第10話 蒼が気になった理由
生徒会との約束の期限まで、今日を入れてあと六日と迫ってきた木曜日の昼休み。
俺、六道、九条さんの三人は、真央に告白前の最後の練習をしようという事で、校舎裏に招集をかけられていた。
真央と九条さんは弁当があるため、先に校舎裏に向かっている。俺と六道は弁当がないため、一緒に購買に向かって歩いているところだ。
「六道はいつも購買なのか?」
「いつもはお弁当なんだけど、昨日は緊張で寝れなくて……そのせいでお寝坊さんしちゃって、お弁当作れなかったんだ……」
そういいながら、六道はしょんぼり顔で俯いた。
実は六道、今日の放課後に告白すると決めていたようで、朝に来栖の下駄箱にラブレターを入れたと言っていた。そこに今日指定の場所に来て欲しいという旨も書いたそうだ。
ちなみに内容だが、昨日の夜に真央と九条さんに見てもらったと言っていた。
「う~……緊張するよぅ……」
告白の事を考えてしまっているのか、六道から笑顔が消えてしまっている。ちょっと話題を変えるとしよう。
「弁当、毎日自分で作ってるのか」
「あ、うんっ。わたしお料理するの大好きだから、毎朝作っても全然苦じゃないんだ~」
「そうなのか。凄いな、さすが元メイド」
「えっへん!」
自慢げに胸を張ってる六道の姿は、いつも同じ様な事をしている真央と比べると随分と受ける印象が違う。真央のは偉そうに見えるが、六道は一切そう見えない。不思議なもんだ。
その後もなるべく六道の気が紛れるように、雑談をしながら購買に向かってると、六道は急にニコニコ笑いだした。
「えへへ。勇者様ってわかったからかな? 前よりもずっと話しやすいし、すごく楽しいな〜」
「勇者は関係ないと思うけどな」
「絶対あるもん! 一年の時に早乙女くんと挨拶したり、少しだけ話した事があるけど、その時とは全然……あっ、そういう事だったんだ!」
急に大声を出したと思ったら、パンっと手を叩きながら目を見開く六道。一体何がそういう事なんだろうか。
「わたしね、ずっと不思議に思ってた事があるんだ」
「なんだ?」
「教室で一人の早乙女くんに、挨拶だけでもしなきゃって思ってた事が不思議だったの。それって、前世からの知り合いだったから、一人ぼっちの早乙女くんを放っておけなかったのかも!」
「ああ……それはあるかもしれないな」
六道の言う事はわからなくもない。俺も六道には、以前から他の連中より安心感を覚えていたし、九条さんには初対面から苦手意識を持っていたからな。
「同じ秘密を持ってるからなのか、前よりも早乙女くんが身近に感じるよ~」
「そうか。よかったな」
「うんっ!」
適当に返事をすると、六道は嬉しそうに笑顔で頷いた。
正直、俺としては一人でも別に構わないし、静かで平穏な生活を送れるなら一人で良いとすら思っている。けど、六道が俺をどう感じた所で、真央みたいに俺を引っ張り回すとは思えないし、まあいいだろう。
そんな話をしていると、購買にたどり着いた。売り場の前は、パンやおにぎりを求める生徒達で溢れかえっている。まさに戦場だ。
「あわわわ……いつも購買ってこんな感じなの……?」
「そうだな」
いつも弁当だって言ってたし、購買には来たことが無いのだろう――六道は目を丸くしながら震えていた。
購買初心者なうえ、女子にここに突っ込めと言うのは流石に酷すぎるな。それに、なんでそんな所に行かせたんだって、真央や九条さんに怒られるのは面倒だ。
しかたない、俺だけで行って六道の分も買ってくるか。
「六道、何が食いたい?」
「え?」
「いいから」
「えっと……甘いパンがほしい、かな」
「わかった」
それだけ聞くと、俺は戦場と化した購買へと足を踏み入れる。
ここではルールなんてものはない……買えたものが勝者だ。それがわかっている俺は、生徒達は押し退けるようにして売り場へと向かっていく。
他人の事など一切気にしない俺は、この購買は相性が良い。だからなのか、いつも簡単に商品が並ぶ棚へとたどり着ける。
さて何があるか……結構まだ残ってるな。六道と話しながら来たっていうのに、運がいい。
六道は甘いパンが欲しいって言ってたな。結構そういう類のパンは多いんだが……適当に見繕って、余ったのを俺が食えばいいか。
「おばちゃん、これ」
「はいよ~」
