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第22話 肩肘を張らずに

「先輩、無理に頑張る必要はないんじゃないっすか?」

「……え?」


 俺の言葉に驚いたのか、一ノ瀬先輩はきょとんとした表情を浮かべていた。


 まあ何の前触れもなく、突然こんな事を言われたら誰でも同じような顔をするだろう。少なくとも俺が言われた立場なら同じ反応をする自信がある。


「べ、別に私は無理なんてしてないわよ」

「してますよ。なんていうか、今の先輩は唯一の上級生って事もあるからか、周りを気にしてるというか……無理してるように見えるんすよ」


 俺は今までの一ノ瀬先輩の行動を思い返しながら言う。


 青春応援部の正式な活動初日——彼女は自ら部室の鍵を持ってきてくれた。本来なら部長の真央がやっておくべき事なのに、先輩は自ら率先してやってくれた。


 それに、部室への客も自分から出ていったり、七海への勉強も自ら教えに行ったり……今も、自分のコップが空だからってみんなのジュースを取りに行こうとしたり。


 目立つ事はしていないけど、周りに気をつかって行動をしているんだなっていうのがよくわかる。まあ子供の面倒を見ていた名残なごりなのかもしれない。


 けど、周りに気を使うのって結構大変だし疲れるんだ。俺も勇者の時は周りに気を遣ってたからよくわかる。


 先輩には今回の依頼の礼を返せてないから、ちょうどいい機会だと思い、こうやって自分からそれを伝えにきたという訳だ。決して人間嫌いが治った訳ではない。


「きっと真面目な一ノ瀬先輩の事だから、自分がしっかりしなきゃ、なんて思っているんすよね? それは凄い事だと思うけど、俺は前に駐輪場で偶然会った時みたいな、自然体で楽しく過ごしてほしいんすよ。ここは生徒会でも孤児院でもない。青春応援部なんすから」

「そんな……アタシは別に……無理なんてしてないもん……」


 一ノ瀬先輩は、頬を赤らめながら少しモジモジしていた。そもそも素が出てる時点で隠しきれてないのが丸わかりだ。先輩は真央レベルで隠し事がへたくそだな。


「あ、アタシ! 先に戻るからねっ!」


 まるで逃げるように走り去る一ノ瀬先輩の後ろ姿を、俺は黙って見送った。


 ちょっとクサい台詞だったかな……でも俺の本心だし……なんか深く考えたら恥ずかしくなってきた。やっぱり言わなければよかった。


「と、とにかくさっさと戻るか」


 数秒か数十秒か――その場でボーっと立っていた俺は、そそくさとみんなが待っている部屋へと戻る。すると、入って早々に真央が少しだけ頬を膨らませながら、俺を睨んでいた。


