツとして、カギつっつきの刑じゃ! うりゃうりゃうりゃ――ふぎゃ!?」
「さっさと開けろ」
部屋のカギを俺の腹に何度も突き刺して遊ぶ真央の脳天に、思い切りチョップをお見舞いしてやった。悲鳴が想像以上に面白い。
「トイキな魔王ジョークも通じんのか! 心の狭い男め!」
「トイキじゃなくてコイキな。言葉は正しく使え。あと遊びに来たんじゃないのわかってるのか?」
「ふーんだっ! 蒼のバーカバーカ!」
何故俺が怒られた? 理不尽極まりない。
真央はプリプリしながら、ゆっくりと部屋の扉を開けると、質素な雰囲気の部屋が俺達を出迎えた。
開いていない段ボールが部屋の隅に置いてあるのが、如何にも引っ越してきて間もないというのがよくわかる。
しかし、ベッドにはネコのぬいぐるみが置いてあったり、カラフルな小物が小さな丸いテーブルの上に置いてあったり。
いかにも女子の部屋って感じだ。
「茶を出してやるから、我にありがとうと百回言いながら座って待っておれ」
「誰が言うか」
「つまらん男だのう!」
悪態を付きながらも笑っていた真央は、小さいキッチンへと向かっていく。
一方俺は、適当にテーブルの近くに腰を下ろした。
「ほれ、麦茶で良かったか?」
「ああ、大丈夫」
俺は真央から麦茶が入っているコップを受け取ると、それを口に付ける。砂糖を入れてあるのか、少し甘みのある麦茶だった。
真央は俺の向かい側に座り、俺と同じように麦茶を口に含むと、ニコニコしながら美味しいと喜んでいた。
「そういえば、なんでお前一人暮らしなんかしてるんだ?」
ずっと疑問に思っていた事を真央に聞いてみる。
「我が蒼と青春をする為だ。でも、パパとママにも色々都合があるからの。本当は一年生の時にはこっちに戻りたかったのだが、なかなかいい案が浮かばなくてのう」
一人だとそういうのを探すのは大変だよな。お世辞にも頭がいいとはいえない真央じゃ厳しいだろう。
「いろいろ考えてる時に、ママの知り合いがアパートを持っていると聞き、お願いして格安で部屋を借りて住まわせてもらっておる。あっ、ちなみに蒼の高校はママにお願いして、蒼のママに聞いてもらったのだ」
ふふんと自慢げに笑いながら真央は言ってのける。
俺と青春をする為だけに? 相変わらず行動力高すぎる。
やっぱり何かヤバい事でも考えてるんじゃないか? 例えば、人助けをして魔王勢力を高めて学校を乗っ取るとか……考えすぎか?
あとお袋、勝手に教えないでくれ。せめて俺に一言くれ。
「せっかく転校できたのだ。我は楽しく青春をしたいし、人助けをしたい! よって今は部活の事を考えるぞ!」
「へいへい。まずは今の問題を上げるぞ。とりあえず部員と顧問の確保、そして実績……一番の問題は実績だな」
部員は最悪真央が誰かに声をかければ、真央狙いの男が来るかもだし、顧問も頼み込めば何とかなる……かもしれない。
二階堂を誘うのも手だけど、あいつはギャルゲーが人生で一番優先度が高いから、話を聞いてくれるかどうか……。
あと、実績だけは自力で何とかしないといけない。
「む~~~~……ポスターで宣伝してみるとか?」
「それも手だな。あとは……SNSを利用してみるか」
「えすえすえす……?」
キョトンとした顔で真央が問う。もしかしてこいつ、SNSを知らないのか?
あと真央が言ってるのだとSSSだからな。ソシャゲの最強レア度じゃないんだぞ。
「SNSな。ほら、こういう奴。インターネットを使って色んな情報を発信したり、交流したりできるんだ」
「ほー! スマホは電話とメールとラインしか使った事が無かったから、こんなもの知らなかったのだ!」
「一応ラインもSNSだからな?」
「そうだったのか!?」
俺のスマホを使ってSNSの画面を見せてやると、真央は驚きながら画面を見つめていた。
うちの高校——春宮高等学校は県内でも割と有名な高校だ。学校の公式アカウントや部活アカウントも活発に活動をしている。
だから、うちの新しい部活としてSNSで宣伝すれば、多少なりとも効果があるのではないかと思った。
華の女子高生はSNSくらい使いこなせるものだと思っていた。
そういうのに興味がない人もいるだろうし、真央もそのタイプなのかもしれない。
「友達がほぼいない俺が宣伝しても、影響力は限りなくゼロだ。でも真央は転校生ってこともあって、普通よりも注目度が高いだろう」
「自分で言ってて悲しくならんか?」
「特には。やり方はわかるか?」
「わからん! だから我に教える事を許すぞ!」
「……はぁ。まあそうなるよな。さっさと教えるからこっちこい」
俺は淡白にそう言うと、真央は嬉しそうに自分のスマホを持って俺の隣を陣取る。
だから近いって。肩がぶつかる距離まで来いなんて誰も言ってないんだよ。せま苦しいから離れて欲しい。
そして、俺はこの言葉を酷く後悔することになる。
一個教えると、以前に教えた事を全て忘れるくらい、真央は極度の機械音痴だったのだ――
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