第2話 早速幼馴染に振り回されました
一体なにがどうなっているんだ?
もう会うことは無いと思っていた、幼馴染の黒野真央が転校してきただと?
ひょっとしてこれは悪夢か? もしそうなら早く夢から覚めて欲しい。
「知り合いだったのか。ちょうどいい。早乙女、ホームルームの後に黒野に学校の案内をしてやれ」
「な、なんで俺が……」
「やれ」
有無も言わさない担当教員の言葉に、俺は頷く事しか出来なかった。
視線の先では、教壇から降りた真央が満足そうにうんうんと首を縦に振っている。
くっ……なんで俺がまたこいつの面倒を見る羽目に……それは子供の頃に卒業したはずだ。
しかも、男子共の刺すような視線が痛い。
お前らに譲ってやるから交代してくれ。そしてあいつに振り回されてヒーヒー言う姿を俺に見せてくれ……俺はそれを肴に、平穏な生活を満喫するから。
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「蒼! さっそく校内を案内するのだ!」
ホームルームが終わり、俺はダッシュで教室を出ようとしたが、俺の前の席に座っていた真央に、腕を思い切り掴まれてしまった。
くそっ……これでは逃げられない。
そもそも、何で真央の席が俺の前なんだ? 席はランダムで決めたって言ってたけど、完全に嫌がらせだ。
「ふふっ……蒼よ、本当に久しぶりだのう。我はとても嬉しく思うぞ!」
嬉しそうに頬を赤く染めながら、噛みしめるように言う真央。
正直俺は全然嬉しくないし、早く帰りたい。あと腕を離してくれ。無駄に握力が高いのか痛いんだよ。
「俺は帰る」
「何故だ! 我を案内してくれるのだろう!?」
「あれは先生が勝手に言っただけだ」
「む〜〜〜〜! 蒼に拒否権は無いのだ!」
真央は腕から手を離すと、小さい体を大きく見せるように腰に両手を当て、背伸びをして俺の顔を覗き込むように見る。
不満を表してるのか、真央の頬は赤くしながら大きく膨らんでいた。
……顔が近いんだが? とりあえず離れて欲しい。
「ちっ……あのオタク野郎、なに黒野さんと仲良くしてるんだ……」
「ちょっと変わった転校生……最高……あのアニメ声で罵られたい……」
「ばかな!? こんなギャルゲーみたいな事、現実に起こるはずが……そうか、きっと拙者への試練でありますな! ギャルゲーの神も変な悪戯をするものですな……ガクッ」
「俺の早乙女君と仲良くするとか許せない……」
周りの男子共、恨みを込めた視線を向けるな。っておい二階堂、倒れてないで助けろ……あと最後の奴おかしいだろ。誰もお前のものになるとか言ってねえんだが?
ひょっとして、俺はこれから毎日夜道に気をつけないといけないのか? 面倒事が増えちまった。俺の平穏な生活が足元から崩れていく。
「い・い・か・ら! 早く行くぞ!」
「は、離せ……! 襟首を引っ張るな!」
俺の言葉など一切聞いていない真央は、ズンズンと歩き出していくのだった。
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「さあ蒼よ、どこから案内してくれるのだ?」
中庭まで連れてこられた俺に、当然のように真央が聞いてくる。
けど、案内なんて面倒な事はしたくない。早く帰りたいし。
「あっちが食堂。あっちが体育館で……」
「指で差されてもわからんのだ!」
だろうな、俺もそう思う。至極真っ当なご意見ありがとうございます。ですが、早乙女宛のご意見ボックスは絶賛閉鎖中だ。
「蒼は……我といるのが嫌なのか……?」
真央はウルウルとした目で俺のことを見つめる。
美少女だという事を活かした、なんとも姑息なテクニックだ。俺には意味がないが。
「そんな目で見ても無駄だ」
「……ちっ」
「舌打ち聞こえてるからな」
「む~〜〜〜……案内するのだ~!!」
真央は可愛らしい声を少し荒げながら、ポカポカと俺の腕を叩く。
叩き方は可愛らしいが普通に痛いし、周りの視線やコソコソと話す声がウザい。
「ガキみたいに叩くな」
「ガキではないのだー! 蒼のバーカバーカ!」
「罵倒のチョイスが完全にガキじゃねえか……もう、わかったから!」
「それでよい! むふー!」
満足そうに眉尻と口角を上げて笑う真央。俺の事を全く気にしないこの姿勢……懐かしくもあり、忌々しくもある。
腹をくくった俺は、順番に施設を案内すると、その度に真央は大げさにリアクションを取っていた。
手始めに一番近い食堂に連れていくと、
「な、なんて安いのだ……学食は全部こんな値段なのか!? 外で食べるのが馬鹿らしいではないか!? よし、これとこれと……これも食べるぞ!」
目を輝かせながらメニュー表とにらめっこをし、なぜか俺が大量のメシを奢らされた。よくもまあそんなに食えるものだと感心する。ちゃっかりデザートのプリンまで食ってるし。
次に図書館に連れていくと、
「す、すごい大きな図書室ではないか! これなら一生ここで時間をつぶせるな!」
「静かにしろって」
「蒼! ラノベまであるぞ! ここは品ぞろえが素晴らしいのう!」
「図書室ではお静かに!」
何故か俺まで一緒に図書委員に怒られた。オレは止めた側なのに理不尽極まりない。
そして体育館に連れていくと、
「体育館が二つもあるのか!? しかも地下には室内プール!? な、なんと豪勢なのだ!!」
真央は制服のままプールに行こうとしたので、急いで止めに入った。
プールが室内にあるのは、俺も一年の時に驚いたが、悪天候で中止にならないのが難点だ。
「蒼よ、あっちはなんだ?」
体育館から離れた真央は、ある所を指さすながら俺に問う。
「校舎裏。何もないぞ」
「行ってみないとわからんではないか!」
俺の言葉を聞いても止まらない真央は、笑顔で校舎裏へと進んでいく。校舎裏には誰もいないからか、しんと静まりかえっていた。
「何もないではないか! 面白くないのう!」
「だから先に言っただろ。もう満足したか? 大方案内したし、俺は帰るぞ」
俺は溜息を一つ残してから踵を返し、教室へ置いてきた鞄を取りに行こうとする。
だが、真央にまたしても腕を掴まれて止められてしまった。
そして、周りに人がいないのを良い事に、真央はとんでもない事を言ってのけた。
「なんだよ」
「ふふ……なんだかんだで案内するその姿勢、それでこそ勇者よ! この魔王はとても嬉しく思うぞ!」
「バッ……! お前……!」
誰もいない校舎裏で、真央は満面の笑みを浮かべながらそう言い切る。
何も知らない人間からしたら、真央が何を言っているかわからないと思う。
何かのゲームの事か、もしくは二階堂のようなイタイ娘と思う人間もいるだろう。
だが違う。
俺の幼馴染は、わがままばかり言う魔王系幼馴染——間違ってはないが、少し違う。
黒野真央は正真正銘、本物の魔王だったのだから――
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