第4話 泣き虫幼馴染
「む〜〜〜〜……どうしたものか……」
週末の放課後、俺と真央は人が誰もいなくなった教室で頭を抱えていた。
外の夕焼けの光が、一つの机に向かい合わせに座っている俺達を慰めているかのように照らしている。いや、もしかしたら笑っているかもしれない。
「こんなに問題が山積みとは……許可など取らずに活動すれば良いのではないか!?」
「ダメに決まってんだろ。そもそも作る前にちゃんと調べておけよ。無計画というかなんというか……相変わらず猪突猛進だな」
「ちょとつもーしん……?」
しまった、こいつは昔からかなりのおバカだった。四文字熟語を言ってもわかるはずもない。
「まあそれはいい。とにかくどうするかだな……」
俺は椅子の背もたれに体重を預けながら、数日前の事を思い返していた――
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「駄目よ。許可できないわ」
真央と俺が一緒に部活動をすると決めた次の日である、火曜日の放課後——真央は俺を連れて生徒会室へと向かった。
うちの高校では、生徒会が部活動の承認を出すそうだ。
ギャルゲーにやたらと権力を持った生徒会が出てくるってのはお決まりだけど、リアルでもそうとは驚きだ。
そこまでは良かったのだが、俺達は少し気の強そうな生徒会副会長の 一ノ瀬芽衣先輩に門前払いをされそうになっていた。
「ど、どうしてなのだ!」
「えっと……部長の黒野さん? あなたね、こんなよくわからない部活を考えたのは」
一ノ瀬先輩はかけていた眼鏡を外すと、金色の長い髪を耳にかけながら、やや棘のある言い方をしてきた。
それに関しては俺も同意をせざるを得ない。本当によくわからん部活だ。
「よくわからなくなどない! 活動内容は伝えたであろう!?」
「究極の青春を楽しみつつ、生徒の青春の手助けをする……よね? 漠然としすぎてわからない。それに、そんな部活なんて前例はないの」
「何故わからんのだ!」
真央は俺の隣で悔しそうに歯ぎしりをしている。一ノ瀬先輩と真央は水と油並みに性格が合わなさそうだ。
正直こうなるのは予想付いていた。
俺の浅はかな考えでもわかったんだ、真央も少なからずはわかっていただろう。多分。
でもこいつは一つの事を決めたら、周りの事が見えなくなる節がある。それくらい、これと決めた事を一途に頑張ってしまう。困った元魔王だ。
仕方ない、あとですねられても面倒だ。少し助け船を出すか。
「一ノ瀬先輩、部活動を作るのに必要な条件ってなんすか?」
「そうね。部員が五名以上、顧問教師をつけるのが最低条件……あと、こんなよくわからない部活を生徒に納得させるためにも、実績が欲しいわ」
実績か。青春を楽しむで実績を出すのには向いてないだろうし、そうなると限られてくるな。
「なら依頼を達成し、依頼者に満足してもらえればいいっすね」
「そうね。ただし期限は一週間……は流石に可哀想ね。二週間後の火曜日まで。それ以上は認めないわ」
期限? 部活動を作るのにそんなものが必要なのか?
「元々ヘンテコな部活なのよ? あなた達が本気でやりたいって気持ちを見るために、期限を設けさせてもらうわ」
俺の疑問を察したのか、一ノ瀬先輩は手短に答えてくれた。
大方、期限を設けて諦めさせるか、もしくは期限に焦って自滅するのを狙ってるってところか?
