第35話 努力の結果
「いくぞ! せーのっ!」
先に行ってしまった二組に追いつくため、俺の掛け声に合わせて再度出発する。
この状況から追いつけるのかどうかと聞かれると、正直わからないってのが本音だが、最初は俺達が勝っていたんだ。速度で負けているとはとても思えない。
とはいえ、追い抜くためには多少なりとも曲がらないと抜かすには難しい。曲がる練習は少しはしたが、抜く練習はしていないからな……ぶっつけ本番だが、泣き言は言っていられない。
「イッチニ! イッチニ!」
俺の右隣を担当する六道から、一生懸命さが伝わる掛け声が聞こえてくる。
あの二組を抜くためには、六道にもう一度相手がぶつかる可能性がある。そして、それは九条さんも同様だ。
ぶつかる衝撃で転ばないように、しっかり押さえておかなければと思った俺は、両腕に力を更に入れて二人を支えた。
「一組目! 少し右に行って追い抜くぞ!」
「うんっ!」
「わかりました……!」
まず最初の組を追い抜くために、俺達は少し右に移動して抜かす準備に入る。ぎこちなくではあったが、うまく曲がれてまずは一安心だ。
俺達の速度と、相手の組の速度は歴然で、すぐに追いつくことが出来た。
「うっ……」
追いついたのは良かったが、抜き去る際に九条さんに相手の選手がぶつかってしまい、小さく悲鳴を上げる。
けど問題ない。ぶつかる事は承知のうえで二人をガッチリとホールドしてるからな。多少ぶつかられた程度じゃビクともしないはずだ。
俺の予想は見事に的中する。九条さんは特に転ぶ事も怪我をする事も無く、二位を走っていた組を抜くことが出来た。
「支えてくれてありがとうございます、早乙女君」
「気にするな。このままいくぞ!」
言葉では勇ましい事を言ってみせたが、右足の痛みが徐々に痛みだしてきて集中が削がれる。思った以上にハンデだなこれ。
「イッチニ……イッチニ……」
「あわわ……イッチニ! ひゃう……!」
九条さんは余裕がありそうだけど、六道は少しついていけなくなってるみたいだ。
けど、ここでスピードを緩めたら逆転は出来ない。六道には頑張ってもらうしかない。
「六道、焦らなくていい! このペースで行けば大丈夫だ!」
俺の言葉に、六道は大きく頷いて応えてくれた。だが、根性論だけでは流石に限界がある。六道がついていけなくなったら、俺が支えて何とかするしかない。
「見えてきた……! 左に避けて追い抜くぞ!」
トップを走る組に追いつけたが、同時にゴールも近づいてきた。
右に避けて追い越した方が安全だろうけど、そんな事をしていたら間に合わない。なら、左に行ってインコースを突くしかない。
これが正しいかはわからないが、そう思った俺はそう指示を出すと、一回目の時よりもスムーズに左に少し移動することが出来た。
「イッチニ! イッチニ!」
「イッチニ、イッチニ……」
「イ、イッチニ! はあ……はあ……」
俺と九条さんの掛け声は合っているが、六道は疲弊して掛け声を出すのもしんどそうだ。それでも、何とか手と足に力を入れてくれている。
こんなに……こんなに六道は頑張っているんだ。これで報われなきゃ、こんな世界クソゲーだっていっても過言ではない。
先頭との距離はかなり縮まり、あと数メートルで追い抜かせる。だが、いつの間にか最後のコーナーを超え、ゴールが目前に迫ってきていた。
あと少し……!
そう思うと、嫌が応にも体に力が入る。足が痛いとか言っていられねぇ。あと少しで逆転できる!
もう少し……もう少しなんだ…………頼む……!!
俺の願いは天に届いたのか、ついに俺達と戦闘の組が横ばいに並んだ。だが、そこでゴールを知らせるピストル音が無情にも辺りに響き渡ってしまった。
勝ったか……負けたか……早く判定を知りたいのに、実行委員の連中は判定用の機械を覗き込んでいた。
真央の時は勝つと確信していたから緊張はしなかったが、今は心臓が爆発しそうなくらいだ。
この待っている時間、めっちゃ嫌だな……数秒が数分に感じられる。とりあえず今のうちにヒモを外しておくか。
二人も俺と同じく不安なのだろう。ヒモを外し終えた後、六道は両手を合わせて祈るようなポーズをし、九条さんはどこか不安そうな面持ちをしている。
時間にして一分もかからないうちに、実行委員の女子はマイクを持って俺達の前に立つ。頼むぜ……!
『ただいまのレース……一位、早乙女君チーム……二位——』
「やったああああ!!!」
結果が聞こえると同時に、六道は歓喜の声を上げながら、九条さんに勢いよく抱き着いた。
無事に勝利することが出来たか。そう思う俺の右手には、いつの間にか握りこぶしが作られていた。
「ど、どどどうしよう!? わ、わたし生まれて初めて運動で一番になれたよ!?」
「私もです。一番って……すごく嬉しいですね」
「うんっ! あっ……もしかして夢!? 夢なら覚めないでぇ!」
「夢じゃないですよ。ほら」
「いひゃい……ゆめひゃない……!」
九条さんにもちもちな頬を少し引っ張られて現実だとわかったのか、六道は変な声を漏らしながらニコニコしていた。
「……言った通りだったろ? 六道がたくさん頑張った結果だ。よくやったな」
「っ……! あっあう……」
「六道?」
俺は少しだけ笑いながら六道にそう言うと、何故か頬を赤くしながら俺をジッと見つめてきた。
「わ、わたし…… 早乙女くん……! 美月ちゃん……! うわぁぁぁぁん!」
よほど嬉しかったのか、それとも緊張の糸が切れたのか――六道はまるで子供の様に大声で泣き始めてしまった。
それを、九条さんが優しく抱きしめながら頭を撫でてあやす。なんかこう見ると親子みたいだ。それともメイドの面倒を見る主人か?
「九条さんも良くついてきてくれた。感謝するぜ」
「別にあなたのためじゃないです。友莉菜のためなので」
「こんな時くらい、ちょっとは優しい事を言っても罰は当たらんと思うんだが?」
「冗談ですよ。あなたも友莉菜のためにありがとう」
僅かにとはいえ、いつもの無表情ではなく微笑みを浮かべながら言う九条さん。いつもそれくらい穏やかなら、俺も少しは静かに毎日を過ごせると思うんだが。
それにしても……めっちゃ疲れた。足も痛みが酷くなっていってる。俺としたことが、体育祭なんかに本気で取り組んでるなんて笑っちまうな。
「よがっだ……うえええん……」
「よしよし、良かったですね」
嬉しそうな二人の顔を見ていたら、体育祭がどうとか、そんな些細な事を気にしているのが馬鹿らしくなってきた。
――きっとこれで良かったんだよな。
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