第11話 来栖天馬という男
同日の放課後——俺は真央と九条さんを引き連れて体育館裏にやってきていた。
物陰に隠れてる俺達の視線の先には、落ち着かない様子の六道が立っている。
「沢山練習したし……きっと大丈夫だ……」
俺の隣にいる真央は、六道と同じくらい緊張している。
当事者じゃないお前がなんでそんなに緊張してんだよと言いたい所だけど、俺も二重の意味で緊張している。
緊張の理由。それは告白の是非と、相手の来栖についてだ。
何事も無ければいいんだが。自慢じゃないが、こういう嫌な予感はかなり当たるんだ。
「きっと大丈夫ですよ」
「う~……そうなのだが~……友莉菜には成功してほしいから……」
九条さんの言う通りだ。
ラブレターの内容は見てないけど、読んだ九条さん曰く、とても素晴らしいとのことだ。
そして肝心の告白だが……練習に付き合ったからわかる。
はっきり言って、六道の言葉は陳腐なものだった。でも、好きという気持ちを伝えたいというのがよくわかるものだった。
俺に対してじゃないのに、何故か嬉しくなってしまったくらいだ。
「……来たか」
六道の元にいかにも好青年と言うのがぴったりな、黒髪の男がやってきた。爽やかなイケメンで、モテるというのにも納得ができる。
見た目は女癖が悪いようには見えないな。
いや、見た目で判断をしてはいけない。現に俺の両隣には、美少女だけどワガママな元魔王と、美人で大人しそうだけど毒舌家の元ネコ娘がいるくらいだ。なんなら六道も元イヌっ娘だしな。
ちなみにだが、俺達のいる場所は、六道と来栖が話しているのを横から眺められるポジションだ。
「ほう、奴が来栖か……」
「そうですね……カッコいいですね」
おいおい、九条さんは何を言ってるんだ? って、俺も来栖が凄いカッコよく見えてきた……でも、それ以上にあいつからイヤな気配を感じる。
「お待たせ。えーっと、君が六道友莉菜さん?」
「ひゃい! えっと……えっと……今日は来てくれてありがとうございましゅ!」
――盛大に噛んだ。
恥ずかしさからか、六道は真っ赤になって涙目になってしまっている。
何してるんだか……散々俺を相手に練習しただろうに。
「あはは、落ち着いて。僕は逃げたりしないからさ」
「はうう……ありがとうございます……」
来栖は爽やかな笑顔を浮かべながら、六道に優しく語りかける。
なんだ、随分と気の利く奴じゃないか……これなら大丈夫。普通ならそう思うだろう。
だが、俺にとっては二階堂の言葉の信憑性が増す結果になった。
何故って? ああいうニコニコしている奴こそ、心の中では何を考えているかわからないものだ。根拠は俺の三度の人生経験だ。
「えっと、その……手紙、見てくれましたか……?」
「ああ、もちろん」
「あ、ありがとうございます! 部活動をしているのをたまたま見て……えっと……ずっと憧れていたんです。来栖先輩……お友達からでも良いので、わたしとお付き合いしてください!」
無事に己の内に秘める気持ちを伝えた六道は、勢いよく頭を下げて見せる。
ここからでは、頭を下げている六道の顔は見えにくいが、きっと真っ赤になっている事だろう。
「よくぞ言った友莉菜!」
「友莉菜……私も彼に告白したい……」
……さっきから九条さんは何を言っているんだ? さっきまで六道の味方だったのに、急に失敗すれば良いと思い始めている。
おかしい、どうなっているんだ。
「君の気持ちは嬉しい。けど……君の気持ちには応えられない」
「……そ、そうですか……」
来栖はやや申し訳なさそうに視線を逸らしながら言う。その言葉にショックを受けたのか、六道は悲しそうに俯いてしまっていた。
六道が落胆する中、来栖は何故か顎に手を当てながら、六道の頭のてっぺんからつま先まで品定めをするようにジロジロと見始めていた。
「せ、先輩……? あの……」
「…………よく見ると君、可愛いね。僕の彼女にしてもいいかな」
……は? あいつは何を言っているんだ?
