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第25話 ドキドキ蒼くん

 三人四脚用のヒモとジャージを取ってきた俺達は、さっそく互いの足を縛ってみた。俺を真ん中に置き、右側を六道、左側を九条さんが担当をすることになった。


「そっちもしっかり結びましたか?」

「うん、大丈夫~!」


 俺の両隣の美少女達は、足を少し動かしてヒモが外れないかの確認をしているが、俺はそれどころではなかった。


 俺は人間が嫌いだ。それは部活動をしてきた今でもその考えは変わらない。けれど、至近距離に美少女二人というこの状況は、さすがの俺でも少し緊張してしまう。


「……蒼、何をしておるのだ」

「なにがだ?」

「そんなに離れて三人四脚が出来ると思っておるのか! しっかりくっつかんか!!」


 俺の顔にずいっと自分の顔を近づけた真央は、強めの口調で俺に言う。言っている事はもっともだが、俺にも心の準備というものが必要だ。


 いや、男は度胸だ。この程度の緊張、異世界で命の危機に直面した時に比べれば可愛いものだ。


「ひゃん!?」

「キャッ!」


 半分やけくそになりながら、俺は肩を組むように六道と九条さんを抱き寄せる。


 言ってからやらなかったのと、抱き寄せる勢いが少し強かったのか、二人は小さく悲鳴を上げてしまっていた。


 普段ならこんな強引な事はしないんだが……俺の心は想像以上に余裕がないのかもしれない。


「さ、早乙女くん!? びっくりしたよ~!」

「あなたにはデリカシーというものが無いのですか?」

「す、すまん……」


 可愛らしく口を尖らせている六道と、氷のような冷たい目で見てくる九条さんに咄嗟に謝罪をする。それにしても、女子って柔らかいんだな。


「早乙女君、また汚らわしい事を考えてないですか?」

「か、考えてねーよ!」

「え、早乙女くん汚らわしい事を考えてたの!?」

「お前も簡単に信じるな!」

「蒼……」

「おい真央、そのこいつ気持ち悪い……みたいな冷めた目で俺を見るな! 収拾がつかないからさっさと練習すんぞ!」


 このままではラチが明かないし、変態のレッテルを張られかねないと思った俺は、とにかく練習しようと提案する。


 すると、俺から離れないように、二人は俺の背中に手を回してギュッと体操着を掴んできた。


「じゃあ我は少し離れた所から見ておるぞ!」


 真央はそう言い残してから、駆け足で少し離れた所へ移動すると、こちらを向いて大きく手を振った。


 バトンパスの練習の時も結構全力で走ってたように見えたんだが……あいつ元気だな。


「じゃあ最初の一歩からやってみるか。二人共、最初は左足から出してくれ」

「うっうん!」

「大丈夫ですよ友莉菜、落ち着いていきましょう。それに転んでも早乙女君が下敷きになってくれますよ」

「ええ!? 早乙女くんが潰れちゃうよ! それに……その……最近お腹のお肉と体重が……ふぁ!? な、なんでもないよ!!」

「……まあ転ばないように支えるくらいは善処する」


 六道、なんでお前は勝手に自爆してるんだ? 別に俺は何も言ってないんだが。


 あと、それで太ってるって思ってるのか? むしろ痩せている部類に見えるんだが……。


 いや、女子にしかわからないデリケートなものなのかもしれないな。それを俺がいちいち指摘する必要はないだろう。


 そう判断してスルーした俺は、両腕に更に力を込めて六道と九条さんが離れないようにする。


「じゃあいくぞ。せーのっ」


 俺の掛け声と共に、二人は左足を、そして俺は右足を出して一歩前に進む。すると、これだけの事なのに六道はとても喜んでいた。


「わわっ! すごい! 進めたよ~! えへへ」

「この調子でもう一歩進んでみましょうか」

「よし、次は二人は右足を出してくれ。せーのっ」


 今度は逆側の足を前に出してみる。これも引っかかることなく、スムーズに前進することが出来た。


「スゴイスゴイ! これならすぐに上達できるかもね!?」

「そうだな。とりあえずイチで左足、ニで右足を動かしてゆっくり歩き続けてみるか」


 まだこんなにぎこちないのに、ずいぶんと気が早いと思ったが、せっかく六道が前向きになってるのに水を差すのも野暮だろう。


「は~い!」

「わかりました」

「よし、じゃあいくぞ。せーのっイチ、ニ……イチ、ニ……」


 俺の声に合わせて俺達は足をゆっくりと動かす。全然スピードは出ていないが、それでも十歩ほど転ばずに歩くことが出来た。


「中々良いではないか! 我としては蒼が派手に転ぶのを密かに楽しみにしてたのだがのう」


 一旦止まったのを見計らったのか、真央が嫌らしくニヤニヤしながらそんな事を言ってきやがった。こいつを下に寝かせてそこに転んでやろうか?


