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第29話 友莉菜お手製のお弁当

「早乙女くんのお口に合うと良いんだけど……」


 近くのベンチに座った俺は、隣に座った六道の持ってきたバスケットの中に入っている料理を眺めていた。


 中には小さめなおにぎりと、卵焼きやタコさんウインナー、から揚げといったメジャーなおかずが入っていた。綺麗に詰められていて、とても美味そうだ。


 美味そうなのは良いんだけど……六道、何時から起きてこれを作ったんだ? どう考えても、十分とかで作れるクオリティじゃないと思うんだけど。


「そ、その! 来る前に作ったんだけど……あんまり時間がなかったから、おかずのバリエーションが少ないの! でもわざわざ朝早くに来てくれた早乙女くんに少しでもお礼がしたくて……その……」


 何故かまくし立てる様に言い訳をする六道だったが、申し訳なさがあるのか、だんだんと言葉尻が弱くなっていく。


 バリエーションなんて気にしなくていいんだけどな。こうやってわざわざ俺のために早起きをして作ってくれた。それだけで凄く嬉しいものだ。


「……その、ごめんね、迷惑……だよね。無理して食べなくても……」

「迷惑な訳ないだろ。ありがとう、六道」

「……えへへ。やっぱり早乙女くんは優しいね」

「これでも元勇者だからな」


 俺の言葉で安心したのか、六道は嬉しそうに笑顔で小さく頷いた。


「いただきます」

「召し上がれ!」


 俺は左の手前にあったおにぎりを手に取って頬張る。


 なんだこれ……握り加減が絶妙だし、大きさもちょうど二口くらいで食えるし、塩加減も完璧だ。中身はおかかが入っていて……おにぎりってこんなに美味いものだったのか?


「ど、どうかな……?」

「お世辞抜きで美味い。六道って本当に料理が上手だな」

「っ!? え、えへへへへ……」


 正直に思った感想を六道に伝えると、頬を紅潮させながら嬉しそうに笑っていた。そんなに喜ぶような事を言っただろうか?


「あ……早乙女くん苦手なおにぎりの具ってある?」

「基本なんでも食えるけど、強いて言うなら梅はあまり好きじゃないな」

「あ、なら右の手前のおにぎりは食べないで! 梅が入ってるから!」

「わかった。じゃあ奥のこれ貰うな」


 おかかのおにぎりをペロッと食べた俺は、別のおにぎりにかぶりつく。ピリッとした風味がとても食欲をそそる……これはなんの具だ?


「あ、それツナマヨキムチ! ネットで見て美味しそうだから作ってみたくて……どうかな?」

「これも美味いな。ツナとキムチって合うんだな……初めて知った」

「よかったー! えへへ、わたしも食べよ〜と。いただきますっ!」


 変わらずニコニコ顔の六道は、梅が入ってると言っていたおにぎりを手に取って口を付ける。


 一生懸命に頬張ってる姿は、どことなくハムスターみたいに見える。前世でイヌっ娘だったからなのか、六道って小動物みたいなところがあるんだよな。


「ん〜! おいし~……あっ、ごめんね! お箸が無いとおかず食べれないよね! はいどうぞ! あとお茶も!」

「何から何まで悪いな……」

「たくさん練習に付き合ってもらってるから、そのお礼だよっ」


 割りばしと紙コップを受け取ってから謝罪をすると、六道は笑顔のまま紙コップに麦茶を注いでくれた。


 六道って家庭的だし、優しいし……こんな女の子を嫁にもらった奴は幸せだろうな。俺には縁のない話だろうけど。


「から揚げ、さっぱりした味付けでいくらでも食えそうだ」

「運動した後だからお肉は欲しいなって思って! でも朝だから脂っこいのは辛いかなとも思って……それでさっぱりした味付けにしてみたの! あとあと! 卵焼きはお母さん直伝の甘い卵焼きで――」


