第1話 幼馴染は魔王系
――幼馴染。
このときめきワードを聞いて、みんなはどんな幼馴染を想像するだろうか?
毎朝優しく起こしに来て、朝ごはんを作ってくれる優しい系?
いつもツンツンしてるけど、たまに凄い破壊力のデレを発揮するツンデレ系?
人によって、幼馴染と聞いて連想する幼馴染像は様々だろう。
幼馴染は隣の家に住んでいて。もちろん朝は一緒に登校して。
昼は幼馴染が作ったちょっと不格好なお弁当を食べて。帰りは校門の前で待ち合わせ。
夜はラインとかして楽しく話をして。こっそり夜の公園でデートをしたりとか。
いずれは幼馴染と恋に落ち、紆余曲折あった後に結ばれてハッピーエンド!
他にも、最近は幼馴染が敗北ヒロインだったり、ざまぁされたり。幼馴染と一口に言っても、性格や役割は様々だ。
俺、早乙女蒼にも幼馴染というものはいた。
家のお隣さんに俺と同じ日に生まれたんだが、はっきり言って、最低最悪な女だった。
その幼馴染は、ワガママが服を着て歩いているような存在だった。幼い俺は嫌になるほど引っ張り回された。
行きたくもない所に連れまわされ、やりたくもない事をやらされた。
逃げればいいじゃないかと言われるかもしれない。けど、深い事情のせいで、俺には断る選択肢が選べなかったんだ。
小学校の入学の頃に、幼馴染は家の都合で引っ越していったが、今思い出しても本当に苦労の毎日だった。
一言でいえば、まさに魔王というのがしっくりくるような幼馴染。それが俺の中の幼馴染像だ。
「早乙女殿、始業式の日からなにボーっとしてるでござる! 拙者の話を聞いていましたかな?」
俺は窓際の席に座りながら、外の景色を眺めていると、クラスメイトであり、俺の唯一の友人と呼べる男——二階堂将平が声をかけてきた。
「はいはい聞いてるよ。面倒な始業式が終わったからか、急に眠くなってきたなーって思ってな……んで、なんだって?」
「聞いてないではござらんか! 昨日も夜更かししてたのですな? 今日から二年生になったというのに、気が緩み過ぎですぞ!」
今日からだるい学校生活が再開されるというのに、なんでこいつはテンションが高いのだろう?
「だが……気持ちはわかる。拙者も昨日、幼馴染ルートに入り……攻略してたら朝になっていましてな! ギャルゲーにはそれほどの魅力があるのでござる……ギャルゲー最高! 幼馴染最高! デュフフフ……」
幼馴染、ねぇ。こいつに幼馴染の現実をわからせてやりたい。
あと、太った体をくねくねとさせ、ニヤニヤとしながら言わないでくれ。めちゃくちゃ気持ちが悪い。
まあギャルゲーが面白いという事に関しては否定はしない。格ゲーを主にやるけど、多少ギャルゲーもやるし。
ゲームやってると夜更かししてしまうのも事実だ。これもオタクの性なのかもしれない。
「休みの日にするのはいいけど、次の日が平日なのにそれやったらアウトだろ」
「案ずるな! 既に何度もやらかしてますぞ!」
「お前の分のノートを取る俺の身にもなれ」
「ふふ……拙者は神に迫害された堕天使ルシファーの生まれ変わり! 何をしても許される!」
許されねーよバカ、なんだその俺ルール。そんなふざけた事をしてるから迫害されてんじゃねーの堕天使さんよ?
ったく……俺ばかり貧乏くじ引くのは割に合わん。今度昼飯でも奢ってもらわんとな。
「席につけ―。ホームルームはじめんぞー」
無精髭の生えたやる気の無さそうな中年の教師が教室に入ってくると、生徒達は席についた。
「あー、始業式ごくろうさん。今日は適当にホームルームをして終わるぞ」
だるいからさっさと終わってくれ。俺は帰りにゲーセンに寄って格ゲーをしたいんだ。
今日は俺の好きなゲームが、ワンプレイ五十円で出来る日だ。早く行かないと、混んでプレイ出来る回数が減ってしまう。
「初日に驚くだろうが……お前らに転校生を紹介する」
転校生か。どうでもいいから早く終わらせろ……転校生? マジか、そんなのがうちに来るなんて話、全く聞いてないぞ。
「入って来い」
教師の声に応えるように、横開きのドアが勢いよく開く――すると、一人の美少女が、堂々とした振る舞いで入ってきた。
腰まで伸びる黒髪をストレートに降ろしていて、目鼻立ちがはっきりした美少女だ。
身長は小柄な部類だが、出るところは出て引っ込む所は引っ込むという理想的な体型だ。
うん、めっちゃ人気が出そうな見た目の女子だな。
少なからずギャルゲーをやるからか、多少目は肥えている方だが、この女子は俺の肥えた目が花丸を上げるレベルの美少女だ。
あと、なんかどっかで見たことがある気がするけど、気のせいだろう。
こんなかわいい女子を仲良くなって充実した学校生活……なんてのは、陽キャの特権か。俺には関係ねえ。
「ほれ、自己紹介しろ」
「うむ! よっと……」
転校生の少女は、なんと教壇の上に座ると、やたらと偉そうに手と足を組んだ。
こいつは一体何をしているんだ? 自己紹介で教壇に座るとか前代未聞すぎる。
「我は黒野真央だ! よろしく頼むぞ!!」
黒野真央と名乗ったその少女は、変わらず堂々とした態度のまま、特徴的な口調で自己紹介をする。
――黒野真央。
彼女の名前を聞いた瞬間、俺の脳裏には幼い頃の嫌な記憶が蘇った――散々苦労をかけられた、あの幼馴染との思い出が。
「何してるんだお前。さっさと降りろ」
「わ、我の素晴らしい挨拶を邪魔するでない!」
「まさか……うそだろ……!?」
教師に無理やり降ろされる転校生を見ながら、俺は勢いよく立ち上がってしまった。
喜びからではない……驚きと、そうでなければ良いという願望も含まれていた。
当然と言えば当然だが、周りの視線を浴びてしまう。しかし、今の俺にはそんな事はどうでもいい事だった。
「なんだ早乙女。知り合いか」
「早乙女……おお、蒼! 久しぶりだの!!」
俺の頭痛の種だった幼馴染と思われる転校生は、ヒマワリのような満面の笑みを浮かべながら、俺の名を呼ぶ。
そしてこの再会が、静かで平穏な俺の高校生活を一転させるものになるのだった――
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