「え……? で、でも……先輩、今……断って……」
「そうだね。でも僕は君の可愛さと健気さが気に入った。合格だよ。ふふっ……《《彼女達》》にはバレなければいい。それだけさ」
ニコニコしながら言う来栖の意味のわからない言葉に、俺はあんぐりと口を開けてしまった。
彼女達? あの言い方だと、来栖には付き合ってる彼女が、しかもそれが複数人いるって事だよな?
「先輩、今……彼女達って……」
「おっと、つい口が滑ってしまった。まあ君が知らなくても良いことさ。君は僕の事が好きなんだろう? なら付き合おうよ。君のような可愛いくてスタイルの良い女の子なら大歓迎だよ」
ここからでもわかるくらい、来栖は満面の笑顔で六道の頬を撫でるように触る。
その瞬間、来栖から凄く嫌な気配を感じた。人の中に土足で入ってくるような……凄く嫌な気配だ。
六道もそれに気づいたのか、勢いよく来栖の手を払い除けた。
「い、いや……触らないで!」
「……へえ? 拒絶出来るなんて凄いね。ふふっ……ますます君が欲しくなってきたよ」
「ひっ……こ、来ないで!」
来栖の豹変に怯える六道は、来栖から逃げようと背を向ける。だが、六道は腕を思い切り掴まれ、強制的に来栖の方へと向き直されてしまった。
「怯える顔も可愛いね……」
「は、離して!」
「友莉菜!? あ、あれはまずいのではないか!?」
「私も……混ざりたい……」
「九条さん! さっきから何を言ってるんだ!」
俺は虚な目をしている九条さんの肩を掴んで体を揺すると、ハッとしたように目を大きく開けた。
「あ、あれ……私……なにを言って……?」
「大丈夫か? しっかりするんだ」
「ご、ごめんなさい。何故か彼が不思議とカッコよく見えて……!? あの男、友莉菜に何をしようとしてるんですか……!」
「もう我は我慢できん! ボッコボコにしてやるのだ!」
嫌がる六道に言い寄っている来栖に怒りをぶつける二人は、整った顔を歪めて飛び出そうとする。
「……お前らはここで待ってろ」
「早乙女君?」
「いいから。俺が合図を出すまで絶対に来るな。危ないと思ったらすぐに逃げろ」
「そ、蒼!?」
二人に有無も言わせずに言い切った俺は、勢いよく物陰から飛び出した。
「……ん? なにか用かな?」
来栖は六道に向けていたのと変わらない、人当たりの良さそうな笑顔を俺に向ける。
はたから見れば、良い笑顔なのかもしれない……だが、俺にはそれが悪魔の微笑みにしか見えなかった。
「……そいつ嫌がってんだろ。離せ」
「さ、早乙女くん……!」
「君の知り合い? なんか知らないけど、凄い嫌な雰囲気の男だね……えーっと、早乙女君? 悪いけど僕は忙しいんだ。邪魔をしないでもらえるかい」
ニコニコしていた顔から一転、来栖は驚くほど冷たい目で俺の事を睨みつける。
こんな明らかに面倒に状況になりそうな事、普通に考えて俺がどうにかする必要はないだろう。はっきり言って面倒だな事になる気しかしない。
けど、こいつは俺が放って置いたらまずい事になる。理由? 元勇者の俺にしか、こいつの正体に気づけないからだ。
来栖を見た時に感じた嫌な気配、俺には覚えがある。そして、六道の味方だった九条さんを魅了したという事実。
おそらく、いや間違いない。
こいつは転生者——しかも人間側じゃない。真央と同じ魔物側だ――
ここまで読んでいただきありがとうございました。
次の更新は12月4日の夜に投稿予定です。
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