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第26話 チャラい依頼人

 初めて青春応援部で体育祭の練習をしてから一週間――体育祭まで残り十日を切ったある日。


 俺はいつもの様に部室へと足を運ぶと、そこには部室にいるはずのない人間がいた。金髪色黒の、如何にもチャラ男と呼ぶのがぴったりな男だった。


 確かこいつ同じクラスの奴だったよな? 目立つ見た目だから流石の俺でも覚えている。何でそんな奴がここにいるんだ?


「……真央、そいつは?」

「依頼人だそうだ!」


 久しぶりの待望の依頼人だからか、真央はやや興奮気味に答える。


 喜ぶのは良いけど……良い機会だからはっきり言おう。俺はチャラ男や陽キャ、ヤンキーが嫌いだ。


 うるさいし馬鹿だし無駄に距離感が近いし、やって良い事と悪い事の判断ができないし。俺の偏見かもしれないが、俺の周りにいたチャラ男や陽キャはそんな印象だ。


 そんな奴がいるからなのか、俺はすこし強めの言い方になってしまったが、そこは自称寛大な魔王系幼馴染の真央――特に怒ることなく簡単に答えてくれた。


「早乙女君も来たことだし、話を聞かせてもらえる?」

「あ、ウィーッスパイセン! ヨロシャース!」


 どうしよう、既にぶん殴って部屋から追い出したくなってきた。


 いや落ち着け俺……七海の時以降、ずっと待っていた依頼人だ。俺のせいで帰られたら後で何言われるかわかったもんじゃない。主に真央とか九条さんとか真央とか真央とか。


 我慢……我慢だ。そう自分に言い聞かせた俺は、部室の定位置の椅子に腰を下ろした。


「では名前と依頼内容を聞かせるのだ!」

「ちょ、黒野っち相変わらず話し方オモシロ! ウケるんすけど!」

「我は魔王だからな! それ相応の話し方が必要なのだ! むふー!」

「マジかよパネェっすわ! ッベーわ! リスペクト不可避だわ!」


 ……話が一向に進む気配がない。あと魔王言うな。


「ふざけてないでさっさと話せ」

「そんなにプリプリしてっと頭ツルンツルンになっちまうっしょ! えっーと……何君だっけ? 同じクラスなのは覚えてんだけど、名前忘れちまったぜ! てへぺろ!」


 このふざけたノリについていける気がしないんだが。もう帰ってくれねえかな……。


「冷やかしならお断りですので、一秒でも早く消えてくれます? 見ていて不快です」

「ちょ、追い出されるとかやばたにえん!? たのみてー事はちゃんとあっから!」


 九条さんの冷たい言葉を突きつけられたチャラ男は、慌てながら背筋を伸ばした。


 ナイスプレイだ九条さん。まあ個人的にはそのまま帰ってくれてよかったんだけどな。


「名前は佐藤さとう大陸アースいいまーす! 依頼内容は、体育祭に向けて協力して欲しい事がある的な?」


 佐藤大陸と名乗った男は、相変わらずへらへらとしていて、誠実性に欠けた言動を取り続けていた。


 何だよアースってひでぇ名前だな……キラキラネームってやつか? 苗字と名前が合ってなさすぎるしかなり痛い。まあこれに関しては佐藤じゃなくて親が決めたものだから、佐藤には罪はないけど。


「えっと、佐藤くん? 手伝ってほしい事ってなんなの?」

「オレってば百メートル走の選手にチョイスされちゃってよー! 折角だし? ナンバーワン取って、気になってるカワイコちゃんに良いとこ見せようって思ってさ!」

「ほうほう、それは頑張らないとならんな!」

「そうなんよ! けどオレってばスポーツ全般は得意だけど、足はもうダメダメでビリ不可避レベルでよー! だからセーシュンオーエンブ? のあんたらに頼もうって思ってよ!」


