第33話 元魔王様の実力
スタートの音と共に飛び出した選手四人――その中でも真央は走力で優っているようで、一番に平均台へとたどり着いていた。
まあ、あいつの走力ならこれくらいは想定内だ。特に驚く要素はない。
「わあ! 真央ちゃんスゴイスゴイ! 一番に平均台に着いたよ!!」
俺の隣では、六道がピョンピョンと小さく跳ねながら興奮を前面に押し出していた。その影響で、頭のポニーテールも楽しそうに跳ねている。
真央はいつの間にか平均台を超え、次の障害物であるハードルへと差し掛かろうとしていた。
「……これは見事ですね」
九条さんは小さな桜色の唇に、これまた小さな手を当てながら驚いていた。
その気持ちもわからんでもない。何故なら、真央は一個もハードルを倒すことなく、後ろを走る選手とドンドンと差を広げていってるからだ。
正直この大差は俺も想定外だった。真央の奴、完全に勝ちにいってるな。
「早乙女くん早乙女くん! 真央ちゃん凄いね! わたしじゃ平均台から先に行ける気がしないよ!」
「流石にそんな事は無いと思うぞ」
「えー!? 絶対無理だよー!」
興奮しながら自分を卑下する六道に、率直な感想を言うと、六道は腕を前に突き出してブンブンと横に振ってみせた。
俺は六道を近くで見ていて、彼女がとても努力家だと知っているからこそ、そう言い切れるんだけどな。
さて真央の方だが、ここまでは順調だ。ハードルもスムーズに行けて、後ろともかなりの差が開いている。このままいけば勝てそうだ。
だが簡単にいかないのが現実ってものだ。現に真央はくぐり網に入ったとたん、急にスピードが落ちてしまっていた。
正直俺としては、あの網を見た瞬間にこうなるんではないかと少しだけ思っていた。
何故遅くなったかって? 理由は単純――真央のあの胸が邪魔になるからだ。どうしてもくぐる際に、あの無駄に成長した胸が引っかかる。ほふく前進をしようにも、胸が潰れて邪魔になる。
そして真央の性格上、ああなったら……やっぱりな。
「……なんかイライラしてるようですね」
九条さんの言う通り、真央は網の中でもがいていた。もがけばもがく程、網は真央の体から自由を奪っていく。
きっと、「この網邪魔なのだー!」とか思っている頃だろう。ああなったら、もう抜け出すのは厳しい。
「真央ちゃーん! 負けないでー!」
六道の必死の声援も虚しく、後続の距離はどんどんと縮まっていく。
これはもう万事休すか? そう思った矢先、俺の体には自然と力が入り、再度大きく息を吸い込んでいた。
「真央ー!! 慌てんじゃねー!! 落ち着けばお前は負けねー!!!」
周りの事など一切気にせず、俺は持てる限りの最大限の声量を真央にぶつける。すると、俺の声が届いたのかは定かではないが、暴れていた真央の動きはピタリと止まった。
……恥ずかしっ。なんで一度で終わらずに二度もこんな大声出してんだ? 別に真央が負けたって俺には関係ないはずなんだが……最近自分の気持ちがよくわからない事が多い。
「あ、あれ? 真央ちゃんどうしちゃったのかな……」
困惑する六道の事などお構いなしに、真央はその場で動かずにじっとしている。当然のように後ろの選手に一人、また一人と抜かされ、ついには最下位になってしまった。
「わわ!? 抜かされちゃったよ~!」
「いえ、どうやらここからのようです」
冷静に言う九条さんの言葉通り、真央は絡まった網を手早くほどくと、散々苦しめられた網をするりと抜けた。どうやら温まっていた頭が冷えたようだ。
「……これは勝ったな」
誰に言うでもなく、俺はぽつりと呟く。
無駄に付き合いが長い俺にはわかる。元々能力の高い真央が、あそこまで集中した状態で負けるはずはない。そして厄介な網エリアを超えた以上、逆転は時間の問題だろう。
俺の予想はどうやら当たっていたらしく、網から縄跳びが置いてある所に向かう途中で、一人の選手を追い抜いた。
「わ~! すっごい速いよ〜!」
最後の縄跳びは、走りながら縄跳びを飛んでゴールまで向かうエリアだ。真央の走る速度は凄まじく、苦戦している前の選手との差をグングンと縮めていく。
「追いついてきた~! 真央ちゃん頑張って~!」
真央は一人追い抜き、先頭を走る選手との差も一気に縮めていく。だが、ゴールまでの距離もかなり縮まってきていた。
正直間に合うか微妙だ。それでも真央が勝つ。俺はそう確信している。
だが、俺のその期待を裏切るように、真央と先頭の選手が並んだタイミングでゴールにたどり着いてしまった。
かなり際どかったのか、難しい顔をした実行委員が数人程集まって、判定用のカメラを覗いている。
「真央ちゃん勝ってるよね!? あんなに頑張ってたもんね!?」
「何とも言えんな……かなり際どかった」
「そうですね。今は静かに待ちましょう」
「う~……緊張するよぉ……」
六道は神に祈るように胸の前で手を合わせている。九条さんも何食わぬ顔ではいるが、緊張しているのか額から汗を流していた。
俺の判定では真央の勝ちだ。けど、しょせんはこの位置からの判断だから信憑性はないな。
『ただいまの結果が出ました。一位は……2-Aの黒野真央さん。二位は――』
「やったー!!」
「おわっ!?」
判定のアナウンスによる結果が出たと同時に、六道は嬉しさを爆発させながら、何故か俺に思い切り抱き着いてきた。
喜びをぶつける先がいないからって俺にぶつけるな! 九条さんに殺されるだろ!?
