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第14話 この件はおしまい!

「む……蒼……?」

「よう」


 翌日、俺はいつもより早起きをして真央の家の前に立っていた。


 まさか俺がいると思っていなかったのだろう。真央は少し驚いたような顔をしている。


「何してるのだ……?」

「見てわかるだろ? 真央を迎えに来たんだよ。さっさと後ろ乗れ」

「う、うむ……」


 真央は俺の指示に素直に従うと、自転車の後ろにちょこんと腰を下ろす。


 俺の知っている真央なら、迎えに来て当然だーこれから毎日来いーみたいなノリだったのだが……きっと昨日の事で元気が無いのだろう。


「……蒼、今日は何故迎えに来たのだ?」

「別に大した理由はない。昨日は疲れてたのか、ぐっすり寝ちまってな。そのせいか、いつもより早く目が覚めちまっただけだ」


 ――嘘だ。


 あの後ゲームをする気も起きずにすぐに布団に入ったし、いつもより早くアラームをかけたし、寝つきも最悪だったから、正直めっちゃくちゃ眠い。


 けど、今の真央を放っておいたら面倒くさいというのだけはわかる。だからこそ、ゲームや睡眠の時間を削って様子を見にきた訳だ。


「ちゃんとつかまってろよ」

「……うむ」


 真央は俺の言葉に素直に頷くと、以前後ろに乗せた時と同様、抱き着くようにしがみついてくる。


 けど、前と違って腕に入る力はかなり弱いのが、真央の落ち込み具合を表しているかのようだった。


「……っ」


 自転車を漕ぎだしてから間もなく、閑静な住宅街の中にある十字路で見覚えのある女子二人と遭遇した。


 その姿に、俺は思わず言葉を詰まらせながら、自然と自転車を止める。


「どうしたのだ蒼……あっ……友莉菜……美月……」


 その後ろでは、真央が俺にどうしたのか聞きながら、ぴょんと荷台から降りると、六道と九条の姿が見えた途端、その場で静止していた。


「おはようございます、早乙女君、黒野さん」


 まさかこんな所で会うとは思っていなかった俺と真央が言葉を詰まらせている中、九条さんが一番に口を開いた。


「……二人は家この辺なのか?」

「友莉菜がすぐ近くでして。私は友莉菜が心配だったので……昨日は友莉菜の家に泊めてもらいました」


 昨日の今日という事もあり、六道と話しにくいと思った俺は、適当に九条さんに気になった事を投げかける。


 俺が真央や六道の事を心配に思ったように、九条さんも六道の事が心配だったんだな……。


「……おはよう、六道」

「うん……おはよう、早乙女くん、真央ちゃん」

「うむ……おはよう……その……」


 真央はまだ言うべき言葉が出てこないのか、口ごもりながら目線を落としていた。


 仕方ない、俺から六道に謝ろう。


「……昨日は……その……ごめ――」

「早乙女くん」


 六道に先を越されてしまった俺は、どんな罵声が来てもいいように構える。だが、六道は怒るわけでも泣くわけでもなく、優しい微笑みで俺を見つめていた。


「昨日はわたしの為に体を張って、痛い思いまでして来栖先輩から助けてくれて……本当にありがとう。そして……迷惑かけてごめんなさい……真央ちゃんもありがとう……真央ちゃんのおかげでラブレターも書けたし、生まれて初めての告白も出来たよ」


 なんで六道に感謝された上に謝られているんだ……?


 俺としては怒られてもおかしくないと思っていたから、優しい六道に驚いて、思わず口をポカンと開けたままになってしまった。


 それは真央も同じ気持ちだったのか、目を大きく開きながら小刻みに震えている。


「礼を言われるような事はしていない! 我がもっと来栖の事を知ろうとしていれば……事前に防げていた! なのに……我は友莉菜を手伝う事だけに夢中になって……何が完璧な仕事だ……本当に……ごめんなさい!」

