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第27話 依頼をする資格

「む~~~~! そんな呆れたような顔をしおって! なら蒼はなにかアドバイスがあるのか!?」

「頬をグリグリしながら文句言うな」

「はへふのらー!」


 何故かふくれっ面で怒る真央に少しむかついた俺は、仕返しに両頬を潰してヒヨコ口にしてやった。この時の真央は個人的にとても面白い。


 それよりも、どうして俺が怒られたのだろうか? 不思議でならない。


「ちょ、あんたら仲良しかよウケルー!」

「誰が仲良しだ。俺が見てた感じだと、腕の振りが少ないのと、足が上がってない。あと足の回転のピッチが遅いな。そこを意識すれば少しは良くなるんじゃないか?」


 ふざけた事を言う佐藤に舌打ちをしながら俺の考えを伝えると、何故か真央も佐藤もこいつ何言ってんだ? みたいな微妙な顔をしていた。


 俺、何か変な事を言ったか? 割と的を射た事を言ったつもりなんだけど。


「……蒼よ、なぜ食べ物の話をしておる? 真面目にやらんか馬鹿者め! まあマルゲリータとか美味いのはわかるが……」

「それはピッツァだろ。どうすれば間違えるんだ?」

「マジかよオレやばたにえんって事か!? し、死にたくねぇ~!」

「それはピッチじゃなくてピンチだ。お前ら真面目に人の話を聞く気あるのか?」


 やべえ、ただでさえボケ発言ばかりの真央一人でも大変だっていうのに、佐藤までボケ側の人間じゃねえか。収拾がつかない。


「とにかく今言った事を意識して走れ」

「ちょ、早乙女っち激おこぷんぷん丸じゃ~ん!」

「さっさとやれ!」

「うぃーっす!!」


 なんか既に疲れてしまった……家に帰ってゲームしたい……。



 ****



「ちょ、タンマタンマ! もう足が上がんねーわ!」


 練習開始から二十分ほど経過した頃――何度も走って限界が来たのか、佐藤は息を切らせながら座り込んでしまった。


「ていうか、こんなにハードなんて聞いてないんすけど!? もっと楽に速くなれねーの!?」

「何を言う、何事も努力あるのみ! 楽な道など無い!」

「マジかよ!? セーシュンオーエンブに頼めば楽に速くなれると思ってたのによー!」


 佐藤は心底がっかりしたように溜息を吐きながら口を尖らせていた。


 何を勘違いしているんだ? 俺達は手伝いをするだけであって、依頼人の願いを何でも簡単に叶える神様じゃないんだぞ?