「縁起でもない事言うんじゃねえよ。それに俺が転んだら、二人も巻き込むことになるんだぞ」

「大丈夫ですよ。早乙女君がクッションになってくれますから」

「おい元ネコ娘、さっきと表現が少し変わってるけど、結局それも俺が下敷きになってるからな?」


 全く、どんだけ俺を下敷きにしたいんだ。まあ六道も九条さんも見た感じ軽そうだから大丈夫だとは思うけどな。


「真央、お前が見た感じどうだった?」

「そうだのう。初めての割にはよく出来てると思うが、友莉菜の動きが少し硬かったかのう」

「うっ……ごめんね……」

「謝る必要はないのだ! 慣れれば硬さは抜けると思うぞ! 練習あるのみだ!」


 視線を落として落ち込む六道をフォローするように、真央は少し慌てる様に早口でまくし立てる。


「ゆっくりでも進めてるのは確かだ。しっかり練習すれば速度は上がるはずだ」

「その通り! 魔王の自慢の部員である三人ならできるのだ!」

「そうですね。ゆっくり練習しましょう」

「早乙女くん……真央ちゃん……美月ちゃん……ありがとう! わたし頑張るよ!」


 小さく握りこぶしを二つ作って気合を入れなおす六道を見て、俺と九条さんも頷いて見せる。すると、それを合図にするように再度真央は俺達から離れた。


「じゃあさっきと同じように行くぞ。せーのっ」

「イチ、ニ……イチ、ニ……」

「イッチニ……イッチ……あわわ……ひゃあ!」

「うおっ!?」


 隣で慌てたような六道の悲鳴とほぼ同時に、俺達はその場で思い切り転倒してしまった。


 いってぇ……勢いよく体を地面にぶつけちまった……。


「いたた……大丈夫ですか?」

「お、おう。なんとかな」


 九条さんの安否の声に応えながら、俺は左に顔を向ける。俺は前のめりに倒れてしまったが、どうやら九条さんは膝をついた程度だったようだ。


 ……それは良いんだが、この背中に感じる重さと……ふにっとしたとても柔らかくて気持ちのいい感触はなんだ……??


「う~……ひゃあ!? ご、ごごご、ごめん~!」


 背中の方から六道の焦った声と共に、重みと柔らかい感触が更に強くなる。ひょ、ひょっとして……まさか六道の?


「あわわわ……うまく立てないよぉ……! 真央ちゃん助けて~!」

「少し待っておれ!」


 変に絡まってしまったのか、うまく立てなくなってしまった俺達の元へ走ってきた真央は、足に結ばれているヒモをほどいてくれた。


「ふー……助かったぜ真央」

「この偉大な魔王に感謝するが良いぞ! むふー!」

「……それよりも……なあ……さっき六道……」

「は、はうう……」


 偉そうに胸を張る真央を尻目に、小声で六道に声をかけると、顔をリンゴのように真っ赤にしながら俯いていた。


 やっぱり……さっきのは六道が乗っかっていた……? ってことはあの柔らかいのは……。


 そんな事を思っていると、背後から尋常じゃないくらいの殺気を感じた。とっさに俺は振り向くと、そこには無表情の九条さんが立っていた。


「……早乙女君。私の前で友莉菜に何をしているのですか?」

「ちょ、ちょっと待て! 今のは不可抗力だろ!」

「言い訳は聞きません。武田」

「お呼びでしょうか、お嬢様」


 九条さんが執事の武田さんの名を呼ぶと、以前と同じように、何処からともなくスーツ姿の武田さんが現れた。


 お、おい……何を指示するつもりだこのお嬢様は!?


「やりなさい」

「かしこまりました」

「ちょ、武田さん!? 聞いてください! 俺は無実っす!」

「申し訳ございません。これもお嬢様の御命令ですので。早乙女様……お覚悟を」

「ちょ、やめ……ぎゃあああああ!!!」


 ——その日の練習は、俺の絶叫を最後に幕を下ろしましたとさ。理不尽過ぎるぜ!

ここまで読んでいただきありがとうございました。


次の更新は明後日の夜の予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想をいただけると励みになります。


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