****
「真央ちゃんおかえり~! 凄かったよ!」
「お疲れ様でした。お見事でしたね」
「ふっふっふ……見たか我のカッコイイ姿を! まさに大・逆・転! むふー!」
障害物競走が全て終わり、俺達の元に戻ってきた真央は偉そうに胸を張りながら鼻高々に自画自賛をしていた。
ったく、なにが大逆転だっての。冷静にやってれば負けない勝負だってのに焦るからこうなるんだよ。
そんな事を思っていると、真央は急に俺の顔をじっと見つめ始めた。なんだよ、あんな大声を出した事を馬鹿にでもするつもりか?
「蒼の声、我の元に届いておったぞ! 蒼がいなければ勝てなかったかもしれん。良い働きであったぞ!」
「なにが良い働きだ偉そうに」
「はへるのらー!」
満面の笑みを浮かべながら偉そうに胸を張る真央の頬を、いつものように潰してヒヨコ口にしてやった。
「む〜〜〜〜! いつも我のモチモチほっぺを潰しおって〜!」
「あはは……ねえ真央ちゃん、わたしの応援は届いてた?」
「私も周りの視線に耐えながら声援を送りましたよ」
「も、もも、もちろんそれも届いておったぞ!」
そんなに動揺を表に出すな。多分本当に聞こえてたんだろうけど、めちゃくちゃ嘘っぽく聞こえるぞ。
「真央ちゃんひど〜い! もう真央ちゃんなんてし~らないっ。美月ちゃん、いこっ」
「ふふっ、そうですね。黒野さんには反省してもらいましょう」
「わ、我の言い方が悪かった! だから機嫌を直してくれー!」
真央をからかっているのだろう、六道と九条さんは楽しそうに笑いながら小走りで何処かへと去っていく。
それに対して真央は両膝を地面につけ、大量の涙を流しながら二人に向けて腕を伸ばしていた。なんか漫画とかのワンシーンでありそうだな。
「やれやれ。冗談だろうから本気にすんなよ」
「ぐすっ……そ、それくらいわかっておる」
ならその涙は何なんだよ。芝居だっていうなら役者になるのをお勧めするぞ。
「それで蒼よ、さっき友莉菜に抱きつかれておったが、あれはどういう事なのだ?」
「あれは俺は何も悪くねぇ!」
「口では何とでも言える! ひょっとして友莉菜をたぶらかしたのか!?」
「勉強が出来ないのにくせに、なんでそんな言葉知ってんだ!?」
「それくらい知っておるわ! それでどうなのだ!?」
せっかく応援したというのに、なぜ俺は責められているんだろう? そしてなぜこんな事で真央は怒っているんだ?
「む~~~~! 蒼! 我の話を聞いておるのか!?」
「なんでそんなにお前は怒ってんだ!?」
「ムカムカするからなのだ!」
頬を膨らませる真央は、無駄に整った顔を俺の顔にずいっと近づかせる。
理由があまりにも理不尽すぎるだろ! って、だーから近いっての! 周りの連中の視線――主に野郎共の妬みの視線が痛いんだよ!
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