「……我らは目標の為に頑張る生徒の応援をする部活なのだ」

「えー? 頑張るとか努力とかダサいダサい! ナンセンスっつーやつ? 超ウケルー!」


 佐藤は真央を馬鹿にするようにケラケラと笑っていた。


 ……何なんだこいつ、一応依頼という形とはいえ、自分が頼んでる側だってのはわかっているのか? さっきまでもイライラはしてたけど、本気で腹が立ってきた。


「黒野っちと早乙女っちじゃなんかダメそうだし……そうだ! えーっと、六道っち? 達が向こうにいるし、そっちになんとかしてもらうかー!」


 そう言うと、変わらずふざけた笑顔を浮かべる佐藤は六道達の方へと歩き出す。


 このふざけた態度、流石に限界だ。何か言ってやらないと気が済まん。


「……待て」


 俺は佐藤に何か言ってやろうと口を開きかけた瞬間、先に動いていた真央は佐藤の肩を掴むと、そのまま勢いよく引っ張って地面に尻餅をつかせた。


「いってえ!? ちょ、何するし!」


 打ち付けた尻をさすりながら声を荒げる佐藤の視線の先――そこには顔を大きくゆがめる真央が仁王立ちしていた。


「貴様のような、口だけで努力もしないような男に、頑張って練習している友莉菜達の邪魔はさせん」

「え、なに黒野っち激おこぷんぷん丸? もっとクールに行こうぜー?」


 ヘラヘラする佐藤とは対照的に、真央は一切笑う事なく、佐藤を見下ろしていた。


 久しぶりにこんな真央を見たな。言わなくてもわかるかもしれないが、真央は完全にブチ切れている。


「黙れ。佐藤大陸……我ら青春応援部は正式に貴様の依頼を断る。さっさとこの場から消えるがいい。そして二度と我らの前にも部室にも来るな」


 ばっさりと佐藤を切り捨てる言葉を突きつけた真央は、そのまま六道達の元へと去っていく。


 残された佐藤は、尻餅をついたままあんぐりと口を開けて固まっていた。


「……なんだよ! ふざけんなし! なんも悪い事してねーのに、なんでキレられなきゃならねーの!?」

「あれを見てもわからねえのか? なんで協力的だった真央が怒ったか」

「は……?」


 静かに諭すように言う俺の視線の先――そこには六道と九条さんが、転んでも起き上がり、一ノ瀬先輩から意見をもらいながら頑張って練習している光景が広がっていた。


「お前は勘違いをしてる。俺達は青春を《《応援》》する部活だ。丸投げされたものを全て解決する部活じゃない。お前は目的達成のための努力をせず、考える事もせず、俺達に全て頼りきりだった。だから真央はお前を見限ったんだよ」


 鼻からフンッと息を勢いよく吐き出しながら答えると、佐藤は忌々しそうに俺の事を睨んできた。


 真央が怒った理由は極めて単純だ。あいつはなんだかんだで努力型の人間だ。だからなのか、あいつは昔から努力をせず、そのくせ口だけが達者な奴を何よりも嫌う。


 過去に受けた依頼を例に出そう。六道や七海もこいつと同じで、依頼の時は真央や俺達に頼っていた。


 けど、六道は自分でも何とかしようとラブレターや告白の言葉を考えたり、毎日告白の練習をしていた。


 七海も活動がある曜日に毎日顔を出して必死に勉強して、前に進む努力を惜しまなかった。


 だからこそ、真央や俺達も協力を惜しまなかった。


 けどこいつは練習方法やらなにやら全てを丸投げし、いざ練習となると直ぐに根を上げる。そりゃ真央じゃなくても怒るだろうよ。


「ああやって頑張るあいつらみたいな生徒の応援なら、いくらでも真央はするだろうよ。でもお前のような奴には絶対にしない……それだけの事だ」

「……意味わかんねえ」

「わかんねえなら、お前はうちに依頼をする資格はなかったって事だな」

「……くそっ!」


 悪役の下っ端のような捨て台詞を吐いて走り去っていく佐藤の背中を、俺は黙って見送った。


 まあ別にあそこまで言ってやる必要はなかったんだけど、あのままだと真央が突然キレた意味のわからないヤバイ奴って思われそうだったからな。


 もしそれが真央の耳に入って不機嫌になられるくらいなら、今のうちに手を打っておいて損はないという事だ。


「蒼ー! 早くこっちに来るのだー!」


 俺の事を呼びながら、ぶんぶんと手を振る真央。俺はそれに小さく手を上げて応えてから向かうと、真央以外の三人が真面目な顔で俺の事を見つめていた。


「ねえ早乙女くん……佐藤くんどうしちゃったの?」

「随分と大慌てで帰っていきましたけど」

「別に何もない」

「そうなの? 早乙女君と黒野さんが良いならいいのだけれど……依頼の方はいいのかしら」

「気にしなくていいっすよ。あとはあいつ次第っすから」


 多分真央は何も言わなかったのだろう。三人は俺に佐藤の事を聞いてきたが、適当に濁して聞き流した。


 このままふてくされて来なくなるか、それとも考えを改めて再度依頼をするか。そこは佐藤次第だ。真央が受けるかどうかは別だけど。


 その後、俺達は下校時間ぎりぎりまで三人四脚やバトンパスの練習をして過ごすのだった――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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