まあ元々こっちが頼む側だしな。一ノ瀬先輩の土俵に上がるしかなさそうだ。
「了解っす。二週間っすね」
「ええ。無事に達成できれば、部室をこちらで用意するわ」
部室まで用意してくれるのか。大盤振る舞いなのか、それとも俺達が絶対にクリアできないと思ってるのかもしれない。
「それはありがたいっすね……なんにせよ、俺達は条件を達成して見せますよ。約束、忘れないでくださいね」
「…………」
「……先輩? なんすか俺の顔をじっと見て……なんかついてます?」
じっと見られたせいか、俺は無意識に視線を逸らした。
「いえ……なんとなくだけど、あなたなら困難な条件でもクリア出来るんじゃないかと思って。期待してるわね」
「ありがとうございます。では今日は失礼します……真央、行くぞ」
「う、うむ……絶対我らが勝つからなー!」
俺は騒ぐ真央の首根っこを掴んで引きずりながら、生徒会室を後にする。
これは生徒会からの挑戦状だ。面倒だしやりたくないけど、あそこまで煽られると多少はやる気も出る。
良いだろう、その挑戦受けてやろうじゃないか。
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……とまあ一ノ瀬先輩に意気込んで見せたのは良かったが、中々良い案が思いつかないうちに、週末になっちまったというわけだ。
やっぱり真央に協力しないで逃げ続けたほうが良かったか? 完全に迂闊な選択肢を選んでしまった気がしてならない。
生徒会の時に無駄に熱くなってしまったのを、今更になって後悔してる。
「あの一ノ瀬芽衣という女、今思い出してもムカつくのう!」
「仕方ないだろ。向こうとしては面倒事は増やしたくないだろうし」
「我のやる事が面倒だというのか!?」
「顔が近いんだよ、うっとうしい」
「あぎゃっ!? な、なんでデコピンをした!」
真央はデコを押さえながら、涙目になりながら文句を述べる。
顔が近くて邪魔だから追い払っただけなんだが、余計な事を言うと更に噛みつかれそうだから黙っておこう。
――いつも思うんだが、なんでこいつは距離感がこんなに近いんだ?
「得体のしれない部活を承認して、俺達が問題を起こしたら、生徒会としては対処に追われるだろ? 向こうからしたら、それは面倒事でしかない。まあ俺としては人助けなんかしたくないし、部活が出来ない方がありがたいけどな」
俺は目の前に迫ってきた真央の顔から逃げるように、少し視線を逸らしながら簡単に説明してやると、真央はポロポロと大粒の涙を流していた。
「……相変わらずの泣き虫だなお前」
「ひっく……我は……楽しく青春を……ぐすんっ」
「おーいお前ら、イチャついてるのもいいけどそろそろ帰れー」
後で我が泣いていたのに慰めなかったとすねられるのが面倒な俺は、ため息を吐きながら、子供をあやすように真央の頭を撫でてると、教室の入口から聞き覚えのある声が響く。
そこには、うちのクラスの担任で、俺に学校案内を押し付けた張本人の小林 和夫先生が、眠そうに欠伸をしながら立っていた。
そうだ、顧問も必要だって言ってたし、ちょっと情報収集するか。
「先生、部活の顧問教師ってどういう人に頼むべきっすかね?」
「なんだ藪から棒に。基本的に顧問の兼任は出来ないから、フリーの教師を頼むのが一番楽だろ」
兼任がダメなのか。俺達からしたら割と厳しい縛りだな。
「ちなみに小林先生は?」
「俺か? 最近顧問をしていた部活が無くなったから、今は何もしてない。言っておくが、俺に頼むなよ。かったるいからな」
顧問に誘われないように先手を打った小林先生は、そう言い残してその場を去っていった。
今の流れで顧問を確保できれば良かったけど、そう甘くはないか。
「とにかく早く手を打たないとな」
「ぐすっ……そうだな……蒼よ、我は一つ提案があるんだが」
真央の提案……だと? 何か嫌な予感がする。俺のその直感は、見事に当たることになった。
「我の家で今後の相談をせぬか? うむ! それが良い!」
急に元気になって勢いよく立ち上がった真央は、何故か机の上に立って腕を組みながら、変な事を提案してきた。
「危ないから降りろ」
「何故だ! 偉い人間は高い所に行くのが普通であろう! 無理やり降ろすというなら、我が怒りの炎ブレスで焼き尽すぞ!」
「高い所に行くのはお前とケムリだけだ。あと、そんな事は魔王時代でも出来ないんだから諦めろ」
「なんで出来ないのだー!?」
なんでとか俺が知るかよ。そもそもお前、魔王時代も炎を扱えてなかっただろ……もっぱら格闘戦オンリーの脳筋だったくせに。
そんな事は今はどうでもいい。時間が無いのは確かだし……仕方ない、真央の家で作戦会議をするしかないか。
「……そうするか」
「うむ! あ、言い忘れておった。我は今一人暮らしでの。誰にも邪魔されんぞ!」
……あれ、こいついつの間に一人暮らしを始めていたんだ?
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