 とても楽しそうに弁当の話をする六道の言葉に耳を傾けながら、俺は弁当を全て平らげてしまった。運動後とはいえ、朝からこんなに食えるとは……六道の飯、恐るべし。


「ごちそうさまでした。本当に美味かった」

「えへへ……早乙女くんのお口に合ってよかった~」

「完璧に合ってたから安心してくれ」


 俺は暖かい緑茶を飲みながら、ふうと息を吐いた。美味い飯とお茶で腹が膨れ、隣には優しい女の子。なんか急にリア充になった気分だ。


「早乙女くんは覚えてる? 美月ちゃんの薬草を採りに行ってくれたお礼に、ご飯をごちそうしたの」

「ああ」


 懐かしいな。採ってきた夜に、急に屋敷の広い部屋に通されたと思ったら、凄いごちそうがズラッと並んでいたのには驚いたものだ。


「あの時も美味しいって凄い褒めてくれたよね。嬉しかったなぁ」

「本当に美味かったからな。あとから聞いた話なんだけど、あの家って結構大変だったんだろ? あんなに作ってよかったのか?」

「うん。没落貴族だったから、他の家からは相手にされないし、お金が無いから薬草も買えなくて。メイドさんもわたしを含めて三人しかいなかったの。でもお礼だから大奮発したの!」


 没落していたというのは聞いていたけど、俺の思っていた以上に厳しかったんだな。そう考えると、いくらお礼とはいえ、ごちそうしてもらったのが申し訳なく思う。


「六道はメイドを辞める気はなかったのか? 色々出来るんだから、他の家でも雇ってもらえただろ」

「多分雇ってもらえたと思うよ。でも、わたしは当時の美月ちゃんも大切なお友達だったから、見捨ててサヨナラなんて出来なかったんだ」

「……そうか。こんないい友達がいる九条さんは幸せ者だな」


 優しく微笑みながら語る六道の顔を見ていると、本当に昔から九条さんの事が大切なんだなっていうのがよくわかる。


 そんな美しい友情が、俺には眩しくて――少し羨ましくもあった。


「よし、登校時間までまだもう少し時間があるし、もうちょっと練習するか」

「え……いいの?」

「当然だろ。あんな美味い弁当作ってもらったんだ。このままサヨナラとか申し訳なさすぎるって」


 俺の言葉に嬉しそうに頷いた六道は、ささっと弁当の後片付けをして再度俺とヒモで足を結ぶ。


 その後、八時くらいまで練習と休憩を繰り返した俺達は、一旦解散という事で公園の入口で向かい合う。


「早乙女くん、今日はありがとう! おかげで沢山練習できたよ!」

「気にすんな。俺こそ弁当ありがとな。その礼って言うのもあれだけど……後ろ乗れよ。家の近くまで送ってくぞ」

「それは嬉しいけど……いいのかな?」


 少し申し訳なさそうに目を細める六道は、上目遣いで俺に聞いてくる。


「問題ない。これでもほぼ毎日真央に乗られてるからな」

「あははっ、じゃあお願いしようかな? 誰かの自転車の後ろに乗るのって、ちょっと憧れてたんだ~」


 そう言うと、俺がサドルに座ったのを確認してから、六道は嬉しそうに自転車の後ろに腰を下ろすと、俺の服の裾を掴んだ。


 真央の時は俺にがっつり抱き着いてたから心配はなかったけど、ちゃんとつかまってないで落っこちないだろうか?


「家はどっちだ?」

「あっち!」


 六道の指差す方向を見ると、俺の家のある方角と同じだった。前に真央と登校してる時にもばったり会ったし、結構家が近いのかもしれない。


「えへへ……真央ちゃんの言葉を借りると、これぞ青春! って感じだね~」

「そうだな」


 声を弾ませる六道に相槌を返しながら、俺は自転車のペダルを漕ぎ続ける。


 ここまで練習を頑張っているんだ。六道には一位になって喜んでもらいたい。それは俺が一緒にやるとか、青春応援部だからとか関係ない。俺の心からの願いだ。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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