第18話 互いを知るために
「それよりも……まず何をするんだ? 依頼でも来てるのか?」
写真を数枚撮り、部室へと戻ってきてから俺は真央に聞く。
すると、真央は椅子の上にスッと立ち上がり、自信たっぷりに胸を張りながらドヤ顔をしていた。
どうして一々椅子の上に立ちたがるんだ? 危ないからとりあえず降りろ。
「ふふん……聞いて驚くがいい!」
今日は記念すべき初めての活動日。という事は……まさか、本当に凄い計画があるというのか?
「実はな……何も決まってない!!」
記念日でも変わらない真央の無計画さに、俺は盛大に机に突っ伏してしまった。こいつに期待をした俺が馬鹿だった。
「いきなり前途多難じゃねえか」
俺は思わず真央にツッコミを入れると、本人はウインクをしながらチロっと舌を出していた。そんな顔をしても俺は騙されんぞ。
「やる事が無いなら、今日はお開きという事ですね」
「ま、待て美月! せっかくの初日から即解散は嫌なのだ!」
「ならちゃんと用意しておきなさいよ……」
一ノ瀬先輩のもっともなツッコミに、真央は涙目になりながら顔を俯かせてしまった。
ったく、この泣き虫な元魔王様は……仕方ない、今回も助け舟を出すか。
「今日は顔合わせというか、自己紹介と雑談でいいんじゃないか? まだメンバーの知らない事も多いだろうし、結構みんな訳ありだろ」
「ぐすん……そ、それが良いのだ! 良い事を言うではないか蒼!」
涙を拭いながら、急に活き活きとし始める真央。全く現金なやつだ。
「おしゃべりをするなら、お茶とお菓子が欲しいのう! 蒼、何か持ってないか?」
「急に言われて出てくるわけないだろ」
「準備が悪いのう……」
酷い言われようだ。そもそも真央が無茶振りしてるだけなのに、何で俺が責められているんだ?
「でしたら……武田」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
九条さんがゆっくりとそう言った瞬間、彼女の後ろに黒のスーツを着たイケメンの男が現れた。
今どこから出てきた? 瞬間移動でもしてきたのか? それにこの人見覚えが……そうだ、いつだったか俺にコブラツイストをしてきた人だ。
あれは……かなり痛かったな……今思い出しても少し震えあがってしまう。
「武田、お茶とお菓子を」
「かしこまりました、お嬢様。ではこちらを……」
武田と呼ばれた男は、持っていたアタッシュケースを差し出す。中から、高級そうなクッキーと紅茶、小型の電子ポットとカップ、それと小皿をいくつか取り出した。
そのアタッシュケースの大きさで、ポットやカップをどうやって入れていたんだ……? そもそもこの人は何者なんだ。九条家の使用人か?
「ありがとう。もう結構です」
「かしこまりました」
深々とお辞儀をした武田さんは、一瞬のうちにその場から煙のように消えた。
……あの人も転生者なんじゃないだろうか? 普通の人間にこんな事が出来るとは思えない。
「……えっと、九条さん? あの人……突然現れたり消えたりしたけど……何者なのかしら?」
「九条家に仕える執事の武田ですよ。幼い頃から私のそばにいてくれているんです」
「ヒツジ!? あの男はヒツジだと言うのか!? 人間の姿をしておったぞ! ひょっとして転生者!?」
何を聞き間違えたのか、真央は一人で変な方向で驚いている。昭和にありそうな古いボケをするな。転生者か疑う気持ちはわかるが。
「やっぱりビックリするよね~でも大丈夫! すぐに慣れるよ!」
「これ……慣れるものか?」
「嫌でも慣らされちゃうよ! わたしがそうだったもん……」
六道は乾いた笑いを漏らしながら、俺からスッと視線を逸らした。
なんというか……九条さんとは前世からの付き合いだし、結構六道も苦労してきたのかもしれない。友達以前に屋敷で働くメイドだったらしいしな。
「私が準備するわね」
「あ、わたしもやります!」