「いや、俺が悪い。俺は来栖の女癖が悪い噂を聞いていたのに……でも、どうしても言えなくて……すまなかった」


 真央が勢いよく頭を下げるのを止めるように、俺も一緒に隣で頭を下げる。すると、六道はアワアワ言いながら、俺達の肩に手を乗せた。


「謝られるような事なんてされてないよ!? だから……二人とも元気出して。わたしは友達に頭を下げて欲しくないよ……」

「とも……だち……? 我、が……?」

「うんっ! 真央ちゃんも……それに早乙女くんも、わたしの友達だよ!」


 六道の言葉が信じられないのか、真央は言葉を詰まらせていた。そんな真央と俺を擁護するかのように、九条さんがゆっくりと口を開く。


「……お二人に責任と言うなら、私にも責任はあります。前世からの親友なのに、お二人に任せきりで……本当にごめんなさい」


 六道の隣にいた九条さんは、とても綺麗な動きで頭を下げる。


 すると、笑顔だった六道は頬を大きく膨らませながら、少しだけ声を荒げた。


「もー美月ちゃん! それは昨日沢山聞いたからもう言わないのっ! じゃあ、みんなごめんなさいって事で……この件はおしまいね!」

「友莉菜……しかし……」

「わたしがおしまいって言ったらおしまいなのっ!」


 膨らませた頬を元の大きさに戻した六道は、微笑みながら手を軽く叩いて見せる。その言葉の通り、これでこの話は終わりという事だろう。


「それでね! 昨日美月ちゃんと話し合ったんだけど……二人共、部員を探してるんだよね?」

「あ、ああ。そうだけど」

「わたし達を部員にしてくれないかな? 何か楽しそうだし、今回のお礼もしたいの。それに、早乙女くんには前世でもたくさんお世話になってるし……ダメ、かな……」


 六道の思わぬ申し出に、俺は真央と顔を見合わせた。真央は驚いたような表情をしていたが、きっと俺も同じような顔をしているだろう。


「ありがたい申し出だけど……いいのか?」

「うんっ!」

「私は友莉菜が心配ですから一緒に入ります。それに、元魔王を放っておいたら危険ですからね」

「友莉菜ぁ……美月ぃ……!!」


 さっきからずっと黙っていた真央は、六道と九条さんの間に立つと、嗚咽を漏らしながら、二人の事を細い腕でぎゅっと抱き寄せた。


 すると、真央の行動に驚いたのか、六道と九条さんは困惑したように俺に視線を向ける。


 大丈夫だ、俺も正直驚いている……そんな目になるのもわかる。


「ありがどぉ……ひっぐ……わ、我は……すごく……すごくうれじい……一緒に……部活……しよぉ……ぐすっ……うわあああん!」

「うん! よろしくね真央ちゃん!」

「よろしくお願いします、黒野さん」


 六道への申し訳なさや、許してもらえた安心感、二人が部活に入ってくれる喜びといった感情がごちゃ混ぜになったんだろう。


 泣きじゃくる真央の心からの言葉を聞いた二人は、まるで聖女のような優しい笑みで真央に語りかける。


 俺の想像よりも、二人とも元気そうだ……良かった。


 ――良かった?


 もしかして、これが昨日のよくわからない気持ちの正体?


 良かったと思えるという事は、俺の心には、まだ他人を心配するような、勇者の頃のような心が残っていたというのか?


 そう仮定するなら、他人なんかどうでもいいと思っていたけど、俺は心の片隅でみんなを心配していた。だから来栖が逆恨みして来ないかとか考えていたという事だろう。


 なら、真央の事も心のどこかで心配してたから、こうやって朝早くに来ようと思ったってか? いやいや、流石にそれは無いだろう。


 っと、今は俺のよくわからない心境なんかどうでもいいか。


 依頼も終わり、部員兼前世仲間も増え、真央とついでに俺にも友達が増えて一件落着……といきたいところだけど、まだ気を緩めるには早い。


「まだ正式に青春応援部が活動できるわけじゃない」

「え? どういうこと?」


 俺の言葉に、六道が小さく首を傾げながら聞いてきた。


 一個一個の動作が男心をくすぐるな。真央も勘違いさせるような事をするが、六道も男に気があるのではないかと勘違いさせそうだ。


「生徒会に部活動を作る条件を出されていてな。部員五人、顧問の確保、実績を上げるの三つだ」

「そんなのが出されてたんですね」

「ああ。実績はとりあえずクリアと見て良いと思う。部員はあと一人、そして……顧問を見つける必要がある」

「顧問かぁ……手あたり次第に先生に当たってみるとか?」


 六道の言う事もわかるが、それでは部員確保に割けなくなる問題が出てしまうんだよな。


「いや、俺にやってくれそうな人に心当たりがある。顧問は俺に任せて、三人は残り一人の部員の確保に専念してくれ」


 俺がそう言うと、六道と九条さんは深く頷いてくれた。


 なんで俺自らが率先して動くのかだって? 不慣れな二人や、基本ポンコツな真央に任せた結果、時間ギリギリで泣きつかれるよりも、俺が最初から動いた方が遥かに楽だからだ。どうせやらされるんだしな。


 って……よくよく考えると、俺も部活動にのめり込んでいないか? 真央の奴、いつのまにか俺に魅了チャームをかけて操ってたとか無いだろうな?

ここまで読んでいただきありがとうございました。


次回の更新は明日の朝に更新予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想を書いていただけると励みになります。


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