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何をしでかすかわからない

 翌日、月曜日。

 昼休み、社内弁当を食べて、机に突っ伏して寝ていると、


「やっほー、ツッチー。起きてる?」


 という女性の声に起こされた。


「……なんだ、みるるか」


「ごめんね、美玖じゃなくて」


 俺が驚きと動揺を隠すために皮肉を言ったのに、美瑠はさらりと受け流した。


「……で、何の用?」


「状況確認。あのあと、美玖からレイン連絡、来た?」


「ああ、一応。挨拶程度だけど」


「なんて書いてたの?」


「『今日はいろいろ教えていただいてありがとうございました、来週もよろしくお願いします』みたいな感じだったかな」


「……なんか、つまんないね……」


 美瑠は不服そうだ。


「……何であの子は、俺なんかのところに来るんだろうか」


「えっ……だって、割のいい、楽しそうなアルバイトでしょう?」


「それはそうだけど……普通、ずっと年上の、出会ったばかりの男が一人で住んでいるアパートに押しかけてくるかな……」


「まあ、あの子はちょっと変わってるし……ツッチー、神様って思われているんでしょう?」


「本気かどうか分かんないけどな……例の小説の作者だったり、神主か誰かが言ったからって、そんなふうに思い込むものかな……」


 俺は少し首を捻った。


「まあ、美玖は本当にそう思っているんでしょうね。そういうオーラみたいなものがあるし」


「……オーラ? 俺に?」


 美瑠までそんなことを言い出したので、ちょっと驚いた。


「そう。なんていうか……『良くも悪くも、何をしでかすかわからない』っていうのは感じるね」


「それって褒められてるのかな……それに、それが……神?」


「常人には理解しがたいってとこかな。実際に小説出版までしているわけだし……自分では分からないかな? 身近な人だと、そんなオーラを放っている人が、あともう一人いるけど……」


「もう一人? 一体誰?」


「美玖よ……ツッチーから見たら、美玖って普通に思える?」


 それを聞いて、なんか分かったような気がした。


「……なるほどな。『良くも悪くも、何をしでかすかわからない』、そして絵画もピアノもかなりの実績を残している……正直、俺もあの子が天女の生まれ変わりって言われたら、信じるかもしれない」


 いや……本当は、そう確信してしまっているのだが。


「やっぱり、そうよね……つまり、似たもの同士ってことね」


「……じゃあ、俺って、周囲から美玖みたいに思われているのか……」


「美玖以上に……だけどね。あとは……そうね、本性はどうか分からないけど、いい点は誠実そうに見えるところかな。いい人ってこと」


「言葉にトゲがあるなあ。本性も誠実なつもりでいるよ……ちなみに、悪いところは?」

「……いい人ってところかな」


 美瑠の妙な言葉に、意味が分からなくなる。


「いい人すぎるの。……ツッチーがもし、今より強欲で……」


 と、美瑠は何か言いたげだったが、浜本先輩と同僚の河口がチラチラとこちらを見ているのに気がついて、


「じゃ、またこの週末、よろしくね!」


 とだけ言い残して、自分のフロアへと帰っていた。


「……土屋、どういうこと? 楽しそうに何を話してたんだ?」


「ちょっとツッチー、やっぱりみるるとそういう仲だったのか? 詳しく!」


 男性社員二人の追求にちょっと慌てながらも、それを嬉しく思う自分がいた。

 そして、俺が美玖と同じように、他人からは「良くも悪くも、何をしでかすかわからない」存在と思われているということに、奇妙な感覚を覚えた。

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