第12話 友莉菜を救い出せ!
なんとなく、おかしいとは思っていた。
複数人の彼女。恥ずかしがり屋な一面がある六道が、ちょっと見ただけで惚れて告白をしようとする違和感。九条さんの来栖に対する評価の一転。そして、この男から感じる嫌な気配。
この気配、俺には覚えがある。サキュバスという女型の悪魔が、魅了という魔法を使った時にそっくりだ。こいつは男だからインキュバスになる。
来栖天馬——この男は向こうの世界と何か関係がある存在に間違いはないだろう。このままでは六道が危険だし、放っておいたら何をするかわからない。
「その手を……放せ!」
俺は真正面から来栖に向かっていく。
だが、気付いたら俺の体は後方へと吹き飛ばされて、尻餅をつかされてしまっていた。
速すぎて何が起きたのか分からなかった。だが、顔に感じる痛みと熱が、俺は殴り飛ばされたんだと知らせてくれていた。
流石に向こうの世界の様には上手くいかないか。転生してから鍛えてすらいないからな……。
「早乙女君、僕は彼女と大切な時間を過ごしているんだ。邪魔をするなら容赦はしないよ」
「くっ……」
口の中が切れたのか、血の嫌な臭いが口いっぱいに広がっている。
けどそんな事は関係ねえ。俺は立ち上がって再度来栖に突撃していく。
「容赦はしないって……言ったよな?」
「かはっ……」
抑揚の無い言葉で言う来栖の右膝が、俺の腹部に深々と刺さる。
その衝撃で、俺は声にならない声を漏らしながら、膝から崩れ落ちてしまった。
「これでも格闘技を嗜んでいてね」
「さ、早乙女くん! 来栖先輩……こんな事して、学校に知られたらタダじゃな済まないですよ!」
「僕の心配をしてくれるのかい? 友莉菜ちゃんは優しいね。けど……これでも優等生を演じてるものでね。こんな男と優等生の僕の言葉……学校はどっちを信じるかな? はははっ!」
嫌らしく笑いながら、来栖は俺の頭を踏みつける。
随分とふざけた事を言ってくれるじゃねえか。けど、こいつのいう通り、信頼というものは相手の真の思惑を見ようとせず、この人は良い人と決めつけてしまうものだ。
とにかく、来栖が油断している間に、この状況をどう打開するべきかを考えよう。
来栖の言葉を聞いている限りでは、何人もいる彼女の中に六道を加えたい。そしてこっちの勝利条件は、六道に二度と近づかないようにさせる事だ。
「おいおい、急に元気がなくなってきたけどどうしたんだ? 彼女を助けるヒーローにならなくていいのかい? ハハハハ!」
「早乙女くん! わたしは大丈夫だから……早く逃げて!」
俺を踏みつける足に更に力を入れたのか、頭に広がる痛みと圧力が一層強くなる。
――確かに六道の言う通り、さっさと逃げた方が良いだろうな。
実は勇者の時にも似たような状況になった事はある。
野党に一般人を人質にとられたせいで、俺は何も出来ずにボコボコにされた。
なんとか助けたってのに「勇者のくせにボコボコにされて」とか、「勇者なんだからもっと早く助けろ」とか……まあメタクソに言われたもんだ。
――本当に、人間は醜い奴らばかりだ。
そのはずなのに……六道は一切助けを求めずに、俺の心配だけをしている。しかもそんな辛そうな声で言われたら、いくら俺でも放っておくなんて出来るわけがない。
とにかく今は六道を助けるために頭をフル回転させろ、俺。
こっちの勝利条件はさっきのでいい。逆に来栖がされたら嫌な事とはなんだ?
こいつは優等生を《《演じて》》いると言っていた。
なら……こいつの恐れることは、優等生というレッテルが壊れ、沢山の女子と関係を持っているのを知られる事じゃないか?
別にそれを本当にやる必要はない。来栖に不味いと思わせて、隙を作ればいい。
「ああ、言い忘れてた。さっきの六道とのやり取り、スマホで録画してるからな……こんなのをみんなが見たら……優等生がたくさんの女子と内緒で付き合ってるゲス野郎ってばれちまうかもな……」
「なっ……ふざけるなお前! 盗撮だろそれ!」
想像以上に食いついてきたな。これならうまくいくかもしれない。
「人聞き悪いな。俺は六道に頼まれて、告白のシーンを撮っておいただけだ。もし失恋した際に、次の恋に活かせるようにな。けど、撮れたのは、六道が必死に頑張って考えて……練習もして……たくさんの想いを伝えたのに、そんな六道に酷い事をしたクソ野郎だった。今後、六道に手を出さないっていうなら……ばらまかない」
「早乙女くん……」
実際にはそんな事していないっていうのに……我ながらあまりにも苦しい言い訳だ。
「も、もー早乙女くんってば! 確かに冗談で言ったけど……あとで見ても恥ずかしいだけだよー! 変な事しないでよね!」
六道が俺の意図を察してくれたのか、プリプリと俺に怒って見せる。
これで信憑性が増したのか、来栖は忌々しそうに舌打ちをしながら唸っていた。
「おらぁ!」
「うわっ!?」
来栖が狼狽した隙を突いた俺は、強引に立ち上がって来栖の胸元に目掛けて体当たりをする。
その衝撃で来栖は六道を掴んでいた腕を離し、俺と一緒に地面に倒れこんだ。
「真央! こいつはインキュバスだ! 危険だから六道と九条さんを連れて逃げろ!」
「い、インキュバスだと!? わ、我に任せるのだ!」
