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第2話 早速幼馴染に振り回されました

 一体なにがどうなっているんだ?


 もう会うことは無いと思っていた、幼馴染の黒野真央が転校してきただと?


 ひょっとしてこれは悪夢か? もしそうなら早く夢から覚めて欲しい。


「知り合いだったのか。ちょうどいい。早乙女、ホームルームの後に黒野に学校の案内をしてやれ」

「な、なんで俺が……」

「やれ」


 有無も言わさない担当教員の言葉に、俺は頷く事しか出来なかった。


 視線の先では、教壇から降りた真央が満足そうにうんうんと首を縦に振っている。


 くっ……なんで俺がまたこいつの面倒を見る羽目に……それは子供の頃に卒業したはずだ。


 しかも、男子共の刺すような視線が痛い。


 お前らに譲ってやるから交代してくれ。そしてあいつに振り回されてヒーヒー言う姿を俺に見せてくれ……俺はそれを肴に、平穏な生活を満喫するから。



 ****



「蒼! さっそく校内を案内するのだ!」


 ホームルームが終わり、俺はダッシュで教室を出ようとしたが、俺の前の席に座っていた真央に、腕を思い切り掴まれてしまった。


 くそっ……これでは逃げられない。


 そもそも、何で真央の席が俺の前なんだ? 席はランダムで決めたって言ってたけど、完全に嫌がらせだ。


「ふふっ……蒼よ、本当に久しぶりだのう。我はとても嬉しく思うぞ!」


 嬉しそうに頬を赤く染めながら、噛みしめるように言う真央。


 正直俺は全然嬉しくないし、早く帰りたい。あと腕を離してくれ。無駄に握力が高いのか痛いんだよ。


「俺は帰る」

「何故だ! 我を案内してくれるのだろう!?」

「あれは先生が勝手に言っただけだ」

「む〜〜〜〜! 蒼に拒否権は無いのだ!」


 真央は腕から手を離すと、小さい体を大きく見せるように腰に両手を当て、背伸びをして俺の顔を覗き込むように見る。


 不満を表してるのか、真央の頬は赤くしながら大きく膨らんでいた。


 ……顔が近いんだが? とりあえず離れて欲しい。


「ちっ……あのオタク野郎、なに黒野さんと仲良くしてるんだ……」

「ちょっと変わった転校生……最高……あのアニメ声で罵られたい……」

「ばかな!? こんなギャルゲーみたいな事、現実に起こるはずが……そうか、きっと拙者への試練でありますな! ギャルゲーの神も変な悪戯をするものですな……ガクッ」

「俺の早乙女君と仲良くするとか許せない……」


 周りの男子共、恨みを込めた視線を向けるな。っておい二階堂、倒れてないで助けろ……あと最後の奴おかしいだろ。誰もお前のものになるとか言ってねえんだが?


 ひょっとして、俺はこれから毎日夜道に気をつけないといけないのか? 面倒事が増えちまった。俺の平穏な生活が足元から崩れていく。


「い・い・か・ら! 早く行くぞ!」

「は、離せ……! 襟首を引っ張るな!」


 俺の言葉など一切聞いていない真央は、ズンズンと歩き出していくのだった。



 ****



「さあ蒼よ、どこから案内してくれるのだ?」


 中庭まで連れてこられた俺に、当然のように真央が聞いてくる。


 けど、案内なんて面倒な事はしたくない。早く帰りたいし。


「あっちが食堂。あっちが体育館で……」

「指で差されてもわからんのだ!」


 だろうな、俺もそう思う。至極真っ当なご意見ありがとうございます。ですが、早乙女宛のご意見ボックスは絶賛閉鎖中だ。


「蒼は……我といるのが嫌なのか……?」


 真央はウルウルとした目で俺のことを見つめる。


 美少女だという事を活かした、なんとも姑息なテクニックだ。俺には意味がないが。


「そんな目で見ても無駄だ」

「……ちっ」

「舌打ち聞こえてるからな」

「む~〜〜〜……案内するのだ~!!」


 真央は可愛らしい声を少し荒げながら、ポカポカと俺の腕を叩く。


 叩き方は可愛らしいが普通に痛いし、周りの視線やコソコソと話す声がウザい。


「ガキみたいに叩くな」

「ガキではないのだー! 蒼のバーカバーカ!」

「罵倒のチョイスが完全にガキじゃねえか……もう、わかったから!」

「それでよい! むふー!」


 満足そうに眉尻と口角を上げて笑う真央。俺の事を全く気にしないこの姿勢……懐かしくもあり、忌々しくもある。


 腹をくくった俺は、順番に施設を案内すると、その度に真央は大げさにリアクションを取っていた。


 手始めに一番近い食堂に連れていくと、


「な、なんて安いのだ……学食は全部こんな値段なのか!? 外で食べるのが馬鹿らしいではないか!? よし、これとこれと……これも食べるぞ!」


 目を輝かせながらメニュー表とにらめっこをし、なぜか俺が大量のメシを奢らされた。よくもまあそんなに食えるものだと感心する。ちゃっかりデザートのプリンまで食ってるし。


 次に図書館に連れていくと、


「す、すごい大きな図書室ではないか! これなら一生ここで時間をつぶせるな!」

「静かにしろって」

「蒼! ラノベまであるぞ! ここは品ぞろえが素晴らしいのう!」

「図書室ではお静かに!」


 何故か俺まで一緒に図書委員に怒られた。オレは止めた側なのに理不尽極まりない。


 そして体育館に連れていくと、


「体育館が二つもあるのか!? しかも地下には室内プール!? な、なんと豪勢なのだ!!」


 真央は制服のままプールに行こうとしたので、急いで止めに入った。


 プールが室内にあるのは、俺も一年の時に驚いたが、悪天候で中止にならないのが難点だ。


「蒼よ、あっちはなんだ?」


 体育館から離れた真央は、ある所を指さすながら俺に問う。


「校舎裏。何もないぞ」

「行ってみないとわからんではないか!」


 俺の言葉を聞いても止まらない真央は、笑顔で校舎裏へと進んでいく。校舎裏には誰もいないからか、しんと静まりかえっていた。


「何もないではないか! 面白くないのう!」

「だから先に言っただろ。もう満足したか? 大方案内したし、俺は帰るぞ」


 俺は溜息を一つ残してから踵を返し、教室へ置いてきた鞄を取りに行こうとする。


 だが、真央にまたしても腕を掴まれて止められてしまった。


 そして、周りに人がいないのを良い事に、真央はとんでもない事を言ってのけた。


「なんだよ」

「ふふ……なんだかんだで案内するその姿勢、それでこそ勇者よ! この魔王はとても嬉しく思うぞ!」

「バッ……! お前……!」


 誰もいない校舎裏で、真央は満面の笑みを浮かべながらそう言い切る。


 何も知らない人間からしたら、真央が何を言っているかわからないと思う。


 何かのゲームの事か、もしくは二階堂のようなイタイ娘と思う人間もいるだろう。


 だが違う。


 俺の幼馴染は、わがままばかり言う魔王系幼馴染——間違ってはないが、少し違う。


 黒野真央は正真正銘、本物の魔王だったのだから――


ここまで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想よろしくお願いします。


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