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第32話 体育祭、開幕!

 真央と瑠実が再会をした日から一週間後――ついに体育祭の日となった。


 一番広い第一運動場に生徒が全員集まっているからなのか、とても熱気に包まれていた。グラウンドはグルっとロープで囲まれていて、その外はクラスごとにシートで分けられている。


 開会式が終わってすぐの今は、うちの組みのシートのところで、最初に行われる応援合戦を待っているところだ。


「早乙女っち! 今日は気合入れていきまっしょーい!」

「おう、そうだな」


 今日もハイテンションな陽キャの佐藤は俺の肩に腕を回しながら言う。


 佐藤だが、再度依頼をした時から一度も弱音を吐かずに、今日までみっちり練習を重ねてきた。


 その甲斐があってか、一昨日の活動をした時のタイムは、初日の時よりも確実に速くなっていた。


「おーい佐藤ー!」

「お、ご指名入ったんでこれにてドロンするわ! んじゃな早乙女っち!」

「へいへい」


 誰かに呼ばれた佐藤は、敬礼を一つ残して足早に去っていく。


 佐藤を相手にまともに反応を返すと無駄に疲れる――この一週間でそう学んだ俺は、適当に返事を返して佐藤を見送った。


 根は悪い奴じゃないってのはわかったんだけどな……本番前に疲れるのは勘弁してほしい。


「早乙女殿、いつの間にあんな陽キャと親しくなったでござる? はっ、まさか早乙女殿も陽キャデビュー!? 陽キャは敵でありますが早乙女殿は我が友……どうすればいいのでありますかー!!」

「勝手に決めるな。部活の依頼でちょっとな…… あとうるさいから少し静かにしろ」


 一人で馬鹿みたいに騒ぐ二階堂にそう答えると、感心したようにコクコクと首を縦に振っていた。


「さて、拙者はちょっとトイレに行ってくるでござる。さらばっ!」


 ビシッと右手を上げてから、二階堂は颯爽とその場から走り去っていった。


 よくもまあその贅肉だらけの体でそんなに速く走れるもんだ。ちょっと尊敬するくらいだ。


「早乙女君、なにぼーっとしてるんですか? もしかして緊張をして……って、あなたにそんな情熱は持ち合わせてないですよね」

「も~! そんな事言ったら早乙女くんが可哀想だよ!」


 二階堂と交代するように、同じクラスの青春応援部の面々が話しかけてきた。


 ちゃっかり俺をディスる事を忘れないな九条さんは。今日も絶好調そうで安心したわクソッタレ。そして六道は今日も優しい。さすが俺の心のオアシスだ。


「あれ、真央はどうした?」

「あそこですよ」


 九条さんはグラウンドを指差した。そこでは、赤組と白組の応援合戦が繰り広げられている。


 応援合戦がなんだっていうんだ? そう思った矢先、白組の応援団の一番先頭に、学ランを着て腕を組む真央がいた。ちなみに先頭は毎年団長が立つところだ。


「え、なんで真央が応援団? しかもあのポジションって団長だよな?」

「種目決めの時に立候補してましたよ。早乙女君、あの時寝てたから知らないんですよ」


 そういえば、種目決めの時にやたらと騒いでた奴がいたような……? あの時に立候補したのか。っていうか、いつ練習していたんだ? 全然気づかなかったぞ。


「真央ちゃんかっこいいー!」


 バッチリと学ランを着こなす真央は、男連中に混じって激しいダンスで場を盛り上げていく。その熱に感化されたのか、隣で六道が黄色い声援を送っていた。


 元々武闘派の魔王だったんだから、あれくらいの動きはできて当然だ。だから特に俺は驚かない。


 それよりも驚きなのは、三年生が団長をやるのではなく、真央が団長をしている事だ。あいつ、一番上になりたいからって変な事をしたりしてないだろうな?


「黒野さーん!!」

「うおおおお真央様ー!!」

「真央さんかわいいー!」


 どこからともなく、真央を称賛する声が聞こえてくる。野郎だけかと思いきや、女子の声も混じっているのには驚いた。


 日頃からぶっ飛んだ言動をしているのに、迫害されないどころか、こうやって支持されているのは、ある意味あいつの持つカリスマ性のおかげなのかもしれない。


 一通り応援合戦が終わったあと、真央は学ランを脱ぎながら俺達の元へと戻ってきた。六月という少し蒸し暑くなってきた頃に、こんな暑そうな服で運動をしたからか、真央は汗だくだった。


「あ、暑い……死ぬ……」

「わわっ! 真央ちゃん死んじゃダメー! 大丈夫だよ、きっと勇者様が助けてくれるからね!」

「勇者言うな」


 顔を真っ赤にしている真央は、その場に座り込んでしまった。そんな真央に、少し涙目になっている六道が飲み物を飲ませようとしている。


 いや流石にこれくらいで死んだりはしないと思うのだが。相変わらず素直というかなんというか。あと俺は真央を倒した立場なのを忘れてないだろうな?