「真央ちゃん! 美月ちゃん! 早乙女くんを助けないと!」
「案ずるな! 蒼はインキュバスなんかにボコボコにされるほど弱くはない!」
俺の呼びかけに応えて物陰から飛び出した真央は、俺のことを心配してくれる六道の手を掴むと、九条さんと共にその場を後にした。
咄嗟に俺の声に応えて行動が出来る辺り、流石は幼馴染と言ったところか。嬉しくないが。
「くっ……友莉菜ちゃん! てめえ……泣いて謝っても許さねえ!」
「かはっ……」
六道は逃がしたし、脅しもかけることが出来た。後はこのインキュバスをどうするかなんだが……。
そう思った矢先、先に立った来栖に再度顔面を殴られた俺は、地面に仰向けに倒されてしまった。
「はっ……雑魚の分際で、僕の邪魔をするなんて、おこがましいのさ」
「うるせーんだよ、たかがインキュバスの分際で」
「さ、さっきもそう叫んでたけど、何を言っているんだい?」
「とぼけても無駄だ」
口から流れる血を拭いながら立ち上がる俺を、来栖は忌々しそうな目でジッと見つめてくる。凄く嫌な目で、凄くカッコイイ――はっ、気をしっかり持つんだ俺。
「そうか……その微かに感じる嫌な光の気配。お前、勇者か?」
「……そうだ」
「はっ! まさか僕以外に転生者が……しかも勇者とはね!」
やっぱりこいつも転生者だったか。こいつの言う感じだと、みんなも転生者だってのは気づいてないみたいだ。
けど、真央以外に転生が出来る魔王軍の者がいるとは思ってなかった。
「お前の言う通り、僕は元インキュバスだ。僕を見たり、僕と話をした女子は、何故か僕に惚れちゃう事が非常に多くてね。男どもも僕の事をイケメンともてはやす……困ったものだよ」
「なるほど、それで六道と九条さんがお前に惚れたって事か……」
来栖は肩をすくめながら、嫌らしく笑っている。
ただのイケメンの嫌味にも聞こえるが、実際この目で九条さんがおかしくなるのは見てるからな……。
「ご名答。僕の魅力があれば、十分にこの世界で天下を取れる。僕は好みの女の子達でハーレムを作りながら、馬鹿な人間達を支配下に置くために、まずこの学校を牛耳るのさ!」
随分と規模のでかいことを言ってるな……けど、絶対無理とは言えないのが恐ろしい。
「僕の秘密を知った者には、相応の罰を与えないとね。手始めに勇者に倒された同胞の仕返しをしてから、僕の従順な僕にしてあげようか」
「ぐっ!」
俺の懐に潜り込んできた来栖は、俺の顔面に目掛けて拳を振るう。それを先読みしていた俺は腕をクロスさせてガードしたが、衝撃を吸収しきれずに尻餅をついた。
「ふふっ、弱者をいたぶるのも、また一興かな」
「……そんな簡単に勝ちを確信してしまうのが、いかにも三流だな。これでもくらえ!」
「うわっ!? 目、目が……!?」
俺は足元にあった砂を大量に掴むと、来栖に思い切り投げつける。咄嗟の反撃だったけど、結構うまくいったな。
来栖が怯んだ隙に、俺は六道を怖がらせたのと、真央と九条さんをたぶらかした礼に、顔面に一発ぶちこんでから走りだした。
スポーツは得意ではないが、足の速さにはかなりの自信がある。この俊足で異世界を生き抜いたと言っても過言じゃない。
「はあ……はあ……何とか振り切ったか」
俺はしばらく走った後、周りを確認するが、辺りに来栖の姿はなかった。
六道の告白の手伝いをするだけの依頼だったのに、随分と大事になってしまった。
六道にはショックな結末に終わってしまった。そう思うと、六道への申し訳なさと、来栖に対しての怒りが込み上げてきた。
「くそっ……そうだ、真央にみんな無事か聞かないと……ん? もう連絡来てる……」
スマホを取り出して真央に連絡を取ろうとすると、既に真央から連絡が来ていた。
「もしもし、真央か?」
『蒼! 無事か!?』
「うるさっ!?」
……耳が……キーンってする……どんだけ声張ってるんだよ真央の奴。思わず耳からスマホを遠ざけてしまった。
「だ、大丈夫だって……ていうか真央……声でけーよ」
『心配してかけおって! 声くらい大きくなるわ!』
心配かけたのは悪いと思っているけど、その代償に鼓膜を犠牲にされるところだったのか。マジで勘弁してくれ。
「とりあえず俺は大丈夫だ。そっちは大丈夫か?」
『うむ。友莉菜の事は美月に任せて帰らせた。我は今2-Aにいる』
「わかった。とりあえずそっちに行く」
俺はスマホの通話終了ボタンを押すと、痛みを我慢しながら俺達の教室である2-Aへと入る。
そこには、自分の席に静かに座る真央の姿があった。
「なにしょんぼりしてんだよ。似合わねえからやめとけっての」
「っ!? 蒼!」
俺の声に反応した真央は、勢いよく俺の方へと顔を向けると、安堵したように表情を和らげていた。
そこまでは良かったんだが……何故か、真央は俺の元へと走ってくると、俺の頬に目掛けて右手をフルスイングした。
え、え? 何この状況……俺はどうしてビンタされたんだ?
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回の更新は明日の夜の予定です。
少しでも面白い!と思っていただけましたら、評価、ブクマ、感想よろしくお願いします。
評価はこのページの下側にある【★★★★★】から出来ますのでよろしくお願いします。