「大丈夫よ、一人で出来るわ」
「まあまあ、一緒にやった方が早いし楽しいですから!」
「そ……そう?」
六道と一ノ瀬先輩が、手分けしてクッキーと紅茶の準備をしてくれた。
特に六道のとても慣れた手つきな所を見ると、こういう事に慣れているんだとわかる。さすが元メイド。
「ん~~! これは美味だのう!」
「今日の趣旨を忘れてないだろうな。とりあえず部長の真央から自己紹介しろよ」
「忘れずにクッキーを食べているではないか!」
「お前が言ってるのは菓子! 俺が言ってるのは趣旨!」
「へぶっ!? わざわざチョップしなくても良いではないかー!」
お前が変な事を言うからだろ。付き合わされるこっちの身にもなって欲しい。
真央はプリプリ怒りながらも、勢いよく立ち上がった。
「我は黒野真央! 今年の四月に転校してきた! 蒼とは幼馴染だ! そして偉大なる元魔王! 我にひれ伏すのだー! ふはははは!!」
「ほ、本当に魔王なの? 私まだ信じられないのだけれど……」
「残念ながら本当っすね」
一ノ瀬先輩に同調するように、残り二人の美少女もうんうんと頷いている。俺もそう思いたいんだけど、残念ながらこいつは本物の魔王なんだよな。
「黒野さんが妄言を言っているだけなのでは?」
「そう思うよな。けどこいつは俺との決戦の記憶があってな。しかも間違っていない。なにより魔王の時の見た目とうり二つなんだよ」
「ふふん、このナイスバディは転生しても受け継がれたという事だのう! むふー!」
「チビのくせに、よくそんな事を言えるな」
「なんじゃとお!? この胸を見てそんな事が言えるのか!」
言いたい事はわかるから、一々下から持ち上げて揺らさんでいい。
「早乙女君、なに嫌らしい目で見てるんですか。この女の敵、勇者の面汚し」
「え、エッチなのは駄目よ!」
「早乙女くんってエッチな人だったの!?」
「いやなんで俺がエッチな人間にされてるんだ!」
冤罪にもほどがある。元凶の真央は「何の話だ?」と目を点にしてるし。とにかくさっさと自己紹介を進めないと更に被害を受けそうだ。
「んじゃ俺な。名前は早乙女蒼。とても不本意ながら真央とは幼馴染だ。あと……一応前世で勇者をやっていた」
改めて自分は勇者だっていうのは、想像以上に恥ずかしい。痛い奴だって思われてもおかしくはない。
「汚らわしい目をしていた人が勇者なんて、なんだか面白いですね」
「だから見てないって言ってんだろ!」
「冗談ですよ」
本当に冗談なのか九条さん。正直さっきの目は結構マジに見えたんだが。
「本当に勇者様だったのね。あの時は孤児院を救ってくれてありがとう」
「わたしもお礼言いたい! 美月ちゃんの薬草を見つけてきてくれてありがとう!」
「その節はありがとうございました。おかげであの時はだいぶ楽になりました」
「お、おう……」
なんか……死んだ時に沢山の人間に裏切られたけど、こうやってお礼を言われるとやっぱり嬉しいものだ。少し目頭が熱くなってきた。
「蒼ばかり感謝されてズルい! 我もお礼を言われたいのだ!」
「お前は当時何もしてないだろ……」
むしろこいつのやっていた事は、感謝されるような事と真逆なんだよな。
「あははっ! 真央ちゃんって面白いね! じゃあ次わたし! 六道友莉菜です! えっと、2-Aです! 趣味はお料理! あとお洗濯とか、お掃除とか、お裁縫とか、家事全般が得意です! 前世ではワンちゃんの獣人で、友莉菜ちゃんのお家のメイドさんでした!」
やっぱり料理が得意なのか。メイドをやってたんだから当然と言えば当然か。
「六道さんって家庭的なのね」
「えへへ、メイドさんの頃から大好きで! あ、よかったら友莉菜って読んでください! わたしは芽衣ちゃん先輩って呼ぶので!」
「め、芽衣ちゃん先輩!?」
六道は少し照れながら、少し可愛らしい呼び方で一ノ瀬先輩を呼ぶと、先輩は少し目を丸くして驚いていた。
「あ、ごめんなさい。ダメでしたか……?」
