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第34話 三人四脚、いざ本番!

「さて、いよいよだな……」


 昼食後、いくつかの競技を挟み、ついに三人四脚の番になった。真央の声援を受けてから、グラウンドの中央にある走者の待機場所に移動したんだが……。


「あうううう……緊張する……お、お腹痛くなってきた……」


 三人四脚の仲間である六道は、緊張で顔を青ざめさせてるし、汗もダラダラだしで完全にグロッキーになってしまっている。


 こんな調子じゃ勝てる勝負も勝てなくなるのは明白だ。真央の時の様に上手くいくかはわからんが……少し励ましておくか。


「六道、大丈夫だ」

「早乙女くん……?」

「あれだけ沢山練習しただろう? 練習は絶対に嘘をつかない」

「で、でも……わたし運動苦手だし……」


 自分の言葉で更に追い詰めているのか、六道は涙目でうつむいてしまった。


「苦手だから……それがなんだってんだ? 苦手な奴は一番になっちゃダメなんて道理はない。六道は苦手な事から逃げないで努力をしてきたんだ。そんな奴が一番になれないはずがない」


 涙目の六道に、俺は自分の気持ちを素直にぶつけると、六道は頬をほんのりと赤に染めながら、じっと俺の事を見つめてきた。


 我ながらなんともブサイクな言葉だと思う。六道に告白の練習をしていた時に偉そうに言ったくせに、何たる様だ。


 それでも……俺は六道にはいつもの様に、明るくて前向きになって欲しかった。


「早乙女くん……ありがとう。やっぱり早乙女くんはすっごい優しいね」

「そんな事は無い、普通だ」

「普通じゃないよ~? さすが勇者様だよ。えへへ……わたしちょっと落ち着くね」


 俺の励ましが届いたのか、六道はニッコリと笑って見せてから目を瞑ると、「大丈夫……きっと大丈夫……」と言いながら深呼吸を繰り返し始めた。


「そんなカッコイイ事を言って、もし負けたらどう責任を取るんですか?」


 無事に六道を励ませてホッとしていると、逆側にいる九条さんが俺の耳に顔を近づけると、ヒソヒソ声で俺に話しかけてきた。


 急に顔を近づけないでくれ。六道に言った事が勘に触って酷い目に遭わされるのかと思ったじゃないか。


「俺がそんな事にさせないから、九条さんも心配はいらねえよ。万が一負けた時は……笑って誤魔化すとするか」

「あら、随分と男前な台詞ですね。では一ミクロンぐらい頼りにしてますね」

「もうちょっと頼ってくれてもいいと思うんだが」

「では二ミクロンに格上げしましょう。大サービスですよ」

「誤差レベルすぎるだろ」


 九条さんとミニコントをしていると、俺達の順番がついに回ってきた。


 三人四脚は三組でグラウンドを一周走り、順位を競い合う競技だ。


 俺達の対戦相手に関してだが……全く知らない奴らだな。まあ他人が嫌いな俺が覚えている奴なんて、佐藤みたいに目立つ奴くらいだ。


「ヒモはちゃんと縛られてるか?」

「うんっ、こっちは大丈夫!」

「私も大丈夫です」


 スタート地点に立った俺達は、互いの足を縛るヒモの最終チェックをする。競技中に外れたらまた結び直しになってしまうからな。このチェックは超重要だ。


「よし、抱き寄せるぞ」


 俺は一声かけてから、両隣に立つ美少女達の肩に腕を回して抱き寄せる。何度も練習をしているおかげか、最初の頃よりはスムーズになったもんだ。


 俺達の準備が出来たのを見計らったかのように、実行委員の一人がピストルの銃口を天へと向けた。


「位置についてー……よーい……」


 ピストルの甲高い音と共に、俺達のレースの幕が上がった。


 普通のレースと違い、一斉に飛び出す訳ではなく、各チーム自分達の掛け声から始めていた。俺達も例に漏れず、練習通りに「せーのっ」から始めた。


「イチ、ニ……イチ、ニ……」


 俺の掛け声に合わせて二人は練習通りに足を前に出して進んでいく。他の二組はあまり練習をしていなかったのか、まごまごしたり恥ずかしがったりで速度が出ていなかった。


「イッチニ……イッチニ……あわわ……」


 少し進んだ所で六道が少しテンパったような声を上げていた。少しリズムが崩れてきてしまっているようだ。


「九条さん、少しだけ速度を落とすぞ」

「わかりました」


 六道に合わせるために俺と九条さんは速度を少し落とす。当然進む速度は落ちてしまったが、六道に少し余裕が戻ってきていた。


「良い感じだ、このまま行くぞ」

「うんっ! イッチニ、イッチニ!」


 俺達は掛け声に合わせて左、右と足を出して順調に進んでいく。


 正直順調すぎて怖いくらいだ。こういう時にこそ、想定外の事が起こるってのは、勝負事ではよくある事だ。


 そして何より、嫌な予感がする。


 少しだけ後ろを見ると、俺の予感を現実にするかのように、後続の一組が迫ってきた。しかもこのまま真っ直ぐ来られたら、六道に接触する可能性がある。


「きゃあ!?」

「六道っ!! くっ!?」


 六道の悲鳴と同時に、彼女は大きくバランスを崩す。


 だが、ぶつかるのではと予測していた俺は、六道の肩に回す腕に思い切り力を入れて抱き寄せていた為、転ぶことは無かった。


 ――その代償として、俺達はその場に足を止めてしまったうえ、俺の右足首に鈍い痛みが走り、変な声を出してしまった。


 変に力を入れていたのと六道がバランスを崩したせいで、足首を捻っちまったか……?


「友莉菜! 大丈夫ですか!?」

「わたしは大丈夫……それよりも早乙女くん……変な声出してたけど……?」

「早乙女君……ひょっとしてどこか痛めましたか……?」

「問題ない。無意識に六道を抱き寄せたせいでビックリしちまってな」


 六道と九条さんに変に不安にさせない為にも、俺はわざと軽口を叩いてみせる。


 右の足首にはジンジンと痛みが広がっていってるが、そんな事は言っていられない。足が痛いからって、二人の努力を水の泡にするのは嫌だ。


 他人が嫌いな俺が、ずいぶんと変わったものだ。二人が頑張っているのを間近で見ていたから、無意識にそう思うようになったんだろうか。


「二人共、速度を上げるぞ。大丈夫だ、転びそうになったら俺が下敷きになってやる。勝ちに行くぞ!」

「早乙女くん……うんっ!」

「ええ。友莉菜にぶつかった罪……決して軽くは無いわ……!」


 ここから逆転をする為に、俺は二人と気持ちを合わせて再度走りだす。前には俺達にぶつかった組を先頭に、いつの間にか俺達を抜いていたもう一組が走っている。


 この状態で他のチームを抜く練習なんてしていないし、俺の右足も万全じゃない。けど、絶対に勝てない訳じゃない。


 元勇者の腐りきった根性、お前らに存分に見せてやろうじゃねえか。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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