第16話 健闘虚しく……
「…………」
ついに来た約束の日の放課後――俺は部員である三人の美少女と共に、いつも通り2-Aの教室に集まっていた。
メンツも場所も同じなのだが、昨日までと違い、重苦しい雰囲気が部屋を包んでいた。
「やっぱりここにいたのね」
「えっと……?」
「六道と九条さんは知らないよな。生徒会の一ノ瀬芽衣先輩だ。今回の部活を作る条件を出した人だ」
沈黙を破るかのように、部屋の中に艶やかな金髪の女子が部屋に入ってきた。その姿にキョトンとしている二人に俺が説明をすると、なるほどと頷いた。
そんな中、彼女は俺達を順番に見てから、静かに口を開く。
「結果を聞きましょうか」
「……顧問は小林先生にお願いしました。実績に関しては一件依頼をこなしました。部員は……あと一人の所で……」
「まだだ! まだ最終下校まで時間はある! もしかしたら……入部希望、が……」
俺が一ノ瀬先輩に説明している所に割って入るように、真央が勢いよく立ち上がりながら声を荒げる。
だが、真央自身も分かっているのだろう――もう希望が無いと。だからなのか、言葉の最後の方には俯いてしまっていた。
「……何にせよ、部活動を作るための条件は満たせなかったという事ね」
確認の意を込めて一ノ瀬先輩が俺に聞いてくる。それに対して、俺は静かに頷いて見せた。
「わ、わたし! もう一回ビラ配りしてくるよ!」
「友莉菜」
六道が走りだそうとしたところを、九条さんが手を取ると、静かに首を横に振る。すると、九条さんの意図を理解したのか、六道は静かに椅子に腰を下ろした。
これで誰もこなければ青春応援部は作れず、俺は面倒な部活から解放されて平穏な生活に戻れる……喜ばしい事なのに、何故か胸の奥がチクリと痛んだ。
――ちょっと待て。
よくよく考えたら、なぜ俺はあんなに部活動を作るのに活動をしていたんだ? 静かな生活を送りたい俺としては、部活動が出来ない事は喜ばしい事だ。
後々面倒になるからーなんて、もっともらしい理由をつけて、自分から顧問を探すとか、俺は部活動をやりたいって言ってるようなものじゃないか。
――ああ、そうか。
真央の無茶振りから始まり、真央と悩んだり、ポスターを作ったり、六道の依頼に取り組んでいた時間が……この二週間が……俺は嫌いじゃなかった。
だが、今でも俺は誰かを助けるなんて事はしたくない。それでもこの新しい日常を捨てるのも嫌だ。
ああクソッ、イライラする……自分の気持ちなのに、なんで俺がわからねえんだ。気持ちが矛盾の塊すぎて自分で笑っちまいそうだ。
「……いや、ウダウダ考えてるのは後でも出来るか。みんな、ビラ配りに行くぞ。最終下校時間まで諦めないで動くぞ!」
「そ、蒼……うむ、その通りだ! 出来る事をやるぞ!」
俺と真央の言葉が信じられないのか、他の美少女三人は目を丸くしていた。
偉大な先駆者が、諦めたらそこで試合は終了と言っている。
俺の考えは支離滅裂で、矛盾だらけで、俺自身がよくわかってない。けど、このまま終わるのは御免なのはわかる。
「残念だけど……部員を探すのは許可出来ないわ」
俺は部員達と教室を出ようとした所、一ノ瀬先輩に引き止められてしまった。
まさか……ここにきて妨害してくるつもりか?
