第3話 その名は青春応援部!
「お、おい! それは言うなってガキの頃から言ってるだろ!」
「何を言う。周りに人がいないのだから問題なかろう!」
真央は自信たっぷりなドヤ顔で言う。一方俺は真央を見ながら、深い溜息を漏らした。
「まあ気にするな! 我は気にせん! なにせ心が広いものでな!」
「俺が気にするんだよ! 」
なにが嬉しいのか、真央はドヤ顔を続けながら、腰に手を当て、大きく胸を張っていた。
信じられないかもしれないが、真央は別の世界から転生してきた魔王だ。そして、俺はそれを倒した勇者の転生した存在だ。
――少しだけ、昔話をさせてくれ。
俺の人生は、実は三回目だ。
一回目は病弱な体でずっと家にいたんだが、不運にも家の階段から落ちて死んだ。
その後、自称神に勇者として選ばれて異世界に転生し、数々の冒険の後、魔王を倒した後に色々あって命を落とした。
魔王を討取った功績を認められた俺は、神に平和な三回目の人生を与えられた。
三回目が与えられたのは良いが、まさか隣の家に魔王が真央として転生したのは完全に想定外だった。
その後は……魔王らしい、わがままな性格の真央に振り回される幼少期を送った。
人間に生まれ変わった真央を放っておいたら、何をするかわからない。だから付き合うしか選択肢が無かったという事だ。
本当なら一回目で終わるはずの人生は、真央のせいで二回目と三回目の人生がはちゃめちゃにされた。勘弁してくれ。
余談だが、魔王の時も真央は人型だった。目の前の真央とほとんど変わらない。
「蒼よ、我は蒼に話がある」
「却下」
「即答!? 聞くのはタダではないか!」
即答するに決まってるだろ。お前にどれほど振り回されたと思っているんだ。これ以上振り回されるのはお断りだ。
「俺はこれからゲーセンに行かなきゃならないし、真央に付き合うほど暇じゃない。じゃあな」
「む〜〜〜〜! 話を聞かないと、蒼が元勇者だっていう事をみんなに言うぞ!」
真央から離れようと数歩進めた俺の足は、金縛りにあったように動かなくなる。それどころか、全身から大量の汗が流れ始めていた。
今なんて言った……俺が元勇者だとばらされる? そんな事になれば、俺が痛い厨二病というレッテルを張られる。
馬鹿にされるのにも、嫌われるのも慣れているから問題はないが、勇者と馬鹿にされ、いじめのターゲットにでもされてみろ。イタズラで俺の本や財布、ゲームを取られる可能性もある。
考えすぎだと思うかもしれないが、頭のおかしい連中ならやりかねない。
マズイ……平穏な生活が邪魔される可能性は排除しなければならない。仕方ない、とりあえず話を聞くしかないか。
「……話を聞くだけな」
「うむ! 実はな……」
してやったりと言わんばかりに、真央はニッコリと笑ってから言葉を紡ぐ。
くそっ、完全にこいつの掌の上で踊らされている気がする。
「我は部活を作りたいと思っている!」
「部活? なんのだ」
「よくぞ聞いた! 我は究極の青春を楽しみ、生徒の青春の悩み解決の手助けをする……”青春応援部”を作りたいのだ!! 蒼には最初の部員になってもらいたい!!」
腕を組みながら、真央は高らかに宣言すると、それに従う様に、頭のアホ毛がピコピコ動いていた。
「……? 何をする部活だ……?」
「今言ったであろう? 青春を楽しみ、応援する! 我々で様々な青春らしい事をして、同時に困っている人間の依頼を受ける部活だ!」
何回聞いても訳がわからない。誰か助けてくれ。
「意味がわからん……具体的に言ってくれ」
「依頼はなんでもよい。勉強を教えてくれというのでも良いし、恋愛相談も可だ」
要約すると、何でも屋みたいな感じか?
二次元でたまにそういうのをやる物語があるが、まさか目の前の人間……しかも元魔王が人助けをしたいなんて。マジで似合わない。
「魔王が下々の為に汗を流すのか?」
「ひねくれた事を言うのう。あくまで元、だからな。あと、言っておくが我は好きで魔王をしていたわけではない。勝手にそういう使命を持たされて生み出されただけだ。神に選ばれて勇者にされた蒼と同じように、な」
真央は視線を落としながら、少しだけ寂しそうな表情を浮かべていた。
「そ・れ・に! 今の我は魔王ではなく、黒野真央だからな! だから真央として、この世界でやりたい事をすると決めたのだ!」
「なんでやりたい事がそれに結びついた?」
「我は蒼が冒険していた時、動きをつぶさに観察していたのだ。ふふっ……その時に人助けというものに興味が湧いてきてのう!」
ビシッと俺に人差し指を向けながら、高らかに宣言する。
俺を観察していたという事実にも驚きだが、あの魔王が人助けに興味が湧いた? 怪しすぎる……変な笑い方もしているし、何を企んでいるんだ。
「というわけで、まず手始めに知り合いである蒼を引き入れに来たというわけだ」
自分の言葉を肯定するように、真央はウンウンと頷く。
「前世からの因縁だし、ある意味深い知り合いではあるな……不本意だが。ていうか、そんな理由で転校してきたのかよ。俺の事大好きかよ」
「なっ……どうして好きとかになるのだ! 幼い頃に和解したとはいえ、我らは元々は殺し合った仲ではないか!」
和解ね……ガキの頃に喧嘩ばかりしていたのを、こんなの意味がないからやめよう、これからは仲良くしようと一方的に言うのを、果たして和解と言えるのだろうか?
