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ご奉仕させていただけませんか?

 翌日。

 ミクという名のあの美少女は、今日来てくれるようなことを言い残して去って行ったが、よく考えると、具体的に何時に来るとは言っていなかった。


 それに、きちんと名前を聞いたわけではない。

 あの迷子の女の子と同じ、というつぶやきを聞いただけだ。


 それでもつい期待してしまい、早朝からシャワーを浴びて髭を剃り、髪を整えた。

 そわそわしながら待っていると、午前九時過ぎに、インターホンが鳴った。

 はやる心を抑えて出て行ってみると、果たして、あの少女が、笑顔で立っていた。


 胸ポケのついた白いオーバーサイズの半袖ゆるゆるTシャツに、紺色の花柄プリーツスカートというコーディネートで、昨日よりもずっとおしゃれな雰囲気だ。


 背中まで伸びる綺麗な黒髪、ぱっちりとした大きな瞳、小さくまとまった鼻と口。

 それに、相当な小顔……俺の半分ぐらい、というとちょっと言い過ぎか。


 身長は155センチぐらいだろうか。

 俺は170センチなので、彼女はかなり小柄に見えてしまうが、それがかえってかわいらしさを増していた。


 ……っていうか、昨日よりもさらに可愛く……テレビでよく見かけるアイドルがかすむぐらいの、本当に超絶美少女だ。


 肩にかけているのは、グレーでちょっと大きめのショルダーバッグだ。

 一応、周囲を見渡したが、誰もいない。

 どうやら、彼女だけで来たようだ。


「あの、昨日は本当にありがとうございました。私一人だとどうしていいか分からなくて……」


 丁寧にお礼を言って、頭を下げてくる。


「いや、こっちこそ、実は何にもしていないんだけどね……」


「いえ、居てくれるだけで助かりました。それで……こちら、ちょっとしたお礼で……つまらないものですけど……」


 そう言って、綺麗に包装された、四角く長細いお菓子のようなものを手渡してくれた……大きさから想像するに、カステラかなにかだろうか。


「いや、そんなに気を遣わなくてもいいのに……」


 なんかこっちが恐縮してしまう……それに、最近の女子高生は、こんなにも丁寧な挨拶ができるのだろうか。俺よりずっと礼儀正しいではないか。


 その手土産を受け取ると、鞄からもう一つ、「何か」を取り出し始めた。

 一旦、贈り物を玄関棚の上に置き、次の「何か」に備えていると……それは俺が書いたラノベ、「修行中の五天女」の書籍だった。


「あの……できればサイン、頂いてよろしいでしょうか……」


 ……サイン!?


 これには、俺の方が驚いてしまった。

 今までサインを書いたことは、あるにはあるが、会社でラノベが出版されたことを話したときに、親しい同僚や先輩に、からかい半分に書かされたことがあるだけだ。

 まさか、ほぼ初対面の女子高生からねだられるとは思ってもいなかった。


「あ、ああ……もちろん構わないよ。えっと、ペン持ってくるから……」


「あ、私、持っていますよ!」


 そう言って、鞄からサインペンを取り出した……準備万端だ。

 最後の方の余白ページに、実はちょっと練習していたサインと、日付を書いた。


「えっと……君の名前、入れた方がいいかな……」


「あ、はい、できればそうしていただければ……そういえば、私、まだ名前言っていなかったですね。失礼しました。私の名前は、『天川美玖あまかわみく』……天の川の天川に、美術の美、王偏に久しいで美玖、という字です」


「へえ、綺麗な名前だね……」


 緊張しながら、「天川美玖さんへ」と名前を入れると、凄く嬉しそうに受け取ってくれた。


「一応、こちらの本名も言っておくよ。土屋隼斗つちやはやとって言います……あ、ちょっと待ってて」


 俺はそう言って一度リビングに戻り、作家用の名刺を持ってきて彼女に渡した。


「……土屋さん、っておっしゃるんですね……えっと、小説家の先生、っていうことでいいんですよね?」


「いや、小説じゃあ生活できるほど稼げてないよ。ちゃんと会社にも務めているんだ」


「へえ、そうなんですか。県内の会社ですか?」


「ああ、富士亜システムだよ」


「えっ……富士亜システム!? ……すごいですね! 私の知り合いも富士亜システムに務めていますよ!」


 彼女は、予想以上に目を丸くして驚いた。

 富士亜システムはIT関連および半導体の総合メーカーで、社員は約九千人と、地元では大きな企業だ。


「そんな大企業に勤めながら小説も書いているなんて、やっぱりすごいです……あの、それで……もう一つ、お願いがあるんですが……」


 彼女は、顔を赤らめながら、それでいて真剣な表情でこちらを見つめてきた。

 その様子に、ドクン、と鼓動を高めながらも、さっきのサイン程度の、たいしたお願いじゃないだろうと高をくくっていたのだが……。


「……あなたは、私にとっては、ずっと捜していた神様です……ようやく出会えました……なので、その……定期的にご奉仕、させていただけませんか?」


 ……。

 …………。

 ……………………。


 この子は、一体、何を言っているのだろう……。

 俺はひどく混乱した――。

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