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第31話 心を入れ替えて

「……もう来るなって言ったはずなのだが?」


 真央は佐藤の姿を見て早々、敵意を剥き出しにして言葉をぶつける。一方、佐藤はふざける素振りを一切見せず、変わらず真面目な顔をし続けていた。


 すると、真央は溜息を吐きながらも、ほんの少しだけ表情を緩めた。


「……まあ良い。何か言いたい事があるのだろう? さっさと入るのだ」

「……もちろん。あざっす、黒野っち」


 部屋に入ってきた佐藤は、椅子に座らずに真央の前へと移動する。


 こいつ、何をする気だ? もしかして真央に強く言われたから仕返ししに来たというのか?


 そんか俺の考えを否定するかのように、佐藤は勢いよく頭を深く下げた。


「オレの考えが甘かったっす! もう文句は言わないし、音を上げたりしない! だから……もう一回オレにチャンスをくれないっすか!」


 頭を下げ続けながら声を荒げる佐藤の事を、真央は腕を組みながら厳しい目つきで佐藤の事を見つめていた。


「本当に出来るのか? 口だけならいくらでも言えるであろう」

「もちのろんっす! もしまたミリでも弱音を吐いたら、完全にブッチしていいっす! 黒野っちが土下座しろっていうなら喜んでするっす!」

「別にせんでもいい。それよりも……何故急にそこまで心変わりをしおった?」


 真央は淡々と、抑揚の無い声で佐藤に聞くと、勢いよく顔を上げてから答え始めた。


「昨日の朝、早乙女っちと六道っちが公園で練習してるのを見て……オレと同じで出来ないから練習してるのに、オレは面倒くさがって、練習から逃げて……このままじゃただのクソザコの負け犬じゃん! って……!」


 マジか、昨日の六道との練習を見られてたのか。こいつの見た目なら、すぐに目に入ってもおかしくないと思うんだけど……マジで気づかなかった。


「…………本当にもう逃げぬのだな? 一度でも嫌がったら速攻でやめるぞ」

「それでいい!」

「……よかろう! 我ら青春応援部……佐藤大陸の依頼を再度受けようではないか!」

「ウェーイ! あざまーす!!」


 胸を張る真央の高らかな宣言に、佐藤はいつもの調子を取り戻したようにガッツポーズをしながら言う。


 やれやれ……折角この陽キャとオサラバ出来ると思ったのに。まあ部長の真央が受けるというのだから仕方がない。佐藤にもう一度チャンスを与えても良いか。



 ****



 同日の放課後、下校時間までみっちりと佐藤の練習と、三人四脚の練習をした俺達は、校門の前で別れの挨拶を交わしていた。


「ふー! こんなに運動したのとかマジ初体験っすわ! 次の活動日は月曜っしょ? またヨロシャース!!」


 そう言うと、ビシッと右手で敬礼をしながら、佐藤は走りだした——と思いきや、直ぐに止まって歩きで去っていった。


 あんだけ走ったんだ。そりゃそうなるわな。


「では私もこれで。また来週」

「わたしも帰りに夕飯のお買い物をしていくから、ここでバイバイだね~!」

「うむ! また来週なのだ!」

「おつかれさん」


 九条さんは黒光りしている高級車に乗り、六道は歩きで駅の方へと去っていった。


 俺はというと、その流れに便乗して自転車を漕ぎだそうとしたが、荷台を真央に掴まれて出発を阻まれてしまった。


「む~~~~! 我を置いて帰ろうとするとは何事だ!」


 俺は眉間にしわを寄せながら振り返ると、そこにはふくれっ面の真央が立っていた。


 くそっ、さっさと帰る事で、真央を後ろに乗せないようにしたつもりだったのに……ついでにゲーセンに寄って格ゲーをしようと思ったのに……間に合わなかったか。


「……さっさと乗れ」

「それでよい!」


 ため息交じりの俺の言葉に満足したのか、ふくれっ面から一転笑顔になった真央は、いつもの様に俺の後ろに乗ると、俺に抱き着くように腕を回した。


「体育祭楽しみだのう……蒼とリレー……むふー……」

「なあ真央、なんで佐藤の依頼をもう一回受けたんだ?」


 真央の家へと向かう際中、俺は疑問に思っていたことを真央に投げかける。


 すると、「蒼にはわからなかったのか?」という真央の少し呆れた声が背中から聞こえてきた。


「佐藤の目は真剣だった。人間というものは目を見ればわかるものなのだ! 頑張る者は応援する! それが青春応援部だからな!」

「目ねえ……そういうものなのか?」

「そういうものなのだ。まあ我が偉大なる元魔王だからわかるのかもしれんな……さっすが我! むふー!」


 目、か……目は口ほどに物を言うなんて言葉もあるし、きっとそういう事なんだろう。基本ポンコツの真央だけど、これでも元魔王だし、何か感じるものがあったのかもしれない。


「……あれ、おーい! おにぃー!」


 真央と話していると、どこからかとても聞き覚えのある声と呼び方が聞こえてきた。


 それに反応するように自転車を止めて辺りを確認すると、後ろから瑠実が笑顔で手を振りながら走ってきた。


 瑠実も学校の帰りなのか、紺のブレザーにチェック柄のスカートという格好だ。


「瑠実、お前も学校帰りか?」

「うん、図書室に寄ってたらこんな時間になっちゃった。それよりその後ろに乗ってるのって……」

「瑠実ではないか!? 久しぶりだのう!!」

「やっぱり真央ねぇだー!!」


 真央は自転車の荷台からピョンと飛び降りると、瑠実に勢いよく抱き着く。


 瑠実もそれを嫌がることなく、嬉しそうに真央の背中に手を回してギュッとしていた。


「電話では話をしたが、直接会うのはやはり格別だのう!」

「うんうん! 真央ねぇ、折角だしこれからどっかに遊びに行こっ!」

「おお、名案ではないか! 蒼よ、今日はここでいい。我はこれから瑠実と遊びに行ってくるのだ!」


 俺はここでお役目ごめんという事か。ありがたいが、なんかちょっと腹立つ。なんでだろうな?


「おにぃ、今日は帰りが遅くなるから! 真央ねぇ、どこに行く?」

「そうだのう……とりあえず駅前に行ってみようではないか」


 そう言うと、二人は楽しそうに会話をしながら駅前の方へと歩いていった。


 ……ったく、真央は相変わらず自分勝手だ。まあいいか。解放されたし、久しぶりにちょっと遠くのゲーセンにでも寄っていくか。


 そう決めた俺は、駅から少し離れた所にあるゲーセンに向かって自転車を漕ぎだすのだった――




「……ん? 今の自転車に乗っていた彼……へえ、あの制服は確か……春宮高校だったかな? まさかこんな所で再会できるなんてね……これは逃す手はないか……ふふっ」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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