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第30話 願いを聞いた理由

 翌日、ついに体育祭まで一週間となった。今日は金曜日という事で、部活動のある日だったため、俺は一人で部室へと足を運ぶ。部室に入ると、九条さんが優雅に読書をしていた。


 なんていうか、九条さんの一挙一動が綺麗だからか、とても絵になる光景だ。流石は九条グループのお嬢様といったところか。


 ちなみに真央は何か別件があるそうだ。六道は先生に呼び出されているから、先に行っててと言われている。


「うっす」

「早乙女君。今日は真面目に来たんですね」

「いつもちゃんと来てるっての。変な言いがかりはやめてくれ」


 いつもと変わらない九条さんの棘のある言葉を適当に流した俺は、自分の席に座った。


「…………」

「…………」


 ——沈黙。


 何だこの居づらい空間。


 真央以外の部活のメンバーと話す事に少しは慣れたとはいえ、俺は元から話す事はそんなに得意ではない。だから、こんな状態で話しかけるのは、なかなかの難易度だ。


 更に言うと、九条さんは何故か俺の事を警戒している節がある。それは前世のネコの獣人の時から変わらない。


 俺、九条さんの嫌がる事でもしてしまったのだろうか? 全く心当たりがないんだよな。


 とにかくこの沈黙をやり過ごす為に、俺は無言でスマホを取り出す。すると、青春応援部のライングループにメッセージが来ていた。


 そこには、一ノ瀬先輩から『今日は生徒会の仕事で行けない』という旨が書いてあった。


「一ノ瀬先輩、今日来れないって。最近忙しそうだな」

「体育祭は実行委員会と生徒会が動きますからね。いつもよりは忙しくなるでしょう」

「そうだな」


 そういえば、この前一ノ瀬先輩がそんな事を言ってたな。他の学校の事は知らないけど、うちの生徒会ってやる事が多すぎる気がする。


「そういえば、昨日の早朝に友莉菜と三人四脚の練習をしてくれたそうですね」

「あれ、なんで知ってんだ?」

「本人から聞いたので。とても有意義な時間だったと喜んでいました。友莉菜に付き合っていただき、ありがとうございます」


 本から俺へと目線を移した九条さんは、僅かに口角を上げながら俺に礼を言う。


 てっきり二人きりで六道に会うなとか、何か変な事を考えてるんだろとか、いつもの様に毒舌を吐かれるものだと思っていたんだが……一体どうしたんだ? 何か変なものでも食べたのか?


「……また失礼な事を考えてるでしょう?」

「か、考えてねーよ?」

「……はぁ。本当に嘘が下手ですね。まあ元勇者様が嘘が得意っていうのも違和感ありますが。今回は友莉菜に付き合ってくれたので、大目に見ます」


 そう言うと、九条さんは再度本へと視線を落とす。あと、さり気なく勇者言うな。


 なんにせよ、今回は見逃してもらえた。マジで九条さんの前で変な事を考えると読まれてしまう。超能力でも持ってるのかと勘違いしてしまうくらいだ。


 そうだ、良い機会だから気になっていた事でも聞いてみるか。


「九条さんって、六道の事を本当に大切に思ってるよな」

「勿論です。友莉菜は親友ですから」

「少し疑問だったんだけど、九条さんと六道は前世からの付き合いって知ってるけど、こっちでどうやって再会したんだ?」


 今までずっと疑問だった事を九条さんに投げかけると、彼女は何故か俺の事をじっと見つめ始めた。


 な、なんだ……見定められているのか? それとも、言うかどうか考えているのか? ひょっとして聞いちゃいけない地雷だったか?


「私達の両親の仕事の繋がりですね」

「仕事……って事は六道の親御さんは九条さんの親御さんと仕事仲間だって事か?」


 俺の問いに、九条さんは小さく頷いた。九条グループと仕事をするって事は、六道の親御さんもかなり凄い人って事なのだろうか?


