第28話 早朝の呼び出し
「ふ~……さっぱりした」
体育祭の練習が終わり、家に帰ってきた俺は夕飯の後に風呂を済ませ、リビングのソファに座ってダラダラとテレビを見ていた。
今日もテレビはつまんねぇな。俺が子供の時はもう少し面白いものをやっていた気がするんだけど。
「明日は部活動がない日だし、さっさと帰ってきてゲームすっか」
「おにぃ~アイスあるけど食べる~?」
「おー」
「バニラとチョコどっちがいい〜?」
「バニラー」
キッチンの方から聞こえてきた瑠実の声に短く答えると、バニラとチョコの棒アイスを一本ずつ持って俺の隣にちょこんと座った。
「はい」
「サンキュー」
瑠実から受け取ったアイスを咥えながら、兄妹で仲良くテレビを見ていると、何故か瑠実は俺の事をじっと見つめていた。
「ねえおにぃ。最近帰りが遅いけど、何してるの?」
「んー? 部活して遅くなってる」
「え……? いつの間に部活に入ったの!?」
俺の言葉がそんなに衝撃的だったのか、瑠実は大声を上げて驚いていた。そんなに驚かれるような事を言っただろうか?
「ぼっちが基本スタイルのおにぃが部活なんて……きっと瑠実、夢を見てるんだ……」
「そんな酷い事を言うなんて、おにぃは悲しいぞ」
俺は瑠実に大袈裟にため息をして見せると、短く「ごめんごめん」と謝りながら、チロっと舌を出してみせた。
てっきり伝えてるものだと思ってたんだけどな。青春応援部がスタートしたのはゴールデンウィーク明けだから、一ヶ月は勘違いしてたのかよ。俺はマヌケか?
「でも、なんで部活なんて始めたの? あっわかった! おにぃモテたいんだ!」
「勝手に決めつけるな。真央って覚えてるか? ガキの頃に隣に住んでたやつ」
「あ、うん。引っ越しちゃったお姉ちゃんだよね。それがどうしたの?」
アイスをペロペロしながら、瑠実は首を何度か縦に振っていた。まだ瑠実は幼かったのによく覚えてるな。
「四月にうちの高校に転校してきてな。その真央に、部活動を作るから手伝えって言われて半強制的に……」
「ま、真央ねぇが帰ってきたの!? なんでもっと早く言ってくれないの!? おにぃのイジワルー!」
何故か瑠実は俺に小学生がするような罵声を浴びせながら、グイっと近づいてくる。
真央もそうだけど、瑠実の距離感も無駄に近い。最近の女子はみんなそうなのか? それとも俺の周りだけか?
「連絡先は知ってるの!?」
「携帯の番号とラインなら知ってるぞ」
「瑠実にも教えて!!」
鬼気迫る勢いの瑠実に押し負けた俺は、直ぐに真央のスマホの番号とラインを教えると、瑠実はホクホク顔で自分のスマホの画面を見ていた。
ちなみにだが、真央とは再会してすぐに、そして青春応援部のメンバーとは活動初日に携帯の番号とラインのIDを交換していたりする。
「えへへ、久しぶりに真央ねぇとお話しできる! 瑠実部屋に戻るね~! 邪魔しないでね!」
そんなに真央と話せるのが嬉しいのか、瑠実は家の中だというのにダッシュで自室へと戻っていった。なんにせよ、瑠実が楽しそうでなによりだ。
「さて、俺も部屋に戻ってゲームでもするか……ん?」
アイスの棒を捨ててから部屋に戻ろうとすると、手に持っていたスマホからピコンという音が聞こえた。どうやらラインが来たようだ。
「……?」
俺はラインの差し出し人とその内容に、やや面食らったように眉間に力を入れながらささっと返事を送り終えると、部屋に戻っていった。
****
「流石にこの時間は少し冷えるな……」
翌日——朝の六時過ぎというかなり早い時間に、俺は学校のジャージ姿で自転車に乗り、とある場所へと向かっていた。
なぜこんな時間に出かけているのかと言うと、昨日のラインの送り主に呼び出されたからだ。
「ねっむ……こんな早くに起きる事なんてほぼないからな……」
時間が時間だからか、周りにほとんど人がいない住宅街の中を、颯爽と自転車を走らせながら、俺はボソッと呟く。
五分ほど自転車を走らせていると、小さな公園へとたどり着いた。そこには、俺と同じジャージを着た一人の少女が、ちょこんとベンチに座っていた。
「あっ……早乙女くん! ごめんねこんな朝早くに……」