「遅いぞ蒼! 我は待ちくたびれてしまったのだ!」

「はいはい、悪うございましたね」


 別にそんなに時間が経っていないと思うんだが。相変わらず真央はせっかちすぎてついていけない。適当に返してこの場はやり過ごすに限る。


「む~~~~!」


 まるでフグのようにパンパンに頬を膨らませてた真央を尻目に席に座ると、ささっとデンモクを操作して曲を入れる。


 すると、入れた曲名を見た一ノ瀬先輩は驚いた顔で俺を見つめていた。


「あれ、これってキュア☆キュアのオープニングだよね? これ面白いよね~! 早乙女くんもアニメ見てるの?」

「妹が見てるのを一緒に見てたらハマっちまってさ。けどこれ、デュエット曲だからな……誰か入ってくれると嬉しいんだけど……」


 俺は六道の問いに答えてからわざとらしくチラッと一ノ瀬先輩の事を見ると、俺の意図を察したのか、先輩はやや戸惑いながらもマイクを手に取ってくれた。


「わ、私歌えるわ。仕方ないから入ってあげる!」

「あざっす。って先輩……顔を近づけてどうしたんすか?」


 一ノ瀬先輩は頬をほんのりと赤くしながら、俺の耳に顔を近づけて、俺以外に聞こえないくらいの小声で、「ありがとう、早乙女君」と言ってくれた。


 別に礼を言われるような事をした覚えはない。余計なお世話って言われる可能性もある事をしたわけだしな。けど、こうやって素直に礼を言われると嬉しいものだな。


「む~~~~……なんか二人が怪しいぞ! 我もまぜるのだ!」

「お前はそこでタンバリンでも鳴らしてろ!」

「いひゃい! で、デコピンをしなくでもいいではないかー!」

「ほら早乙女君! 曲始まるわよ!」


 とても楽しそうに笑っている一ノ瀬先輩と共に、俺は全力で歌い始める。


 はたから見たら高校生が女児向けアニメの歌を……なんて言う輩もいるかもしれない。


 まあその意見はわからなくもない。けど、俺は一人のオタクとして、好きなものは好きと言えば良いと思ってるし、先輩と一緒に歌っているこの時間は想像以上に楽しい。


 それに何より、一ノ瀬先輩がとても楽しそうにしている。それで良いじゃないか。



 ****



「では再来週に行われる体育祭の出場種目を決めまーす」

「ふぁ~~……ねむっ」


 カラオケに行った日から少し経ったある日、俺は欠伸をしながら窓の外をボーっと眺めていた。


 もうすぐ梅雨だというのに、梅雨に必死に抗うかのような晴天が広がっている。ジメジメしないのはいい事だけど、窓際だと日差しが少し暑いのが困りものだ。


 そうだ、テストのその後に関して少し話しておこう――


 俺は今まで受けたテストの中でもかなりの高得点だった。と言っても学年で中間くらいだけど。


 六道は俺より少し高く、九条さんはまさかの学年トップだった。


 一ノ瀬先輩も三年生の十位以内に入っていたようだ。けど、いつもはもう少し点数が高いとの事らしい。


 きっと七海の事を先輩に丸投げしたうえ、俺や真央まで先輩に教わって時間を割いてしまったのがいけなかったんだと思った俺は、すぐに先輩に謝罪を述べたら、


『みんなの点数が上がったのなら、それでいいじゃない。それに、孤児院で子供達に勉強を教えてた頃を思い出して楽しかったわ』


 と、またしても気を使わせてしまった。


 ちなみに一番の問題児である真央だけど……なんとかみんながサポートをしたおかげか、ギリギリ赤点は免れていた。


 その時のドヤ顔は……今思い出してもちょっとムカつく。その後に恥ずかしそうに小声でありがとうと言っていたから許したけど。


 ――俺も元魔王が相手だってのに甘いものだ。


「今回うちの組は白組となりました。クラス対抗全員リレー以外に、一つか二つの種目を選んでください」


 壇上ではうちのクラスの体育祭委員会の田中が司会となって種目決めを進めていた。


 体育祭……それは陽キャとスポーツマンだけが得するイベントだ。


 はっきりいってスポーツはそんなに得意じゃない俺には、やりたくもないイベントだ。しかも六月にやるとか梅雨直撃だろ。スケジュール管理ヘタクソか。


 ちなみに体育祭の日程は六月の十九日の金曜日だ……今日は三日だから、後二週間とちょっとあるって事か。


 面倒くさいし、体育祭サボろうか……適当に仮病を使えば何とかなるだろ。


「ではまず障害物競争から――」


 ふぁ~~~~……それよりも、昨日も格ゲーして夜更かしし過ぎたな……眠すぎる。


「はい。では次に綱引き――」


 けど…………アイアンファイター…………面白いんだよなぁ……ついつい夜更かしをしちまうんだよ……。


「あと応援団を二人決めます。やりたい人は――」

「はーーーーい!! 我やりたいーーー!!!」


 誰だよ大声で……うるせえ、なあ……グー…………グー……。


「――くん」


 グー…………フガッ………………そこで割込みできんのかよ……グー…………。


「早乙女くんっ!」

「……んあ?」

「も~! 早乙女くん、完全に寝てたでしょ?」

「シャキッとせんか馬鹿者め!」


 誰かに呼ばれたような気がした俺は目を開けると、そこには六道がジト目で俺の顔を覗き込んでいた。その両隣には、真央と九条さんも立っている。


 あれ……確か体育祭の話をしていて、どうでも良かったからボーっと外を見ていて……ああそっか、そのまま寝落ちしてたのか。


「いつも冴えない顔をしているのに、寝起きだと更に酷くなるんですね。勇者様はもっとキリッとした顔が良いと思いますよ」

「ほっとけ……あと勇者言うな」

「大丈夫ですよ、周りに聞いてる人はいませんから」

「そういう問題じゃねえんだよな……」


 いつもの九条さんの毒舌を軽く流した俺は、何となく黒板に目をやる。そこには様々な種目の名前と、それに出場するクラスメイトの名前が書かれていた。


 寝てる間に決まってしまったのか……まあいいや。どっちみち適当な理由付けて休めばいいし。


 ……だったのだが、俺の名前が書いてある種目は、俺の思惑をいとも容易く打ち砕く。


 俺の名前が書かれていた種目。それは三人四脚と、二年生選抜リレーだった――

ここまで読んでいただきありがとうございました。


次の更新は明後日の夜の予定です。


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