第21話 みんなでカラオケ!
「打ち上げとしてこれからカラオケに行くのはどうだろうか!」
真央はいつもの様に胸を大きく張りながら、とても偉そうな態度でそう言った。
カラオケ――俺のような一人で平穏な生活をしていたような人間には縁遠い場所だ。実際俺は行った事は無い。
「カラオケ……? 私、行った事がないんですが……確か歌を歌う施設ですよね」
「九条さんもカラオケ行った事が無い仲間だったんだな」
「……やっぱり行った事ある気がしてきました」
九条さんは何故かとても冷めた目を俺に向けながら言う。そんなに俺と一緒は嫌なのか。
「手のひら返し早すぎんだろ。ドリルかよ」
「美月ちゃんの手ってドリルだったの!? ずっと一緒だったけど知らなかったよ!」
どう考えてもたとえ話なのに、なんでこの元イヌっ娘は簡単に信じてしまうんだ? 悪い連中にだまされてどこかに連れていかれないか不安で仕方ない。
「実は早乙女君に無理やり改造されて……」
「早乙女くん!? 美月ちゃんを改造したなんて……わたし悲しいよ!」
「やってねえよ! 技術もないしメリットもないだろ!」
「技術とメリットがあったらやるっていう事ですか? やっぱり勇者様の皮を被った鬼畜ですね」
「あってもやらねえよ! あと七海がいるのに勇者言うな!」
俺は慣れない連続の全力ツッコミのせいで、ぜえぜえと息を荒しながら机に突っ伏してしまった。なぜ俺がこんな目に……。
「早乙女君で遊ぶのはこの辺にしておきましょうか……今日のところは」
「今後もやるような言い方やめてくれ……」
「えっと、わたしはカラオケ賛成! もこちゃんはどうする?」
「あ、あたしもいいんですか……?」
「もちろんだよ! みんなもいい?」
六道が他のメンバーから意見を聞くが、特に反対意見は出てこなかったからか、六道は嬉しそうに頷いた。
正直俺としては、七海が来る来ないというのは問題ではない。問題ないのは、カラオケ用の持ち歌がない事だ。
これが二階堂と行くなら、いくらでもアニソンなりゲームの挿入歌を歌えばいいんだが……このメンバーだとそれはちょっとな。
なんか考えるの面倒になってきた。適当に理由をつけて帰って、静かにゲームでもするか。
「あー悪いけど俺――」
「では近所にあるカラオケ店に向かうのだ! ふふ……友達とカラオケに行く……まさに青春ではないか!」
「ある意味この部活の活動目的に沿っているという事かしらね」
「ですね! 活動しつつ、テストの打ち上げが出来て一石二鳥~!」
断ろうとした瞬間、うまい具合に真央の声が重なって俺の言葉はかき消された。
六道も一ノ瀬先輩も乗り気だし……九条さんも断る気配無いし……この空気で俺だけ行かないってのは流石に空気が読めてない。
まあ別に読めてないって思われても構わないけど、後で文句を言われそうだ。主に真央とか九条さんとか真央とか真央に。
仕方ない、到着するまでにオタクじゃない人種にもウケそうな歌を考えなければ。
****
「~♪」
高校の最寄にある駅前のカラオケ店にやってきた俺達は、特に縛りなく好きな歌を歌っていた。
既に小一時間ほど滞在しており、今は六道が歌っている最中だ。
別に文句ってわけではなく、純粋な疑問なんだけど……なぜ六道はゾウの童謡を歌っているのだろう? さっきから流行りの歌は一切歌わず、童謡ばかりだ。
しかも……こういうのはあれだけど、結構な音痴だ。まあそれも個性だよな。
「むむ……」
俺の隣に座っていた一ノ瀬先輩は、凄い真剣な顔で、曲を入れる機械とにらめっこをしていた。
ちなみにこの機械、デンモクっていうらしい。どこから情報を仕入れたのか、さっき真央がドヤ顔で力説していた。
真央なんかに教わる日が来るとは思ってもみなかった。少し悔しい。
「これは……でも……うーん」
そんなに歌いたい曲があるのだろうか? ちょっと気になった俺は、一ノ瀬先輩にバレないように、さりげなくデンモクの画面をのぞいてみた。
そこには、日曜の朝にやっている女児向けアニメの『魔法少女キュア☆キュア』のオープニングテーマ曲が選択されており、それを入れるか入れないかで悩んでいた。
「歌いたかったけど……流石に無し、か。ならこっちは……」
ぶつぶつと独り言を言いながら、一ノ瀬先輩は別の曲を入れ始める。
すると、今度は有名な格ゲーである『アイアンファイター』のエンディングで流れる曲を選択していた。
