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困惑

「……まあ、付き合いながらも、いつか別れるだろうな、とはずっと思ってたんだけどね……詳しくは話せないけど、前に一度大げんかしたときから……ううん、その前からお互いに気持ちは離れてたんだと思う。逆に最近までよく続いたなって考えてるよ」


 大したことではない、というように笑顔で語るが、やはり少し寂しさが感じられた。


「そうか……美瑠にとって、他に好きな人ができた、とかじゃないんだな?」


「うん、そういうんじゃない……かな……まあ、寂しくはあるから、彼氏絶賛募集中ってとこかな。ツッチー、申し込んでみる?」


 相変わらず軽いノリで冗談っぽくそんなことを言ってくる。

 しかし、俺としては、自分の鼓動がどうしようもないぐらい高鳴っているのが分かった。

 少なくとも、一年前に、美瑠が


「もう彼氏と別れる!」


 と言って、俺のアパート……そう、この部屋に飛び込んできたときには、俺は彼女のことがどうしようもなく好きだったのだ。

 俺の真剣な眼差しを見て、美瑠も、表情を変えた。


「えっと……ツッチー、ひょっとして本気にしてる?」


「……してる」


「……」


 美瑠は困惑を隠さず、少し赤くなっていた。


「……その、彼氏募集中ってのは本当だけど……」


「……俺じゃダメってことか?」


「そういう訳じゃ……ないけど……」


 それ以上、言葉が続かない。

 俺は、美瑠のことを抱きしめたい衝動にかられて、一歩前に進み、彼女のすぐ目の前に立つ。

 それに対して、美瑠も逃げようとしない。

 そして俺がそっと手を伸ばした……そのときだった。

 ピロリン、とアラームのような音が聞こえて、二人とも慌てて飛び退いた。

 美瑠が、自分のスマホをチェックして、クスっと吹き出し、笑みを浮かべる。


「美玖からのレインだったよ。『姉さん、土屋さんのこと、盗っちゃダメだからね』だって」


「えっ!?」


 思わぬ内容に、俺は硬直した。


「あはは、うそうそ。本当は、『姉さんも土屋さんの手伝いに参加することになったって、お母さんに言ってもいいかな?』だって。そんなの、わざわざ許可とらなくてもいいのにね」


 ……なんだ、冗談か……ちょっと心臓に悪い。

 美瑠は、素早く返事を登録して送った。

 すぐに美玖から次のレインがきて、それに返事をして……を何回か繰り返すうちに、さっきのムードは霧散していた。


「……美玖、『来週も楽しみ』だって。本当にあの子の考えてること、よく分からないね」


「……まあ、やっぱり俺に恋愛感情は持ってないだろうな」


「どうかな……恋愛経験がない、っていう方が正しいのかもね」


 もう、完全にいつもの美瑠に戻っていた。


「……もう美玖、家に着きそうね……じゃあ、私もそろそろ帰ろうかな……このままここに居たら、私がツッチーの毒牙にかかっちゃうかもしれないから」


「い、いや、べつにそこまで考えてたわけじゃ……」


「本当? 顔が赤いよ……ま、美玖のことがなければそれもありだったかもしれないけどね……私としては、やっぱりあの子を泣かせたくないから……」


 そう言われると、トクン、と、鼓動が別の高鳴り方をするのが分かった。

 俺は、美玖のことも意識している……!?


「……いや、さっき言っただろう? 美玖は俺に恋愛感情を持っていないって」


「私もさっき言ったでしょう? 恋愛経験がないだけだって。すぐに、自分の気持ちに気づくと思うよ……ツッチーのこと、好きなんだって。だから……とりあえず、私は今日は帰るね。楽しかったよ!」


 美瑠は、それだけ言うと、本当にすぐに帰ってしまった。

 ただ、帰り際に、


「じゃあ、続きはまた明日ね!」


 と言われ、その意図が分からず、困惑した。

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