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第23話 サボりたいけどサボれない

「え、ちょっと待て……なんで俺こんな種目に選ばれているんだ??」


 俺は寝ぼけ眼を強く擦ってからもう一度黒板を確認する。当然のように書かれている内容は変わってはいなかった。


 勝手に決まっていたのは驚きだが、それ以上に問題なのが、選ばれた種目だ。


 当たり前だが、三人四脚もリレーも一緒にやる仲間がいないと出来ないものだ。それは他の種目も同じだが、メンバーが問題だ。


 なんお三人四脚は六道と九条さん、リレーは真央と組まされていた。


「えっとね、わたしって運動がすっっっごい苦手なんだ……それでね、種目どうしようかなって考えた時に、誰かと一緒にやるものなら出来るかなって。そうしたら美月ちゃんも一緒にやってくれるって!」


 俺の疑問に答えるように、六道が目を輝かせながら説明を始めてくれた。


 息を合わせないといけない競技だし、運動神経がないと結構難しいと思うんだけど。俺がそう思ってるだけなのか?


「それは良かったな。それで何で俺が一緒になってるんだ?」

「私が推薦したら通りましたよ。三人四脚は男子一人と女子二人で組む必要があります。どこの馬の骨ともわからない男と友莉菜をくっつかせるくらいなら、根暗になった勇者とはいえ、少し走っているあなたの方が適任と思って」

「だから勇者言うな……ついでにディスるな」


 淡々と、そしていつものように毒のある言葉で説明をする九条さんに、俺は強く言い返すことが出来なかった。


 いまさら嫌だと言っても、嫌なら寝てないで拒否すれば良いって言われるのが関の山だからだ。


 それに……もう決まっちまった事を覆すのは無理だろうし、「早乙女くん、嫌なの……?」と涙目になっている六道を見ると断り辛すぎる。


「……わかりたくないけど……とりあえず三人四脚の件はわかった。けどなんで俺と真央がクラスの代表として、選抜リレーに出場になってるんだ?」

「何を言っておる? このクラスの男子で一番速いのは蒼で、女子は我なのだ! まあ我の方が蒼より僅かとはいえ速いがな! むふー!」

「え、マジかよ……」


 変な所で張り合って勝った気になっているドヤ顔の真央は置いておくとして。確かに足の速さには自信はあるが、リレーに選ばれるほどだったか……?


 いや、ちょっと待て。そういえば、体育でやったタイム測定の時に、二階堂とジュースを賭けて勝負をしたな。やたらと二階堂が煽ってきたから、本気で走った覚えがある。


 マジかよ、まさかあれがアダとなるとは!