しかも喧嘩の理由の大半が真央のワガママだ。
「あくまで我の事をわかっているから、やりやすいってだけだ! って真面目に聞いておるのか!?」
「はいはい、聞いてるっての」
わかったからそんな必死に腕を振りながら言い訳するなって。それに、俺としても散々迷惑をかけられた奴に好意を寄せられても困る。
「とにかく! 部活動を一緒にやらないと勇者だって言いふらすぞ!」
「なっ!? 話を聞かないとって言ってただろ!」
「覚えてないのー? ひゅーひゅー」
――はめられた。
ていうか口笛全くできてないじゃねえか。誤魔化しに使うくらいなら吹けるようになってから使え!
「ふっふっふ……もう蒼には断ることは出来んのだ! 別に召使いにする訳ではないから安心せい。人助けはきっと楽しいぞ!」
そんなニヤケ面で言われても説得力はない。むしろ怪しさしかない。あと魔王が人助けを勧めてくるとか、一体どうなってるんだ。
「俺は他人と極力関わないで、平穏な生活を送りたいだけなのに……」
「蒼よ、なぜそんなに他人と関わりたくないのだ? 人間は弱い。一人で生きていく事は不可能であろう?」
そんな正論を真央に言われるとはな。
けどな、所詮人間ってものは自分の為に他人を利用するだけだ。そんな奴らと関わったって、良いことなんて何もない。
俺は勇者になった時、魔物討伐、物資輸送の護衛、野盗の殲滅など……散々利用され続け、そして殺された。
魔王を倒してからしばらくしたある日、俺は一人の仲間に裏切られたんだ。
その仲間は、俺に魔王討伐を依頼してきた王国に、魔王のいない世界に勇者は危険すぎるから排除してくれと依頼されたそうだ。
その裏切り者は、旅を始めた時からずっと一緒で、心から信頼していた。なのに、多額の依頼金だけで簡単に寝返ったそうだ。
裏切り者に殺される訳にもいかなかった俺は、必死に抵抗したが、程なくして来た王国の増援に、俺は成す術が無かった。
しかも、その増援の中には俺が旅の中で助けた連中も含まれていた。俺は信じていた仲間と、俺が助けた人に殺されたんだ。
楽しそうに笑う裏切り者を見ながら、薄れる意識の中で思った——人間ってのは、醜いものだ、と。
だからこそ、俺は二階堂のような、ごく一部の人間以外と関わらないようにし、絶対に俺を裏切らない二次元の世界に没頭したんだ。
「ちっ…………お前の事だ。どうせ断っても何度も勧誘するんだろ?」
「当然だ!」
完全に退路を断たれた。
こいつの事だから、何度断っても本当に勧誘し続けるだろう。口が滑って本当に勇者だって言いふらされる可能性もある。
話に乗って人助けをするか、乗らないで言いふらされる恐怖に怯えるか。考えるまでも無い。
「はぁ……わかった、真央の話に乗ってやる」
「蒼……!」
俺の言葉が嬉しいのか、真央は目を輝かせながら俺の名を呼んでいた。
「勘違いすんな。人助けなんてしたくねえ。けど、勇者って言いふらされるのも、つきまとわられるのもお断りなだけだ」
「それでこそ蒼だっ!!」
「ごふっ!?」
真央は笑顔を輝かせながら、俺の胸に目掛けて勢いよく飛び込むと、両手を俺の背中に回した。
「離れろ暑苦しい!」
「何を照れる! 一緒に風呂にも入った仲ではないか!」
「何年前の話してるんだ!? 誤解しか招かないような発言は止めろ!」
くっつく真央の肩をグイグイ押して引き剥がそうとするが、無駄に力があるのか、中々引き剥がせなかった。
――どうしてこうなった?
美少女と部活という、ギャルゲーにしかないと思っていた事が出来ると考えて良しとするしかないのか? 相手は真央だけど。
それにこうなってしまった以上、人助けは真央に押し付けて、俺は隅っこで静観しながら、真央が怪しい行動をしないように監視をしなければ。
そうじゃないと、いつ俺が厄介事に巻き込まれるかわからない。
三度目の人生でようやく手に入れた俺の普通で平穏な生活、必ず守ってみせる。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想よろしくお願いします。
評価はこのページの下側にある【★★★★★】から出来ますのでよろしくお願いします!