甘いパンをいくつか手に取った俺は、購買のおばちゃんに金を渡してから戦場を抜け出した。それを見ていたのか、直ぐに六道が駆け寄ってきた。
「早乙女くん、大丈夫!?」
「問題ない。甘いパン、いくつかあったから適当に買ってきたぞ」
「うわ~すごい! さすが元勇者様、カッコイイ~!」
「勇者言うな。そもそも今日来栖に告白するのに、違う男にカッコイイはどうなんだ?」
「あ、あれ? 言われてみれば確かにそうだね……もう、わたしってば……えへへ」
照れ隠しをするように、頬を赤らめながら小さく笑う六道は、何かに気づいたように、俺の顔とパンを交互に見つめていた。
「 ……あれ、早乙女くんのは?」
「俺か? 俺は余ったのを食う」
「だ、ダメだよ! これは早乙女くんが買ってきたんだから、早乙女くんが先に選んで!」
別に俺は何でも構わないんだけどな……でもここで言い争っていても仕方がない。昼休みの時間は有限だからな。
そう思った俺は、適当にアンパンとうぐいすパンを一つずつ取った。
「え、それだけでいいの?」
「小食なもんでな」
もちろんこれだけでは足りる訳がない。けど六道を納得させるためにはこうするのが手っ取り早いだろう。
「う〜……ならジャムパンとフレンチトーストをもらうね。残ったパンは半分こしよっ!」
「そうだな」
「じゎあ戻ろっか~……あっ! お金渡してなかった!」
「別にいらねえよ」
「そういう訳にはいかないもん!」
「わかったわかった。じゃあ六道の選んだその二つの分……二百円くれ」
俺としては金をもらう気なんか無かったんだが、六道に押し負けた俺は、六道から二百円を受け取った後、二人で真央達が待つ校舎裏へと向かっていった。
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「わ、わたしとお付き合いしてください!」
「うむ、だいぶスムーズに言えるようになってきたのう!」
「やったー! みんながたくさん練習に付き合ってくれたおかげだね!」
校舎裏に集合した俺達は、昼食を済ませてから最後の告白の練習を行っていた。今は真央が相手役をして、アドバイスをしている。
俺は二人が練習している光景を、少し離れた所で九条さんと一緒にのんびりと見つめていた。
「早乙女君、さっき友莉菜と一緒に購買に行ったんですよね」
「そうだな」
「……友莉菜に変な事をしてないでしょうね?」
「するわけねえだろ」
突然話しかけてきたと思ったら何を言い出すんだこの元ネコ娘は。俺が後で面倒くさくなるような事をする訳が無いだろう。
「男はみんなオオカミですから信用できません。でも、早乙女君は元勇者様ですし、変な事をする訳ないですよね」
「まあそういう事だな」
元勇者イコール変な事をしないという方程式がよくわからないが、変に蒸し返して面倒な事になるのは嫌だし、ここは黙っておくに限るな。
「そんな元勇者様に質問があるんですけど」
「さっきから勇者様言うな。んで、質問って?」
「なんでそんなに暗くなったんですか? 昔はもっとハキハキとしてましたし、明るい性格でしたよね?」
九条さんがそんな事を俺に聞いてくるなんて意外だ。正直俺を警戒しているような事を言ってたのに。
昔の俺を知ってる九条さんなら、疑問に思うのは無理もないか――理由を別に話しちゃいけない事という訳ではないが、話しても面白い話でもないし、同情されるのもなんか嫌だな。
「九条さんと別れてから結構な年月が経ってるだろ。性格くらい変わるさ」
「そうですけど……早乙女君が話したくないならいいです。でも、あんまり抱え込んでも良いことは無いですよ。それだけは覚えておいてください」
「…………ああ」
そう言うと、九条さんは真央達の元へと向かって去っていった。俺みたいに冷めた性格に見えるけど、なんだかんだで九条さんも優しい所があるんだな。
だからこそ、俺の話をする必要はない。仲間に裏切られて、殺されて人間が嫌いになったなんて言われても、どう反応すればいいかわからないだろうし。
いつかはこんな話を誰かにする日が来るのだろうか。ぼんやりとそんな事を思いながらながら、俺は昼休みが終わるまで、六道の告白の練習を眺めていた――
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