「だ、ダメじゃないわよ! よろしくね。えっと……友莉菜さん」
「えへへ……よろしくお願いします!」
六道がニッコリと笑うと、一ノ瀬先輩も釣られるように微笑んで見せる。
一ノ瀬先輩は一人だけ上級生って事や生徒会という事があるから、他のメンバーと仲良くできるのかと思っていたけど、その心配はいらなさそうだ。
「では……九条美月と申します。友莉菜とは前世からの親友です。趣味はピアノとバイオリン、あと料理です。前世では猫の獣人でした」
「ね、猫ちゃん!?我に撫でさせるのだ!!」
「真央、落ち着け。九条さんは今は普通の人間だから」
「つまらんのう」
真央は心底つまらなさそうに口を尖らせる。別に普通の事なのにここまでがっかりされる九条さんが少し可哀想に思えてきた。
「最後は私ね。えっと、一ノ瀬芽衣よ。3-Bと生徒会に所属してるわ。ドイツ人と日本人のハーフよ。前世ではエルフ。孤児院で子供たちの面倒を見ていたわ」
「そうなんですね~! 芽衣ちゃん先輩はやさしいからぴったり!」
両手を合わせてニコニコする六道の言葉に、一ノ瀬先輩は毛先をクルクルしてみせた。
先輩、顔が赤いし全然照れてるのを隠せてないっすよ。
「優しいなんてそんな……あっ、趣味はゲー……えっと、その、趣味はないわ!」
「ん? 芽衣センパイ、何を言いかけたのだ? 素直に吐くのだ!」
「 一緒に活動する仲間なんですから隠し事は無しですよ芽衣ちゃん先輩!」
「潔く話しましょう、一ノ瀬先輩」
完全に美少女三人のターゲットにされてしまった一ノ瀬先輩は、俺に助けを求める様に涙目で顔を向けてくる。
趣味ぐらい聞かれても良いと思うんだが。仕方ない、一ノ瀬先輩にも助け舟を出すか。
「なあ真央、この部活の目標ってなんだ?」
「目標? 前も話したが我らで青春を楽しみ、生徒の悩みを解決する手伝いを――」
「そうじゃない。野球部だったら甲子園とか、そういった目標はうちにはあるのかって思ってな。目標があれば、それに向かって頑張れるだろ」
「……考えても無かったのう」
「でも部活ならそういうのがあっても良いですよね」
咄嗟に思い付いた事を聞いただけなのだが、想像以上に食いついてくれた。うまく話題を反らせて一安心だ。
「なら……ベストクラブ賞を目指すのはどうかな~?」
「ベストクラブ……とはなんなのだ?」
ベストクラブ? そんなのあったか……記憶にないな。
「卒業パーティーの時に発表される、今年一番頑張った部活動に与えられる賞ですね。様々な観点から選ばれる賞なのですが、一番に選ばれるという事はそれだけ目立ちます」
「それに選ばれれば……更なる部員や依頼人が増えるやもしれん!!」
九条さんが簡単に説明をすると、目を輝かせながら身を乗り出す真央の言葉に、「そういう事です」と九条さんは頷いて見せた。
「決まりだな! 我々はベストクラブ賞を目標にする! そのために依頼をこなし、我らも青春を楽しんでいる事を示そうではないか! なーに、我らはこの魔王が率いる最強の転生者軍団だ! 出来ない事は無い!」
「誰もお前に率いられた覚えはねえよ」
「早乙女君に賛成ですね。魔王の配下なんて御免です」
真央は高らかに宣言すると、腕を天井に向けて勢いよく突き出す中、俺と九条さんの素早いツッコミが真央を襲う。
そんな話をしていると、コンコン――と、かなり控えめな音量で、扉がノックされる音が部屋に響いてきた。
「む? 開いておるぞー!」
「失礼します……あ、あのう……青春応援部って……ここでしょうか……? 依頼したい事があって……」
ノックの音の発生源の扉がゆっくりと開くと、そこにはとても気の弱そうな一人の少女が立っていた――
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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