「あなた達のやる気や誠意は十分見せてもらった。けど約束は約束……生徒会副会長として、約束を撤回することは出来ない。けど、一ノ瀬芽衣個人としては、なぜかあなた達が放っておけない。だから、これをあなた達に渡すわ」
そう言うと、一ノ瀬先輩は俺に一枚の紙を差し出してきた。その紙が気になったのか、部員の三人も俺の近くに来て、覗き込むように紙を見る。
その紙には――入部届と大きく書いてあり、一ノ瀬先輩の名前と、青春応援部に入る旨が書いてあった。
「まさか……入部届!? ほ、本当によいのか……!?」
「黒野さん、さっきも言ったでしょう? あなた達を放っておけないの。何故かはわからないけどね……言っておくけど、もし学校の迷惑になりそうなら生徒会として、全力で活動停止させるから! そこは勘違いしないで!」
「ありがとう芽衣センパイ!」
「よ、よかった……やったね美月ちゃん……!」
「そうですね」
ビシッと俺達を指を刺しながら言う一ノ瀬先輩に向かって、真央が思い切り抱き着く。
まさか抱きつかれると思ってなかったのだろう、一ノ瀬先輩は顔を真っ赤にしながらアタフタしていた。
その近くでは、六道が同じ様に九条さんに抱きつきながら嗚咽を漏らしている。
一ノ瀬先輩の心境にどういった事が起こっているのか、俺には知る由もないが、結果的にこれで条件を満たすことは出来たという事だ。
これでは俺の平穏な生活はまだ帰ってこないという事だ。そう考えると溜息が出てしまうが、楽しみにしている自分もいる。相変わらず自分の事なのによくわからない。
「く、黒野さん!? は、離してー!」
「ほら真央、一ノ瀬先輩が困ってるだろ」
「うぇぇぇん……! 蒼ぉぉぉぉ!!」
「俺にも抱き着くな!」
泣き声が響いたり、真央が抱きついたりとカオスな空間になりつつある教室に、俺の焦った声が響き渡る。相変わらずの馬鹿力のせいで引き剥がさない。
あーあー……俺の制服が真央の涙やら鼻水やらで汚れていく。勘弁して欲しいんだが。
「それにしても、まさか一ノ瀬先輩が入ってくれるのは想定外でしたよ」
「私も不思議なんだけど、何故か放っておけなかったのよ。特に早乙女君は、以前どこかで会ったことがあるような、不思議な感じで」
会ったことがある? なんかどっかで同じような言葉を聞いたような……そうだ、六道が以前言っていたんだ。
って事は、俺はどこかで一ノ瀬先輩に出会っていたという事か? 学校の中で見た事は確かにあるけど、面と向かって話した事はない。
じゃあ一ノ瀬先輩が俺の事をどっかで何度も見た? こう言ってはなんだが、俺はつい先日まで目立たないように行動してきたつもりだ。見た目も凄い特徴があるわけでもない。
そうなると……まさか前世で?
いやいやいや、六道と九条さんだけでも驚きなのに、来栖も転生者だって知って驚いてたんだぞ? ここにきて一ノ瀬先輩もなんて、そんな漫画みたいな展開あるか?
「っておい真央、いい加減離れろ!」
「嫌じゃ〜! 魔王の我をヨシヨシするのも勇者の務めなのだ〜 」
「子供じゃないんだからヨシヨシを求めるな! あと勇者いうな! 先輩、こいつの妄言なんで聞き流してくれていいんで」
「…………勇者…………魔王…………?」
また口を滑らせやがってこの馬鹿。せっかく入ってくれる一ノ瀬先輩に変な目で見られたらどうしてくれるんだ。
「言われてみれば、確かに彼に似てる……ねえ早乙女君、それって本当なの?」
「え? いやまさか。そんなゲームじゃあるまいし」
「嘘ではない! 我はほんろうのころを……」
「あーもう、俺にくっついて泣いてていいから少し黙ってろ!」
「らにすふのら~!」
俺は片手で真央の両頬を潰して、ヒヨコみたいな口にすることで、無理やり黙らせようと試みる。
俺の制服が犠牲になるが、今の真央にこれ以上喋らせたらどんどんボロが出るのは明らかだ。やや力技なのは否めないが仕方ない。
「……孤児院」
「え?」
「その孤児院は経営難と盗賊の被害で困っていた。けど、その孤児院にある人がたまたまやってきて、その孤児院を救ってくれた」
……先輩は急に真剣な顔で何を言っているんだ? なにかの物語だろうか。
いや待て、経営難と盗賊で困っていた……孤児院? 思い出してきた……前世の六道と九条さんがいた街を出発してから、しばらくした後に立ち寄った場所にそんな所があった。
そこでは綺麗な女の人が、一人で身寄りのない子供達の面倒を見ていた。その人は金髪で綺麗な青い瞳で……あれ、よく考えたら先輩によく似ている。
「先輩……その人は子供が大好きな面倒見の良い人で、金髪で青い瞳ですか?」
「っ!? そ、そうよ」
「……エルフですか?」
「そう!!」
ずいっと俺に顔を近づける一ノ瀬先輩の目は、キラキラと輝いていて、吸い込まれそうな気分になった。
いや、今はそんな事はどうでもいい。
彼女の言葉を信じるなら――一ノ瀬先輩も転生者?
という事は、青春応援部に集まった連中全員が転生者って事か!?
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回のお話は明日の夜更新予定です。
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