「幼い頃に友莉菜の御両親が屋敷に来訪した際、どうしても友莉菜を連れて来ざるを得なかった時があって。その時に再会したのですが、一目でわかりました。この子は私の親友が生まれ変わった存在だって」


 それだけ言うと、九条さんはもう話す事は無いと言わんばかりに、本へと視線を落とす。


 まあ無理に聞く必要はないし、いつかもっと細かい事も教えてくれるかもしれない。その時はしっかり聞こう。


「……私も一つ質問をよろしいでしょうか」

「おう」

「あなたは何故、昨日の友莉菜の願いを聞いてあげたんですか? 人助けなんてしたくないのでしょう?」


 パタン、と読んでいた本を閉じた九条さんは、真っ直ぐ俺を見ながら質問をする。そんな彼女の目を見つめ返しながら、俺は正直に答え始めた。


「他人は今も嫌いだ。けど、六道には色々助けてもらってるからな。その礼みたいなものだ。それに、あんなに頑張ってる姿を見てたら、少しは助けてあげたくなっただけだ」

「意外ですね。てっきり友莉菜に下心があるんだと思ってました」


 酷い言われようだ。どこをどうすれば俺が六道に下心があるように見えるんだろうか。ちょっと九条さんの頭の中を見てみたいものだ。


「仮にそうだとして、ハイって答えたらどうしてたんだ?」

「それは当然社会的に抹殺……おほん、何でもありません」


 怖っ!? このお嬢様は何をするつもりなんだ! その無表情で言われるとなおさら怖いって!


 普通ならそんな事をするなんて無理だろって思うが、相手は世界で有名な大企業の九条グループ。絶対に無理って言い切れないのがやばすぎる。


「変な事をしない限りはそんな事しませんのでご安心を」

「したらやるつもりじゃねえか! 安心できる要素がねえ!」


 結構な勢いでツッコミをしてたら息が苦しくなってきた。頼むから、真央がいない時くらいはのんびりさせて欲しい。


 その後、しばらく二人きりの時間を過ごしていると、部室のドアが勢いよく開かれた。どうやら部長様のご登場のようだ。


「我が来たぞー!」 

「やっほ~!」


 遅れてきた真央と六道が部屋に入ってくると、いつもの定位置に腰を下ろした。どうでもいいけど、なんで真央は体操着なんだろうか?


「真央、一ノ瀬先輩からのラインは見たか?」

「生徒会で来れないってメッセージであろう? 部長たる我はしっかり確認しておるのだ! 流石我! 褒めても良いのだぞー?」

「部長じゃなくても普通にするっての」

「む~~~~!」


 いつもの様に偉そうに胸を張る真央にツッコミを入れると、これまたいつもの様に顔を赤くしながら頬をパンパンに膨らませていた。


 今日も相変わらず子供っぽい元魔王だ。


「あれ、二人共お茶飲んでないの? わたし淹れるね~」

「ああ、すまん」

「全く……そういえば蒼よ、この前瑠実から連絡があったのだが、蒼が教えたのか?」


 やや乱暴に自分の席に座った真央は、まだ俺に怒っているのか、やや乱暴な言い方で問いかけてくる。


「ああ。真央の事を言ったら話がしたいって」

「瑠実……? 早乙女君に女性の知り合いがいたなんて驚きですね。明日は嵐が来るかも」


 九条さんは小さな手を口に当てながら、少し目を見開きながら驚いていた。


 そう思う気持ちはわからんでもない。なんなら知り合いの女子どころか、男子を含めても、知り合いなんて呼べるものは、家族以外じゃ二階堂と青春応援部の面々くらいだ。


「友達じゃなくて妹な」

「早乙女くん、妹がいたんだね~。今いくつなの?」

「俺の二個下だ」

「テレビ電話で話をしたのだが、子供の頃の雰囲気を残しつつも、美人に成長しておったな! とても愛らしかったぞ!」

「へ~! いつかわたしもお話してみたいな~!」


 真央と六道が妹の瑠実の事で、楽しそうにキャッキャと話をしている。


 今日もいつもの青春応援部——と思いきや、部屋の中に控えめなノック音が響いた。もしかして依頼人か?


「む、蒼! もしかしたら依頼人かもしれんぞ! 早く出るのだ!」

「ったく……はいはい、どちらさんですかー新聞はお断りですよー」

「学校に新聞屋さんは来ないんじゃないかなぁ……」


 俺は立ち上がって入り口のドアを開けると、そこに立っていたのは、やたらと真面目な顔をした佐藤大陸だった――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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