#03
男は女の家に二泊して、裏庭の草刈りをした。
夕方までに旅支度を済ませ、村長の家に出向いて納屋につないだ馬を引き取った。ついでに例の子供を連れていくことを報告すると、村長は支度金だといって金貨を一枚押し付けてきた。男は人身売買の売人にでもなったようで気が進まなかったが、少し考えて村としての詫びの証なのだろうと受け取ることにした。何にせよ、寒村から巻き上げるには十分な額だ。
馬を引いて向かってみると、森の狩小屋は記憶にあるよりもだいぶ荒れていた。今朝までの嵐で吹き飛ばなかったのが奇跡にも思える有様だ。こんな具合なら、身の上の分からない子供が住み着いたとしても村には何の痛手もないだろう。
だとしても、こんな場所を住処に何か月も暮らす元少年兵の生活能力の高さに男は改めて驚嘆した。確かに何かしらの訓練を積んだ兵士であるのだろう。子供ひとり、混乱が続く旧帝国からどうにかしてこの村に辿り着き、小屋を見つけ、獣を狩り、野草を集め、水を得て暮らす。村長にも確認したが、子供は村に入って盗みを働いたことはないという。保存の効く塩や多少の香辛料、煮炊き道具の一揃いが狩小屋に備えつけてあったとは言え、安易に犯罪に走らない姿勢には好感が持てた。
「さてさて…警戒心が強く、生活能力に長けた子供か。どう攻略したらいいもんかね」
旅に同行させるかどうかは別として、どうにか子供と接触して、これから先の身の振り方について話してみなければ、子供を男に託した女も納得しないだろう。
気配を探るが、小屋には誰もいないようだ。近くの木の幹に馬をつないで、男は独り言ちる。
「そうそうお前の目論見通りにコトが運ぶとも思えんが」