「早乙女君。まさか手を抜こうとかサボろうなんて思って無いですよね?」

「そ、そんな事ないぞー体育祭楽しみだなー」

「清々しいほどの棒読み過ぎて好感が持てる程ですね。どれだけ嘘が下手なんですか?」


 抑揚がない淡々とした喋りなのに、何故か俺には九条さんが逃げるなよと言ってるみたいに感じてしまい、思わず棒読みになってしまった。


 やだ何この人怖い……絶対に九条さんだけは敵に回してはいけないな。


「えへへ、足引っ張っちゃうと思うけど……わたし頑張るから、一緒に頑張ろっ!」

「そうだぞ蒼! 我らが組んで敗北など許されぬ! 必ずや勝利を手にするのだ!!」

「…………」


 握り拳を二つ作って気合を入れる六道に、何故か自信満々に腰に手を当てている真央。そして遠回しに脅しを入れてくる九条さん。


 こんな美少女三人を前にして、面倒だからサボるなんて言える胆力など俺には無く――溜息を吐きながら、小さく頷く事しか出来なかった。



 ****



「それで元気がないって事なのね」

「そっすね……体育祭めんどくせえ……あんなイベント滅びろよ……」


 同日の放課後、俺は一ノ瀬先輩と部室で紅茶を飲みながら、今日あった事を話していた。


 他のメンバーは、掃除当番やら先生に用があるといった理由でまだ来ていない。


「男の子なんだからウダウダ言わないの。それに九条さんの言う通り、学校行事をサボるのは良くないわ。しっかり取り組むようにね」

「うぃっす……」

「返事はハイよ!」

「ハーイ」

「伸ばさないっ!」

「……先輩、細かい事ばかり気にする姑みたいになってるっすよ」

「あ、アタシはそんな歳じゃないもん! 生徒会の一員として模範的な態度を教えているだけであって……!」


 なんとなく思った事を言ったら、俺の想像以上にプリプリと怒る一ノ瀬先輩に、俺は内心ちょっと面白くなってしまった。


 この人、真面目なせいで冗談を本気に捉えて必死に言い訳するところとか本当に面白い。やっぱり一ノ瀬先輩にはこうやって自然体でいた方が絶対に合ってるな。


 そんな話をしてると、バンッ! というでかい音と共に、部室の扉が勢いよく開かれた。扉の向こうには、幼馴染であり部長でもある、真央が笑顔で立っていた。


「待たせたな! 青春応援部の部長の我、登場なのだ!」

「黒野さん! そんな勢いで扉を開けたら壊れちゃうでしょ!」

「壊れたら直してもらえば問題ない!」

「それを手配するのは生徒会なのよ!? もう……!」


 一ノ瀬先輩は口では怒りつつも、テキパキと真央のぶんの紅茶を用意する。


 また周りに気を遣って行動してるよこの人。最上級生なんだからドンと構えていて良いと思うんだが……もう前世の頃から染みついてしまっているのかもしれない。


「先輩、手伝うっすよ」

「え? これくらい大丈夫よ」

「まあいいから」

「…………ありがと」


 俺は一ノ瀬先輩の制止を振り切ると、部屋の隅に纏めておいてあるカップを用意し始める。すると、先輩は少しだけ微笑みながら、俺に小さく礼を述べた。


「ていうか真央、お前もちょっとは動け!」

「むふー……蒼とリレー……体育祭楽しみだのう……むふふー……」

「は・な・し・を・き・け!」

「ふおおおお! らにすふのらー!」


 机に顎を乗せてグデーっとしている真央の態度に、俺は思わず両頬を潰してヒヨコ口にしてやった。なんか騒いでるけど知った事ではない。


 すると、それに反応するかのように再度扉が開いた。


「どうしたの大声出して……? 何かあったの?」

「騒がしいですね。てっきり動物園からサルが迷い込んできたのかと思いましたよ」


 扉の向こうに立っていた残りの部員である六道は、驚いたように口に小さな手を当てる一方、九条さんは冷たい目で俺の事を見ながら毒舌を吐いていた。


「俺はサルじゃねえんだが」

「あら、人間はみんなサルから進化したんですからサルですよ。あ、ごめんなさい……早乙女君はブタから進化したんでしたね。新トン類ってところかしら」

「新人類じゃなくて新トン類というパワーワード、生まれて初めて聞いたんだが?」

「早乙女君、ツッコむ所が微妙にずれてる気がするのだけれど……あ、二人のお茶も出すわね」

「あはは……あ、芽衣ちゃん先輩! わたしも手伝います~!」


 何故か俺に呆れる一ノ瀬先輩と苦笑する六道の二人は、手分けして紅茶の準備をすると、それぞれが定位置の椅子に座った。


「んで? 今日は何かやる事あるのか? まあどうせ何もなくてダラダラして終わりってオチだろうけど」

「勝手に決めつけるでない! 我がそんなに無計画人間に見えるか!?」

「見えるな」

「見えますね」

「残念だけど……見えるわ」

「はうわっ!?」


 何故か自信満々に胸を張って椅子の上に立つ真央。そんな元魔王に、俺達の辛辣な言葉が遠慮なく飛び交った。


 辛辣な言葉を浴びた真央は、椅子から勢いよく転げ落ちていった。ただでさえあれな真央の頭が、今のでさらに悪い方向に行ってないかが心配だ。


「ゆ、友莉菜はそんな事思ってないよねぇ……我そんな無計画人間ではないよねぇ……?」

「真央ちゃんはすっごく可愛くて優しい魔王様だよ~!」

「ふえええん……我の味方は友莉菜だけなのだああああ……」


 あまりにもショックだったのか、いつもの偉そうな口調をどこかに捨ててきた真央は、目に多量の涙を溜めながら六道に聞くと、六道は笑顔で答える。


 その一言がよほど嬉しかったのか、真央は六道に抱きつきながらメソメソと泣き出してしまった。それをあやす六道の姿は、さながら母親のような母性を感じる。


 あと六道よ、無計画人間って所を否定しない辺り、ちゃっかりお前も真央が無計画人間だって思ってるって事だよな……。


「ほら真央ちゃん、鼻水出ちゃってるよ。はい、このティッシュにチーンして?」

「ぐすっ……チーン!!」


 鼻水くらい自分で処理しろ。これで本当に前世では魔王をしていたというのだから驚きだ。部下の魔物達はさぞかし大変だっただろうな。


「んで、今日は何もすることが無いのか?」

「ぐすっ……た、確かに依頼も来ていないからすることは無い。だが、せっかく体育祭の種目が決まったのだ! みんなで体育祭の本番に向けて練習しようではないか!!」

ここまで読んでいただきありがとうございました。


次の更新は明後日のお昼の予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想をいただけると励みになります。


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