「早乙女君、黒野さんの汗の匂いを嗅いだりしないでくださいね」

「そんなの誰がするか」

「い、いくら我の汗がフローラルの香りとはいえ、さすがに自ら嗅ぎにくるのはドン引きするぞ……」

「だからしねぇよ!」


 なんかいつか九条さんの毒舌で、俺が変態認定されそうで怖いんだが? とにかく話を逸らさないといつまで経ってもイジられそうだ。


「この中だと最初に競技に出るのって誰だ?」

「わ、我の障害物競走だな!」

「早乙女君、この前の部活の時に、誰が何の競技に出るかって話をしたじゃないですか」

「あー……そんな事もあったような……」


 やや呆れ顔で九条さんに言われたが、いまいち思い出せない。そういやめっちゃ眠い日があったんだけど、その日にそんな話をしていた気がする。


「えっと、真央ちゃんの障害物競走の後は……部内の人だと芽衣ちゃん先輩のパン食い競争、わたし達の学年リレー、午後からは三人四脚、芽衣ちゃん先輩の学年リレー、最後に早乙女くんと真央ちゃんの選抜リレーだね! あ、佐藤くんの徒競走は午後にあるね~」

「障害物競走やパン食い競争は全学年合同でしたよね」

「うんっ! まあ走る人は同じ学年の人だけどね~!」


 体育祭のプログラムが書かれた紙を見ながら、六道は丁寧に俺の問いに答えてくれた。


 一ノ瀬先輩がパン食い競争ってちょっと意外だ。リレーとかに出て活躍してるのを勝手に想像していた。


『障害物競走に出る生徒の皆さんは入場ゲートに向かってください。繰り返します――』

「むっ、話をしてたらってやつではないか! サクッと勝ってくるから、我のカッコいい姿をそこで見ているがよい!」


 今日も偉そうに胸を張るのを忘れない真央は、駆け足で入場ゲートへと向かっていった。


 残された俺達は、適当に喋りながらグラウンドを囲むロープの所にまで行って真央が来るのを待っていると、体育祭実行委員が障害物を用意し始めた。


 障害物はグラウンド一周に四つ――平均台、ハードル、くぐり網、縄跳びの順番ので設置されている。


「結構いろんな障害物があるんだね~」

「そうですね。早乙女君は黒野さんが勝つと思いますか?」

「圧勝するとは言い切れないが、勝つとは思うぞ」


 九条さんの何気ない質問に、俺はそう断言すると、両隣に座る美少女達は驚いたような表情を浮かべていた。


 前世からの知り合いを舐めてもらっちゃ困る。


 真央は魔王時代から運動能力はかなり高い。あいつの格闘にはかなり苦労させられたし、転生してからもあいつの高い運動能力に引っ張り回されたもんだ。ああ思い出したくもない。


 そんな事を思っていると、いつの間にか最初の四人が走りだした。


「結構難しそうだね……」

「そうだな」


 他の選手が平均台から落ちたり、ハードルに引っかかっていたりと、想像以上に難しそうに見える。普通にやれば問題ないのだろうけど、急ぐから引っかかってしまうのだろう。


「あっ真央ちゃんの番だ! 真央ちゃ~ん頑張って~!!」


 ついに出番が回ってきた真央は、六道の声援に応えるように、スタート地点でこっちを向いて大きく手を振っていた。ったく、集中しろっての。


「ほら二人共声出して! 真央ちゃんを応援しよっ!」

「私は結構です」

「俺も同じく」

「も~!ほら、今日くらい騒いでも罰は当たらないよ!」

「うっ……が……がんばってー!」


 六道に促されたからなのか、それとも周りの熱気に感化されたのか――日頃大人しい九条さんは、結構な声量で真央に声援を送る。


「……早乙女くん?」

「…………」

「わ、わかったから……そんな顔で見ないでくれ」


 二人揃ってのジト目の圧力に負けた俺は、大声を出すために思い切り息を吸い込んだ。


「真央ー!!! 負けんじゃねえぞーー!!!」


 俺の腹から出した声援は無事に真央に届いたようで、飛び跳ねながら、大きく手を振って応えてくれた。


 それはよかったんだが、何故か俺の両隣の美少女達は、綺麗な目を大きく見開いて驚いていた。


「……なんだよ」

「いえ……その、何て言うか……」

「う、うん。想像以上の声量でびっくりしちゃった……」


 なんだよ、お前らが煽るから精一杯の声援を送ったってのに、酷い言われようだ。


 俺は心に七ポイントくらいのダメージを負ったぞ。RPGの序盤に出てくる青いブヨブヨしたあいつならワンパンで死ぬダメージだ。


「でもきっと真央ちゃんに早乙女くんの気持ちは届いたよ!」

「そうですね、やや品が無いのがマイナスポイントですけど」

「ほっとけ。それよりほら、始まるぞ」


 俺は不満を表すように鼻からフンッと息を漏らしていると、真央を含めた四人の選手がクラウチングスタートの構えを取る。


 それとほぼ同時に、実行委員の持つピストルからパンッ! という甲高い音が鳴り響いた――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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