 変わらずへらへらし続ける佐藤に、俺は小さく溜息を漏らしてしまった。


 こんな不誠実そうな奴の依頼をしないといけないのか。受ける受けないを決めるのは真央だから、俺があれこれ口は出せないけど。


「よしわかった! 協力しようではないか!」

「あざーっす! いやーさすが黒野っち! マジパネェっすわ!」


 ……やりたくねえなぁ。



 ****



 佐藤の依頼を受けることになった俺達は、体操着に着替えて第二運動場へと来ていた。とは言っても佐藤と一緒にいるのは俺と真央だけだ。


 他のメンバーはどうしたのかって?


 六道と九条さんは少し離れた所で三人四脚の練習の一環として二人三脚を行い、一ノ瀬先輩がそのアドバイス兼手伝いをしている。


 全員で教えても人数過多なのはわかるけど……たぶん九条さんが佐藤と関わりたくないから、うまく手回ししたんじゃないかって思う。悪知恵だけは働きやがるなあの元ネコ娘め。


 ……え、なんでこっちを見て睨んでるんですか九条さん。まさかここでも考えてる事が見透かされてるのか……ちょっとしたホラーより怖いんだが?


「んじゃヨロシャース!」


 こっちはこっちでうぜえし……超殴りてえ。


「では我が足が速くなる方法を教えようではないか!」

「真央、教えるのは良いけどお前に出来るのか?」

「ふふん、任せておけ! まず我が走って見せるぞ!」


 そう言うと、真央は数十メートル程離れてから俺達の元へと全速力で走ってきた。えっと……とりあえず見て覚えさせるって事か?


「まじパネェ……バルンバルンじゃん……」

「……お前マジでぶっ殺すぞ」

「ちょ、そんな怒んなし! 正直に言っただけっしょ!」


 男ならみんな真央の胸元に注目が行くのはわかる。わかるけど……なぜか異様に腹が立った俺は思わず暴言を吐いてしまった。


 でも……なぜこんなに腹が立ったんだろうか。こいつがチャラ男だからか? よくわからんな。


「ふう……どうだ! わかったか!」

「ワリィ、意味ぷーだったわ!」

「意味ぷー? どう言う事なのだ?」

「わからないって事っしょ!」

「なぜわからんのだぁ!?」


 むしろなんでお前はそんなに頭を抱えてがっかりしてんだよ。走って見せただけで速くなれば苦労しないだろう。


「佐藤、とりあえず走って見せてみろ」

「オーケー! そこで見てろし!」


 何故か自信たっぷりに親指を立ててみせた佐藤は、先程の真央と同じくらい離れてから走り始める。


 なんていうか……めちゃくちゃ遅いわけじゃないけど、確かに遅い部類だ。これじゃ一位を取って良い所を見せるのは難しいだろう。


「ぜえ……ぜえ……どうよ!」

「うむ……確かに遅いな!」

「ど真ん中ストレート!? 黒野っちの辛口意見いただきましたー! あざーっす!!」


 何故か真央の意見を受けた佐藤はガッツポーズをしてはしゃいでいた。


 すっげえポジティブだなこいつ。ちょっとその図太さを分けてもらいたいと思ってしまった。


「真央、お前はどうすれば速くなると思う?」

「そんなの簡単ではないか!」


 真央は腕を組みながら、偉そうに胸を張っていた。俺の期待を裏切る事に定評がある真央だが、今回は真央の得意分野である走る事だ。今日こそ良い案が浮かんでるかもしれない。


「簡単だ! バーっと走ってドーンってゴールすれば完璧なのだ!」

「教え方下手くそかよ。期待した俺がバカだったわ」


 毒にも薬にもならない真央のアドバイスに、俺どころか佐藤すら目が点になってしまっていた。


 こんなんで今回の依頼を達成する事が出来るのだろうか? 早くも不安になってきた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


次の更新は明後日の夜の予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想をいただけると励みになります。


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