二つ名
ランタンラミーのトラップ階層を攻略してから3ヶ月が経過した。
俺は今、白眼と戦っている。
そして今日はシャシャシャ集落へと遊びに来た子供らを相手に講義を行っている。
「白眼ほど恐ろしい魔眼はないんだぞ」
バシッ!
「何おかしな事を教えてんのよ!」
「……白い……眼」
「そうよー、白い眼で見られてるだけよー、です」
(どうして、こうなった?)
ランタンラミーのトラップ階層を攻略した噂が広まり俺たちに二つ名が付いたのが原因だ。
『魔力海溝のピスタ』
スカルホーンハンマーを使う為の魔力量から付いた名だ。
海溝となったのはラパ民が海の民と呼ばれてるせいと魔力の底が知れないという意味からだろう。
『痺れ鞭の女王様ラッカ』
雷魔法の雷鞭ライトニングウィップとウロボロス王者の話が混ざり合って付いた名だ。
まあ、このラッカの二つ名に比べれば俺のなんて、まだ良いのかも知れない。
『上から目線のクコ』
クコの魔眼である俯眼から付いた名だが、意味が少し曲げられて伝わっている。
上から目線の為にリーダーから生意気だぞと折檻され包帯だらけで可哀想だと……
種族スキル風車の練習での打ち込みを見られたのと攻防一体式の武具のせいだ。
『抱かれペカン』
もちろんスモーク・ブリッジ・スパイダーを倒した時の俺との協同作業から付いた名だ。
ペカンだけは元々が悪い二つ名『射れずのペカン』だったのが良くなった。
そして俺は……
『女使いのアーモン』
みんなの魔眼の効力を金環で使った話が元だろうが……
そんな内容は伝わらず響きだけで猛烈に悪いイメージが広まってしまった。
そして現在、街へ出る度に白い眼で見られる状態と戦っているのだ。
「こら、ここへ行っちゃダメって言ったでしょ! 戻っておいで」
「しゃ、しゃ、しゃ」
シャシャシャ集落の入口で親達が子供を呼んでいる。
何とかイメージを回復をしたい俺は、にこやかな笑顔を向けるのだが……
「ひっ!」
逆に気味悪がられる始末だ。
受付の婆さんの笑いの方が気味悪いと思うんだが……
「ほらラッカの鞭で叩かれると思って親達が逃げちゃったじゃないか」
「止めてよ! 本当に怒るわよ」
冗談の通じない女王様だ。
では、なぜ子供達が集まって来るのか?
「ピシュタ~あれ、やって!」
「ピシュタ~、これ直りゅ?」
ピスタだ。
魔法民族、丘の民にとっては魔力量が大きいというのは尊敬に値するのだそうだ。
加えてピスタの人を惹きつける人柄、さらにはドワーフミックスとしての手先の器用さから子供達のオモチャを直したり作ってやったりと人気があるのだ。
おっと、もう一人二つ名が付いた男がいたんだった。
『熱い男イドリー』
最初は、その名だったのだが……
『ホットドッグイドリー』で定着してしまった。
ひじょうに気の毒だがビジネスチャンスと捉えて日本のホットドッグを売ろうと言ったのだが猛烈に拒否された。
オマモリ、オミクジの鯨宴パンを成功させて来た俺の企画力を信じて欲しいものだ! まったく。
もしマルテルが居れば勝手にパンを焼いて作っていただろうに……元気にしてるかな?
「よう女使い!」
「止めて下さい闇色の天秤のプトレマさん」
「わ、悪かったから、その名で呼ぶな」
プトレマさんとミュラーさん本人には俺達のような二つ名は付かなかったが……
『灰色の天秤』は、あの日以来『闇色の天秤』と呼ばれいる。
隠していた闇属性魔法が由来した二つ名だ。
幸いだったのは闇属性魔法の事は広まらず魔族並に強い的なイメージで広まった事だろう。
ただ目立たぬ様に灰色と付けたパーティ名が台無しである。
「あんたら今日は どうするのさ?」
「今日は休息日なんで明日から、また稼ぎますよ」
まだ蜂の巣ダンジョンは攻略されてないのか?
そうだ、1つの理由は、あの日スモークシルクに巻かれたヴァルトゼの回復は思ったよりも時間が掛かったからだ。
全身が低温火傷の様な状態だったのだ。
しばらくココンが付きっきりで看病していたので予想より回復は早かったのだが、その回復期間に事情が変わった。
「まだギルドと喧嘩してるんですか?」
「そりゃそうさ、春まで待てなんて臆病過ぎるさね」
プトレマとミュラーは御立腹だ。
中ボスであるはずのランタンラミーのトラップ階層主が最奥クラスだった事態を受けてハルティス冒険者ギルドは動いた。
現在の攻略速度では最奥到着が真冬になる事から万全を期し春までは各冒険者単位で、ゆっくり攻略していく。
そして最奥のボス部屋は実力のある冒険者で大編成を組み春到来とともに攻め込む事になった。
「草原の民の狩猟期を外したんでしたっけ?」
「ああ、混成パーティが多いからな」
草原の民を武器攻撃役として丘の民が魔法支援役の編成パーティが多いのだが……
冬は草原の民の主食である雪面鳥の狩猟期なので皆、地元へ帰ってしまうのだ。
彼らが春に戻ってからボス討伐する。
ギルドとすれば賢明な判断だろう。
「わたくし達は生活費が稼げれば良いので、むしろ助かってますが」
「よく言うな、まったく! お前さんらもボス部屋討伐に組まれてんだからな」
「わたくしは承認していません」
イドリーの心配性は健在である。
イドリーの心配性のカケラでもあれば良かったのが『赤き熱風』のバカ共だ。
奴らはヴァルトゼどころではないダメージを負っていた。
ペカンが攻撃主体だったため結果的に魔力が温存されていたのがラッキーだった。
回復魔法も上級クラスが必要だったので虫の息だった彼らが何とか落ち着く頃にはペカンも魔力切れを起こす程だった。
「本当に、ありがとうございました。それと今までの事も、お詫びします」
ギルド職員に連れられて来たのは2ヶ月が経過した時だった。
実にヴァルトゼの完全回復から1ヶ月遅れである。
「いいよー、最初の時に私が無理にでも説明するべきだったです」
と言うペカンの言葉を真に受けて一瞬、調子に乗りそうになったがギルド職員の強烈な腹パンで我に返っていた。
ペカンには悪いが、こいつらどうせ、またやるぞ。
さて俺達には蜂の巣ダンジョンでの生活費稼ぎの他に、もう一つやらなければならない事がある。
「じゃあ、その酒場が噂の出所なのね」
そう二つ名の出所だ。
逆戻しの様に辿っては見失い最近やっと掴んだのが、とある酒場の名前だった。
そろそろ雪が降り出すらしいハルティスの街。
新調した上着を着込み俺達は酒場へ向かって歩いている。