「おう、気にするな」
俺を呼び出した少女――六道は俺に申し訳なさそうに眉尻を下げながら小さく頭を下げていた。
俺達の恰好を見れば見当がつくかもしれないが、昨日六道から、今日の朝に三人四脚の練習をしたいとお願いされた。
人助けなんてしたくない俺が、部員相手とはいえ、なんで人助けしてるのかと思われるだろう。
六道には部員を集めるのに沢山協力してくれたし、日頃から真央や九条さんに何か言われた時にフォローしてもらってるからな。
そんな彼女の滅多にないお願いを無下にしたら、それこそバチが当たるってもんだ。
それに、いつも一生懸命で頑張っている六道の姿を見ていると、勇者の頃の気持ちが少しだけ蘇るというか、なんか手助けしたくなるんだよな。不思議なもんだ。
「九条さんは来てないのか?」
「呼びたかったんだけど、低血圧で朝はいつも辛いみたいで……」
それじゃ仕方ないか。流石に朝は体調がしんどいって言ってるのに、無理に呼ぶ訳にはいかない。
「授業までそんなに時間もないし、さっさと始めるか」
「うんっ! あ、ヒモは用意してきたよ~!」
そう言いながら、六道は少しだけ自慢げに笑いながら、ポケットから綺麗な白いヒモを取り出した。
「今日の為に買っておいたのか?」
「ううん、わたしが作ったんだ!」
「手作り? さすが元メイド。裁縫もお手の物ってことか」
「えっへん! 時間があれば簡単なお洋服くらいなら出来るよ!」
服まで作れるとかマジで凄いな。裁縫は得意と確かに言っていたが、俺の想像より遥か上のレベルだ。元メイドの肩書きは伊達じゃないな。
「じゃあやってみるか。いつも通り六道はイチで左足な」
「うんっ」
六道お手製のヒモを足に結んだ俺達は、さっそく練習を開始する。まだ少し慌てる場面もあったけど、それでも最初に比べればかなり上達していると思う。
「スゴイスゴイ! 確実に上手になってるよね!?」
公園の端から端まで転ばずに何とか歩き切ると、六道は満面の笑顔で声を弾ませていた。
朝から元気だな。けど、運動が苦手な六道からしたら、自分がこんなに出来ている事が何よりも嬉しいんだろう。そう思うと、俺も少し嬉しくなる。
三十分程練習をした後、ベンチに座って小休止をしている時に、俺は前から気になっていた事を六道に聞いてみた。
「なあ、六道はなんでこんなに頑張って練習するんだ?」
俺の質問の答えを探しているのか、六道は「うーん」と言いながら、少しだけ視線を上にやって考える素振りを見せた。
「前も言ったけど、わたしって運動が苦手なの。二回の人生で、一回も運動で一番になった事がないくらい。そんなわたしの為に、みんなたくさん練習に付き合ってくれてるから、わたしも頑張んなきゃって思ったの。それに……やっぱり一番になってみたい」
俺達の協力に報いたい、か。六道って真面目だな。そんな六道だからこそ、みんな嫌な顔一つせずに協力したいって思えるんだろう。もちろん俺もな。
真面目な六道の胸の内を聞いていると、唐突にどこからかグ~……という音が響いてきた。何の音だ……?
「あ、その……えっと……」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯く六道。今のは六道の腹の音か? 割と運動しているし、そりゃ腹も減るよな。
「その……聞こえ、た?」
「何がだ?」
「あ、ううん! 聞こえてないならいいの! うんっ! よかった……聞こえてなくて……」
あえてとぼけて見せると、六道は安心したようにホッと息を漏らしていた。わざわざ聞こえていたって言って恥ずかしがらせる必要もないからな。
「ねえ早乙女くん、お腹空かない?」
「そうだな。何も食わずに出てきたから腹減ったな」
「そ、そうだよね! あの……そんなに凝った物じゃないけど……ごはん、作ってきたんだ。えっと、わたしお料理も好きだから! その、よかったらどうかな……」
六道はちょっと恥ずかしそうにはにかみながら、上目遣いで俺に提案してくるのだった――
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