実はこの人、俺と同類なんじゃないか? 今思えば、自己紹介の時にゲー……と言って急に口ごもっていたしな。
ちなみに『魔法少女キュア☆キュア』は俺も見てるし、『アイアンファイター』は勿論プレイ済みだ。
俺としては別に好きなのを歌えばいいと思うし、ここにいるメンバーなら、何を入れても馬鹿にしたりはしないだろう。俺が入れたら真央と九条さんにからかわれそうではあるが。
「はあ……ちょっと私飲み物取ってくるわ。みんなの分も取ってくるけど何かいる?」
「わたしは大丈夫です〜!」
「私もまだあるので結構です」
「あ……じゃあ、あたし……オレンジジュースをお願いします」
「俺も行きますよ」
軽く溜息を吐いた一ノ瀬先輩は、自らのコップと七海のコップ持って立ち上がると、俺も一緒に立ち上がった。
今回はドリンクバーだから飲み放題なんだよな……ファミレスみたいだ。
「お、蒼! 飲み物取りに行くなら我のを取ってくるのだ! メロンソーダな!」
「へいへい。適当に色んなの混ぜておくな」
「子供みたいな事をするでない!!」
「お前には言われたくねえ!」
真央の制止する声を無視した俺は、一ノ瀬先輩と共にコップを持って部屋を出る。
なんでわざわざ先輩についてきたのか? 俺はこの機会に、先輩に伝えておきたい事があるからだ。
「ちゃんと入れてあげるのね」
「まあそうっすね。変なの入れて慌てる真央を見るのも一興っすけど……一週間くらいネチネチ言われそうなんで」
俺が素直に真央のコップにメロンソーダを入れたのが意外だったのか、一ノ瀬先輩はボソッと呟いていた。
俺は一時の笑いを得る代わりに、真央にすねられるのが面倒なだけだ。真央は子供の時からすねると長引くからな。
「……俺、先輩にお礼を言い忘れてて」
二人きりのいいタイミングになったのを見計らって話を切り出すと、唐突に真剣になった俺が不思議だったのか、一ノ瀬先輩は俺の事を見ながら小首を傾げていた。
「お礼? 何か言われるような事をしたかしら」
「テスト勉強。先輩に頼りきりになっちまったなって思って……本当は俺も力になれればよかったんすけど、しっかり教えられるほど学力がなくて」
俺の言葉を聞いてわかったのか、一ノ瀬先輩は「あ~……」と、無意識に漏れ出たような声を出しながら、ウンウンと頷いていた。
「別に気にしなくていいわよ。授業にはついていけてるから。それに孤児院でずっと子供の面倒を見てたから、誰かの面倒を見るのが好きなのよ」
「そうだったんっすね」
「ええ。それよりも黒野さんが一番教えてもらってたし、彼女が一番に謝るべきじゃない?」
「あー……まあそれもそうなんすけど……」
やや呆れたように言う一ノ瀬先輩に、俺は苦笑いをしながら同意を示す。
気持ちはわかるけど、相手は元魔王だから素直に謝らない気がする。でも、六道の依頼の時は罪悪感を感じて謝ってたし、言えば謝るかもしれない。
けど、謝罪ってのは自分が悪いと思い、ちゃんと謝ろうってしない限りは無意味だと俺は思っている。
だから嫌味ったらしく言って、無理やり謝罪されるのは違うと思う。よし、ここは余計な事は言わないでおくに限る。
「でもやっぱり申し訳ないというか……せっかく部活に入ってもらったのにいきなりこき使ったみたいで」
「ふふ、早乙女君は随分とお人好しなのね」
お人好し……なのか? 俺はただへんにこじらせた結果、後々面倒になるのが嫌なだけなんだけどな。
「蒼ー! 芽衣センパーイ!」
「魔王様がお呼びよ。勇者様?」
「先輩まで勇者って言わないで欲しいっすね……」
「ふふっ、困ってる早乙女君を見たくて」
小さな唇に手を当てながら、幼い子供の様に笑いながら言う一ノ瀬先輩のからかいに、俺は小さく溜息をしながら否定をする。
「とりあえず戻りましょうか」
「そっすね……あ、最後に一つだけ」
「なにかしら?」
先に歩き出す一ノ瀬先輩を呼び止めると、くるっと半回転して俺の方に向き直す。
それを確認してから、ゆっくりと口を開いた。
「先輩、無理に頑張る必要はないんじゃないっすか?」
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回は明後日の朝に投稿予定です。
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